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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第30話「病室の尋問」

「信じられないかもしれないが……俺には、少し先の自分たちに降りかかる『絶望的な未来』が、強制的に見えてしまう能力がある」


 薬の匂いと消毒液の鼻をつく匂いが薄く漂う病室の中で、レイドの掠れた真剣な声が静かに響いた。

 窓の外の雨音さえ遠ざかったような錯覚を覚えるほどの静寂が、部屋を包み込んでいる。

 ベッドを囲むガルド、リーネ、セレナの三人はピタリと動きを止め、息を呑んでレイドの一言一句を聞き逃すまいと真っ直ぐ見つめている。


「……未来が見える能力……『予知能力』ってこと?」

 リーネが信じられないように目を泳がせた。


「いや、そんな便利なものじゃない。いつどこで起きるかも分からない、断片的な視覚情報でしかない。仲間が死んだり取り返しのつかない罠に落ちたりする『最悪の光景』だけが、強烈な頭痛と共にフラッシュバックのように浮かび上がってくるんだ」


 レイドは静かに、しかし確かな説得力を持って「嘘」を混ぜ込んだ。


 『俺は五年間の地獄の未来を全て経験して、過去に戻ってきた時間の遡行者だ』。

 そんな真実をそのまま口にすれば、この狂っていく世界の運命という重圧を彼ら自身にも背負わせてしまう。

 だから、記憶ではなく「断片的な未来視の異能」という飲み込みやすい設定にすり替えた。


「例えば王都に着いた日の夜。俺の脳裏に、暗い遺跡の最下層でガルドがキメラに盾ごと噛み砕かれて死ぬ光景がはっきりと浮かんだんだ」

「……」

「だから遺跡へ行く未来のプロセスを止めるため、セレナと二人で伯爵の屋敷に潜入し、証拠を奪って依頼を潰そうとした。だが俺の行動が逆効果だった。俺たちが宿を空けたことで伯爵が焦り、お前たち二人だけを遺跡へ向かわせた……」


 レイドは悔しそうにシーツを握りしめた。


「なら、どうして最初からそれを俺たちに言わなかった!!」


 ガルドの病室の窓を震わせるほどの怒号が響いた。


「『俺の予知では明日遺跡で俺が死ぬ』って言ってくれれば、全員で安全に罠を回避するやりようがあったはずだろが!!」

「……論理的な根拠もない、ただの『予知夢を見た』なんて妄想みたいな話を信じてくれるか?」

「信じるに決まってんだろアホが!! 何年泥水すすって背中預け合ってきたと思ってんだ! お前が『逃げる』って言えば、俺は理由なんか聞かずに三秒で逃げる準備するわ!!」


 ガルドの怒号は、秘密を隠された怒りよりも、レイドの「自己犠牲」に対する悲しみだった。


「——本当に。レイド、あなたって頭が回るくせに、たまに本物の大馬鹿よ」


 リーネも、目から溢れ続ける涙を手の甲で荒っぽく拭いながら、悲しみと怒りが入り混じった顔でレイドを真っ直ぐに睨みつけた。


「あなたは私たちの命にかけて、私たちを信用していなかったのね。エルフの森の暗殺者の時も、今回のキメラの時も。全部隠して一人で先回りして、一人で命のリスクを背負い込もうとした」

「……違う。俺は……どうしようもなく怖かったんだ」


 レイドは取り繕うのをやめ、本当の弱音を吐露した。


「脳内に浮かぶ光景が凄惨すぎて。俺の介入で行動を変えたせいで、別の形でもっと悲惨な未来が起きて誰かが死んだら……そう考えたら足がすくんで、恐ろしくて、絶対に誰にも言えなかったんだよ……」


 ——その言葉だけは、嘘ではなかった。

 歴史改変の蝶の羽ばたきで世界線が変わり、未知の強敵が現れる恐怖。それを彼らに押し付けるわけにはいかなかったのだ。


「なるほどね。ようやく全て繋がったわ」


 壁際のセレナが小さく息を吐いた。


「あなたがいつも焦って生き急いでいて、不自然な先読みができた理由。そして無謀な死地に迷いなく飛び込めた理由。全て辻褄が合うわ。……恐ろしいものを一人で見てきたのね」

「……隠してて悪かったな。こんな死神みたいな力を持ってる俺のこと……化け物だと思うか?」

「するわけないでしょ。馬鹿馬鹿しい」


 セレナは呆れたように肩をすくめた。


「不確かな呪いに一人で苛まれて、自ら仲間の盾になって血塗れで満足しているだけの、世界一不器用な最強の底抜けの『お人好し』よ。軽蔑じゃなくて全力で呆れているの」

「レイド、よく聞け」


 ガルドがベッドに近づき、傷だらけの顔を至近距離まで寄せた。


「次から全部俺たちに話せ。『右に行ったら死ぬ』と見えたなら、黙って一人で塞ぐんじゃなく『右は嫌だ』って言え。証拠なんて後でいい。お前が真剣な顔でそう言うなら、俺は一生右には行かねぇで、左の壁を大盾で粉砕して進む」

「……ガルド」

「一人でカッコつけて勝手に血塗れで死んで、生き残った俺たちが喜べると思うか? ふざけんな。四人全員が五体満足で笑って帰って、初めて『勝利』なんだよ」


 ガルドの荒々しくも一切の妥協のない真剣すぎる言葉に、レイドは胸の奥が締め付けられ、喉の奥が激しく詰まった。

 こんな言葉を、一周目では一度も聞くことができなかった。ガルドが死んだ後では、もう二度と聞けないはずだった言葉だ。

 横のリーネが、さっきまで泣いていた目をこすりながらも力強く何度も頷き、セレナも腕を組んだまま静かに優しい微笑みを浮かべている。


 ——ああ、そうか。俺は狂おしいほどに間違っていた。

 一周目の絶望は俺一人で背負って相殺するものだと思っていた。

 だが彼らは、ただ一緒に隣を歩き同じ泥を被ることを望んでくれていた。


「……すまん。本当に俺が一番のバカだった。悪かった」


 熱い涙を堪えながら、レイドは心からの謝罪を口にした。


「これからは嫌っていうほどお前たちを巻き込む。全部話すよ」

「最初からそうしなさいよ。水臭いバカリーダー」


 リーネが愛おしいものを見る顔で、レイドの頭を乱暴に撫でた。


「さて。感動の告白はこれくらいにしましょう」


 セレナが表情を鋭く引き締め、マントから密書のコピーを取り出した。


「レイドが三日間寝ている間に、騎士団の総長と異端審問機関にアーロン支部長のコネで正式なコピーを回しておいたわ。あと一時間もすれば、騎士団の大部隊があのクソ伯爵の邸宅を完全包囲する手はずよ」

「……仕事が早すぎるなお前……」

「エルフの乙女に泥仕事をさせた代償は高くつくのよ。あなたは絶対安静。後の大掃除は私たち三人に任せて」

「いや、俺も行く」


 レイドが青い顔で上半身を起こそうとし、全身の傷口に「ぐっ」と顔を歪めた。


「バカ! ベッドから立てるわけないでしょ!」

「動けるさ。俺たちを餌にしようとした黒幕が首をくくる最高の瞬間に、ベッドで寝てたんじゃ虫の居所が悪くてな。やられたら何倍にもして返すのが冒険者だろうが」


 その不敵な笑みに、ガルドが豪快に笑い声を上げた。


「ダハハッ! 違いねぇ! 治癒院の先生たちには俺が土下座してやる! 行くぞレイド!」

「もう、バカ揃いね! 途中で傷が開いたら杖で殴って気絶させるからね!」


 文句を言いつつリーネがレイドの右腕に肩を入れ、ガルドが左から支えて立ち上がらせる。

 秘密の片鱗を共有し、本当の意味での信頼を経て、四人が同じ方向を向いた瞬間。


 教団の幹部への直接的な反撃の狼煙が、王都アロリアの曇り空の下で、静かに上がろうとしていた。

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