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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第26話「間に合え」

深い夜霧に包まれた王都アロリア近郊の険しい山道。

 月明かりすら届かない漆黒の中を、ギルドの厩舎から強引に引きずり出してきた二頭の黒馬が、死に物狂いの速度で駆け抜けていく。

 夜露に濡れた枝が顔を叩き、泥が跳ね上がって視界を塞ぐ。だがレイドはそのどれにも構わず、ただ前だけを見て手綱を握りしめていた。


「もっとだ! もっと飛ばせないか!!」


 レイドが血走った目で前方を睨みつけながら、馬の腹を容赦なく蹴り飛ばす。

 黒馬の口から白い泡が吹き出し、蹄を滑らせながら悲鳴のような嘶きを上げた。

 馬の首筋は汗で光り、全身の筋肉が限界の悲鳴を上げている。


「これ以上は無理よ! 馬の肺と足が潰れるわ! あなたこそ少しは落ち着きなさい! 手綱をそんな握力で握り潰す気!?」


 並走するセレナが怒鳴るように叫んだ。

 冷徹な策士であるはずの自分が、今は五年前に染み付いた「あの日の恐怖」に完全に支配されていた。

 心臓が爆発するほど早鳴りし、思考がまともに回らない。策も計略もなく、ただ「間に合え」という一念だけが全身を突き動かしている。


 ガルドとリーネが、死の罠が口を開けて待っている遺跡の最奥へ向かっている。

 俺がいなければ、一周目と全く同じようにガルドは魔獣に食い殺される。


(間に合え……! 間に合え……! 頼むから数十分だけでも俺の時間に間に合ってくれ……!)


 一周目の記憶では、ガルドが殺されたのは遺跡に入ってからおよそ二時間後だった。

 だが歴史は変わっている。キメラの覚醒が前倒しになっている以上、猶予はもっと短いかもしれない。

 もし間に合わなかったら——その先を考えることを、レイドは拳を握りしめて拒否した。


 二人の乗る馬が遺跡の入り口に到着したのは、東の空がわずかに白み始める夜明け前だった。


 山肌にぽっかりと口を開けた苔むした古い石造りの門。

 周囲のぬかるんだ地面には、先頭の馬車の轍の跡と、真新しいブーツの足跡が二つ、遺跡の奥の闇へと続いている。


「……ガルドの大盾を背負った大股な足跡と、リーネの軽い靴の足跡。間違いないわ、二人はすでにこの中に入ってしまっている」

「行くぞ。一秒も立ち止まるな」


 息が上がって倒れ込む馬を容赦なく乗り捨て、レイドは長剣を抜き放ちながら遺跡の入り口へと飛び込んだ。


     ◇


 古代遺跡の内部は、侵入者を阻むために作られた複雑怪奇な死の迷宮だった。

 壁面に群生する不気味な死者苔が青白い光で通路を照らし、空気はカビと腐敗と古い血の匂いが充満して重く淀んでいる。

 足元の石畳はところどころ崩れ落ち、その隙間から冷たい地下水が染み出していた。


「レイド、この遺跡は古代のトラップとアンデッドの気配が充満しているわ。慎重に索敵しないと……!」


 セレナが弓を構えて警告するが、レイドの足は一歩も止まらなかった。


「罠の配置と最短ルートは全部最初から俺の頭に入ってる! 俺の踏んだ場所と歩幅だけを正確にトレースしてついてこい!!」

「は……?」

「入り口から三歩目の右のタイル、次は左側の柱の壁沿いに二歩、中央の窪みは踏むな、ここは罠を飛び越えるジャンプだ!!」


 レイドは一切の躊躇もなく、恐るべきスピードで死の迷宮を駆け抜けていく。

 感圧式スイッチ、壁から飛び出す毒矢、底なしの落とし穴。

 その全てを、初めから『正解の分かっているパズル』でも解くかのように一切起動させることなく最短距離を突っ走る。


 ——一周目の記憶の完全トレース。

 ガルドが死んだ後、半ば発狂したレイドが数ヶ月かけて何度もこの遺跡に潜り、罠の全てを頭蓋の裏に焼き付けた『血塗られた狂気のトラップマップ』の完全再現だった。


「右の分かれ道だ! そこから先は大空洞へ落ちる螺旋階段がある!」

「本当にどうなってるのよあなたの頭の中は……っ!」


 セレナは戦慄を覚えながらも、エルフの驚異的な身体能力でレイドの足跡を狂いなくトレースし、ピタリと食らいついていく。


 下層へ進むにつれ、巨躯のストーンゴーレムや教団が呼び起こしたアンデッドの群れが通路を塞いだ。

 骨の剣を振りかざす骸骨兵が五体、その後ろにゴーレムの巨体が二体。通常なら戦闘態勢を整えて慎重に対処すべき敵の布陣だ。


「邪魔だ邪魔だ邪魔だァッッ!!!」


 レイドは歩みを止めず、すれ違いざまにゴーレムの関節のコアだけを一刀両断で斬り砕き、アンデッドの群れには長剣を盾に身体ごと突っ込んで強行突破していく。

 セレナも銀の矢を連続で放ち、追ってくる敵の頭部を次々と撃ち抜いて支援した。


(急げ、急げ、急げ、遅れるな、俺!!)


 レイドの脳裏に、ガルドが魔獣の爪で引き裂かれる光景が何度もフラッシュバックする。

 歴史が狂い、キメラの目覚めもガルドの死のタイミングも全てが想定より前倒しになっている可能性が高い。


「……レイド! 最下層の方向から凄まじい魔力反応が上がってきてるわ! 桁違いよ!」

「最下層の大空洞だ! 教団の『あいつ』がもう目覚めていやがる! ガルドたちに接触してるはずだ!」


 最後の階段を三段飛ばしで飛び降りると、前方に闘技場の入り口のような巨大な鋼鉄の両開きの扉が見えた。

 だが、その扉は内側からの凄まじい衝撃で無惨に破壊されており、分厚い鋼鉄が紙のように引きちぎられている。

 その奥から、巨大な獣の狂った咆哮と、爆発魔法の大音量、そして硬い金属がぶつかり合う絶望的な死闘の爆音がハッキリと響いてきた。


「ガルドォォォォォォッ!! リーネェェェェ!!」


 レイドは喉が裂けよと叫び、破壊された扉の残骸を蹴り飛ばして、最下層の広大な密閉空間へと一切のブレーキをかけず飛び込んだ。


 天井が数十メートルもある、古代の地下闘技場。

 壁面には風化した観客席の遺構が層になって並び、かつてはここで何かの儀式が行われていたのだろう、中央には巨大な五芒星の紋様が床に刻まれている。

 その広大な円形のアリーナの中央で、戦闘による土煙が猛烈に上がっていた。

 柱が何本もへし折られ、床には巨大な爪痕が無数に走り、黒い魔力の残火がところどころで青白く燃えている。


「リーネ!! 詠唱の途中で顔を上げるな! 俺の後ろへ下がれェッ!」


 土煙の向こうから、一周目と全く同じ悲痛なガルドの怒号が響いた。

 直後、家よりも巨大な狂気の質量を持った『何か』がガルドの大盾に隕石のような衝撃で激突した。


 ガァァァァァンッ!!!


 絶対に壊れないはずの大盾が真ん中からひしゃげ、百キロ超のガルドの巨体が十メートル近く弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「ガルドォォォッ!!」


 リーネの絶望の悲鳴が広い空間に響き渡った。


 土煙が晴れ、そこに「絶望そのもの」が姿を現した。


 全長五メートルを超える異形の合成獣キメラ

 獅子の頭と前足、魔力を帯びた巨大な山羊の胴体、猛毒の尾は巨大な黒い大蛇。背中からは教団の象徴である『虚無の黒い瘴気』が悪魔の翼のように渦巻いている。


 『暴食のキメラ』。

 一周目で、ガルドの大盾ごと胴体を食い殺した悪夢の怪物。


 レイドが広場に飛び込んだその瞬間。

 獲物を蹂躙したばかりのキメラの三つの頭が、壁際で崩れ落ちたガルドと、彼を庇うように杖を突きつけるリーネへ。

 確実なトドメを刺すために向かい始めていた。

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