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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第18話「影の主」

白い仮面の男が、その長身に見合わぬほど無造作に、手に持った血色の巨大な『大鎌』をスッと虚空で一度だけ軽く振るった。

 シュォォォォォォンッ……。

 という不気味な風切り音と共に。その大鎌の刃から高密度の純黒の魔力の波動が全方位へ漏れ出し、先ほどまで広場の石畳にこびりついていた三十体分の暗殺者たちの残骸の瘴気を、 마치(まるで)掃除機のように一息に刃の腹へと吸い上げてしまったのだ。


 たったそれだけの、指先一つの動作。

 だが、その男の足元から放たれる質量を持った絶望的な魔力の波動が、一瞬にして広場全体の空気を完全に氷点下まで支配し、ガルド、リーネ、セレナの三人の顔が、一切の身動きが取れなくなるほどの恐怖に蒼白に凍りついた。


「おい、冗談だろ……次元が違いすぎる。ただそこに立って息をしてるだけで、足がすくんで指一本動かせねぇ。バケモンどころじゃねえぞ、あいつ……」と、今までどんな巨大な敵にも一歩も引かなかったガルドの奥歯が、カタカタと情けなく鳴る。

「あんな禍々しい大鎌を、魔力ごと全力で振るわれたら……私の展開できる最大威力の多重防壁なんて、薄紙みたいに一瞬で両断されるわ……ッ」

 杖を握るリーネの両手も、本能的な死の恐怖で小刻みに震えていた。


 レイドは、滝のような冷や汗を全身から流しながら、男の仮面の奥の瞳と真っ直ぐに対峙していた。

 教団の大幹部、『魔女の刃』。

 今の歴史において、その男の名前が意味するとてつもない絶望の重さを正確に理解しているのは、世界中でレイドただ一人だけだ。


 かつて人間という種族を滅亡の淵へと追いやった教団の頂点——『五柱』と呼ばれる神の如き実力者たちの一人、「虚ろの魔女」の直属の右腕であり最大戦力である大幹部。

 レイドの一周目の記憶において、彼らのような最高位の幹部クラスの化け物たちが歴史の表舞台に実際に姿を現したのは、人間側が完全に疲弊し切っていた五年に及ぶ血みどろの戦争のさらに最終盤、人類が滅亡する決定的な決戦の直前だった。

 こんな、物語の最序盤ともいえる最初期のタイミングに現れるはずなど、本来のレールであれば絶対にあり得ない。


 俺が、苗床を二つも強引に破壊したことで、歴史のレールを無理やり大きく変えてしまった『バタフライ・エフェクトの代償』の集大成が。今、こうして静かに、最悪の死神となって目の前に立っているのだ。


「ガルド、リーネ、セレナ。よく聞け。……あいつと真っ向から四人で真正面からやり合ったら、三分持たずに俺たちは全滅するぞ」

「……タイマンで俺一人でいけば、十秒で完全にただの肉塊にされる」

 レイドは、焦りも諦めもなく、ただの冷徹な事実だけを静かな声で仲間に告げた。


「逃げるの? でもここは里のど真ん中よ。私たちが逃げれば、後ろにいるエルフの家族たちが皆殺しにされるわ」セレナが、震える腕で白銀の弓を構えたまま悲痛に問う。


「俺たちが全員で背を向けても逃げ切れる速さじゃない。——俺が、単独で『囮』になって時間を稼ぐ」

 その言葉に、三人が同時にハッと息を呑んだ。


「俺があいつの懐ギリギリの射程距離に飛び込んで、全ての攻撃を避けて俺一人にヘイトを引きつける。どんな一流の戦士でも、本気で連撃を放った終わりには、必ず呼吸を整えるための『一番大きな隙』が生じる瞬間がある。それが奴の唯一の弱点になる」

 レイドは剣を両手で構え、目を血走らせて続けた。

「その間、お前たち三人はいくら俺が死にかけても、絶対に俺を庇おうと手を出すな。俺が奴の懐で『合図』を出したそのたった一瞬にのみ、お前たち三人の放てる最大火力の全ての一点を、同時に奴の体に叩き込むんだ」


「馬鹿言えッ! あんなデタラメな魔力の大鎌、カスッただけでもお前の首がコンマ一秒で物理的に飛ぶぞ!」ガルドが怒鳴る。

「大丈夫だ。俺はお前たち三人の、今までの戦いで見せてくれた底力を心の底から信じてる。だから……お前たちも、俺が必ず奴の攻撃を避け切って生き残ると信じて、待っててくれ」


 過去の記憶と手回しだけで盤面を支配し、仲間を安全な場所に置いて被害を抑えるのが、これまでのループの中で俺が培ってきた、臆病な『策士』としての流儀だった。

 だが、今のこの仲間の泥臭い底力と熱い信頼の絆を知ったからこそ。俺は今、初めて自分のたった一つの命を、何の後悔もなく彼らに完全に乗せて預けることができるのだ。


「……分かった。でも、もしお前の首にミリでも刃が届きそうになったら、作戦なんか全部無視して俺がこの大盾ごとお前の前に投げ飛んで、絶対に庇うからな」

 ガルドのその言葉に、レイドは短く力強く頷くと。

 世界で最も絶望的な強さを持つ大幹部の正面へ向けて、たった一人で一直線に猛突進を開始した。


「本当に愚かな小虫だ。自ら我の刃の錆になりに来るとは」

 仮面の男が冷酷に嘲笑いながら、まるで小さな小枝でも振るうかのような力みのない片手の動作で、血色の大鎌を鋭く横に薙ぎ払った。


 ズオォォォォォォォォォォッ!!

 空間の概念そのものを刃の跡として切り取るかのような、巨大な黒い刃跡が空中に一瞬顕現する。

 レイドは、視覚ではなく肌に突き刺さる殺気だけを頼りに、肉体の限界を超えた極限の低い前傾姿勢で、首を刈り取ろうとした刃の下わずか数センチを辛うじて滑り抜ける。ザンッという音と共に、レイドの頭髪の先端が数本黒く焼け焦げて斬り飛ばされた。手首のわずかな返しだけで、あの異常な質量の大鎌の軌道と速度を完全に自在に操り切っている。


「ほう。少しだけ、絶望のダンスが踊れる人間のようだな。なら、これはどうだ?」

 男が手首をくるりと返し、今度は一瞬のタメからの、上段からの恐ろしい速度の唐竹割りが振り下ろされる。

 ドゴォォォォォォォォンッ!!

 レイドは真横への最小のステップだけで、ミリ単位の致命傷の回避を行う。大鎌の刃が、硬い石畳の広場をまるで柔らかいケーキのように深く抉り取り、巨大なクレーターを作った。


「逃げて飛び回るだけか? ならば、ここでお前たちを一人残らず確実に刈り取って一まとめの塵にしてくれる!」

 男の殺意が一気に増し、大鎌の連撃のスピードがさらに理不尽にもう一段階と加速する。

 横薙ぎ、下からの掬い上げ、首を狙うフェイント、そして防ぐことのできない唐竹割りという、回避不能の死の連舞の嵐。


 レイドは自身の脳の血管をちぎらんばかりにフル回転させ、五年間で得た「殺し合いの極限の経験値」の全てを総動員して、相手の肩の筋肉の微細な沈み込みや、視線の動き、手首の痙攣の先から死の軌道をコンマミリの精度で予測し、身体をねじり、転げ回り、刃の隙間へと執念で飛び込み続ける。

 ガキィィィィィィィィンッ!!

 どうしても体勢的に回避しきれない範囲の一撃を、長剣の腹を斜めに合わせて強引に受け流す。その瞬間、レイドの骨の髄まで致死量の衝撃と痺れが走り、剣を思わず取り落としかけるが、親指の爪が剥がれて血を吐くような凄まじい執念の握力で柄を握り続けた。


 肺が悲鳴を上げ、息が完全に切れ、酸欠で視界がチカチカと点滅する。

 このままでは確実にジリ貧でミスをして殺される。だが、奴のあの傲慢な性格なら。必ず「逃げ回る小虫」を、一撃で、しかも周囲に恐ろしさを見せつけるために確実に派手に仕留めるための、大ぶりの大技を振ってくる瞬間がある。

 その傲慢さゆえに必ず生じる、最大のタメと硬直。それこそが、この絶望の中で俺たちが生き残るための、唯一の一筋の勝機だ。


「チョロチョロと……目障りな虫めッ!! ここで一切の塵となって消し飛べ!!」

 ついに、レイドの回避劇に苛立ちを露わにした男が。大鎌を両手でしっかりと握り直し、遥か頭上の天へと大きく振りかぶって掲げた。

 ギュルルルルルッという音と共に、周囲の空気を歪めるほどの禍々しく高密度の魔力の渦が、大鎌の刃の先端に急激に収束していく。広場全体を跡形もなく吹き飛ばす、回避不能の超広範囲処刑の一撃。


(——来たッ!! ここだッ!!!)


 大鎌が振り下ろされる、その直前の一瞬の絶対のタイミング。

 レイドは、巨大な爆発から外へ逃げるどころか。逆に、男の身体のど真ん中——大鎌の刃の遠心力が絶対に届かない、手元である懐の『ゼロ距離の絶対安全地帯(死角)』へ向けて、残った両足のバネの全速力で、自ら弾丸のように飛び込んだのだ。


「何——!?」

 本能で広場の外へ逃げると完全に予測して大技を乗せていた男は。予期せぬ自殺行為ともいえるゼロ距離へのレイドの逆突入に、一瞬だけ驚愕し。大鎌の軌道を内側に修正しようとして、無防備な自らのモーションをコンマ一秒だけ「ピタリ」と硬直させた。


「今だあああああああぁぁぁぁッッ!!!」

 レイドが喉から血を吐きながら、絶叫の合図を響かせる。

 その瞬間。レイドのギリギリの回避を信じ、弓や杖を震える手で構えたまま、今まで極限まで魔力と力のタメを作って待機していた仲間たち三人の、渾身の最大火力の全てが。

 完全に無防備に硬直した、最悪の教団大幹部の身体に向かって、一斉に一筋の光となって解き放たれた。

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