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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第10話「精霊の嘆き」

「——俺は、あなたたちエルフ全員を死の運命から『助けに』来ました」


 鬱蒼とした森の入り口に、レイドの決意の言葉が落ちた。


「ハッ、下等な人間が誇り高き我々を助けるだと? 森の木々を無差別に伐採し、神聖な結界を汚してきたのは人間ではないか!」

 偵察兵のリーダーであるカイルが憎悪を込めて叫ぶ。

 だが、セレナの威厳を持った声が彼を制した。

「根拠を述べなさい、人間の剣士。私たちを『何から』助けると言うの?」


「進行形でこの森全域を蝕んでいる、マナの枯渇からです」

 レイドは弓を向けられたプレッシャーを無視し、セレナの金色の瞳を見据えた。

「俺たちは数日前、東の辺境樹海で大地の精霊脈を食い殺す『呪詛の黒い球体』を破壊しました。それは明確に作られた呪いの兵器です」


「——『虚ろなる苗床』……!」

 セレナの唇から、驚きの言葉が零れ落ちた。


 (俺が五年の地獄の末に知った教団の装置の正式名称を、彼らは伝承レベルですでに知っているのか)

「ティルナノグの古代の碑文に記された『世界の終焉の始まりを呼ぶ種子』……。あなたたちが本当にその装置を壊したというの?」

「ああ。だが、あんな巨大な装置が一つだけのはずがない。この大樹海にも『球体』が複数仕掛けられている可能性が高い。放置すれば数ヶ月以内に森は枯死し、エルフも全滅する」


 レイドの宣告に、巨大な木々たちまでが悲鳴を上げるようにざわめいた。


「武器を収めなさい、カイル。三人を保護の元で里の中枢へ案内するわよ」

「セレナ様! 掟に背いて人間を不可侵の聖域に招き入れるなど暴挙です!」

「掟よりも、森の精霊の悲鳴と私たちの命の方が優先よ」

 セレナは反発するカイルを冷徹に退けた。「一年にわたる原因不明の異変に対する、彼らは『唯一の希望の光』かもしれないのだから」


 こうして彼らは、例外中の例外の待遇で大樹海ティルナノグの中枢層へと足を踏み入れた。


     ◇


 森の深層は、木々自体が淡く青色に発光するマナの超高密度空間だった。

 だがその光はかつての純度を失い、病人の咳のように濁って明滅している。

「約一年前から外縁部から唐突に立ち枯れが始まり、少しずつ内側へ浸食してきているの」

 先頭を歩くセレナの横顔には、深い徒労感と無力感が滲んでいた。

「最高位の術師たちを総動員しても、汚染の『核』だけが見つけられないのよ……」


「なら案外、精霊の声を聞くエルフよりも、魔力を持たない『人間の肉眼』の方が簡単に見破れるかもしれません」

 レイドが言葉を返すと、セレナが足を止めた。

「装置の製作者は、精霊術師たちの認識を欺くカモフラージュの魔法を施しているはずです。だからマナの流れを追うエルフの目では見えない。でも、土の渇きや植生の不自然な枯れ方など、純粋な物理的違和感を頼りにする人間の目なら、死角を突けるはずだ」


 理路整然とした説得に、セレナの瞳の奥に「突破口」という一条の希望が宿った。


「……あなた、普通の剣士の顔をしているのに、まるで数百年を生きた賢者みたいね。変な人間」

「よく言われます」


 背後で見ていたリーネが、不機嫌そうに杖の先端でガルドの脛の防具を蹴った。

「いてえな! なんだよりーネ!」

「なんかあの二人、今日初めて顔合わせたのに長年連れ添った夫婦みたいに息が合いすぎてて、すっごく腹立たしくない?」とリーネが恐ろしい小言を呟いた。


     ◇


 やがて、すり鉢状になった巨大な盆地へと出た。

 中央には天を直接支える『超巨大な聖樹』がそびえ立っていた。白亜の空中都市の施設が広がり、精霊の光が飛び交う隠れ里『ティルナノグ』の全貌だ。


「すっげぇ……信じられねえ……」

「言葉が出ないわ……」

 息を呑むガルドとリーネ。

 だがレイドだけは、一切の感嘆の声も上げず、光景を食い入るように焼き付けていた。


 ——ここは一周目で見た、教団の禁呪により数日燃え続け、幾千ものエルフたちの黒焦げの死体が転がっていた地獄の消滅の地。

 だが今はまだ生きて、光り輝いている。今度こそ絶対に俺が守り抜く。


「……どうして、そんな『泣きそうな辛い顔』をして私たちの里を見ているの?」

 不意に、至近距離からセレナが顔を覗き込んできた。

「まるで、絶対に失いたくなかった『大切な探し物』を無事に見つけたような痛ましい顔をして」

 核心を見透かされ、レイドは息苦しさを覚えた。

「……今は説明できません。でも、全てが終わってこの森を救えたら……その時は俺の全てをあなたに話します」

「……いいわ。その真剣な目を見れば、からかって嘘をつく男じゃないって分かるから。今は信じてあげる」

 セレナは柔らかく微笑んで歩き出した。


「ちょっと、レイド」

 背後から、リーネの恐ろしく低い声が響いた。

「……あのセレナさんって、あなたにとって『どういう存在の特別な人』なの? あとで宿に泊まったら、絶対に全部吐かせるからね。覚悟しなさいよ」

 激しく嫉妬と疑念を燃やして歩いていくリーネの背中を見て、レイドは大きなため息をついた。


     ◇


 聖樹の麓に設けられた議事堂へ向かう途中。

 レイドの背筋に突然、巨大な氷の刃を突き立てられたような強烈な悪寒が走った。


 ビリッ、という空間を歪めるようなノイズ。

 盆地の南東から感じる『凶悪な悪意』の気配。

 (違う、設置された装置から漏れる魔力じゃない。明確な殺意を持った何かが、あそこで動いている気配だ……!)


 瞬間、レイドの脳裏に最悪のシナリオが組み上がった。


 教団の実働部隊の刺客だ。

 俺が予定を無視して森で『球体』を壊したことで、敵は計画を前倒しし、化け物部隊による『エルフの里の直接的な武力制圧』という強硬手段に打って出たのだ。

 本来なら三ヶ月以上先に訪れるはずだった里の破滅の運命が、今まさに数日後という目前に迫ってきている。


 だが、レイドは絶望しない。

 一週目と違い、今は俺が、ガルドとリーネが、そしてセレナがいる。想定外の刺客なら、最高の『仲間の力』を集結して全て叩き潰すだけだ。


「セレナ。長老会にどうしても強引に頼んでほしいことがある。森の呪いの調査許可だけじゃない。……今すぐ全エルフを総動員して『武装防衛網と結界の最大強化』に大至急当たってほしい。俺たちを殺すための敵の侵略の牙が、もうすぐそこの森まで迫っている」

「はあ!? なにを根拠に妄想を……!」

「俺の、世界一当たる『最悪の勘』です」


 呆れて反論しようとするセレナに対して、背後の二人が一歩前に出た。

「悪いこと言わねぇ姉ちゃん、レイドのこの顔の勘に逆らうと大抵俺たち死にかけるんだよ」

「水晶球を使う占いより百倍精度が保証された嫌な勘よ」

 と力強く証言する。


「……分かったわ。私が責任を持って長老に進言する。ただし事件が解決した後……その『異常な勘の正体』について全て話してもらうわよ」

「ええ。必ず約束します」


 歴史の歯車が軋みを上げて大きく狂い出し、一周目の記憶すら通用しない予測不能の脅威が迫り来る中。

 四人の背中が、世界の理不尽な終焉に逆らう大舞台へ向けて、静かに議事堂の扉へと歩みを進めた。

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