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無理しな ケガしない ソロはしない 僕の異世界スローライフ   作者: 異世界でもコーヒー飲めますか?
僕の珈琲ライフ
3/16

スコンで名を刻む男になりたい

「……ふぅ。やっぱり、喧騒から離れて飲むコーヒーは格別だね」

クエス・ノーランは、カウンターの端でカップを傾けながら、店の外の様子をぼんやりと眺めていた。通りを行き交う冒険者たちの足取りは速く、誰もが武器の調子を確かめたり、ポーションの袋を厳重にチェックしたりしている。街全体が、ピンと張り詰めた弦のような緊張感に包まれていた。

「ねぇ、リーザちゃん。今日はなんだか、みんなピリピリしてるね。まるで嵐でも来るみたいだ」

リーザがカウンターを拭きながら、あきれたように肩をすくめる。

「当然でしょ。クエスさん、昨日のギルドの告示見てないんですか? 今日は久々の大物狩り……北の森に現れた『双頭の地龍ダブルヘッド・アースドラゴン』の討伐作戦ですよ」

「地龍……。聞くだけで肩が凝りそうな名前だ…

だけど………まっいいか……」


「ギルドで三十人ぐらいの奴を募集してたわよ。王都の騎士団からも援軍が来るって噂だし。ねぇ、クエスさんも参加したら? これだけ人数がいれば、あなたの言う『ソロはしない』には当てはまらないでしょ?」

リーザがからかうように言うと、クエスは即座に、それこそ龍のブレスを避けるような素早さで首を振った。

「とんでもない。僕はやめとくよ。確かに人数がいれば『ソロ』じゃないけれど、残りの二つ……『無理』と『ケガ』に思いっきり抵触するからね」

「三十人もいれば、クエスさん一人くらい後ろで隠れててもバレないんじゃない?」

「いやいや、そんな甘いもんじゃないさ。地龍が尻尾をひと振りすれば、そこら中が瓦礫の山だ。そんな場所でマッタリなんてしていられないよ。それに……」

クエスは、カップに残った最後の一滴を飲み干すと、寂しげに笑った。

「それに、僕は足手まといになるだけさ。僕にできるのは、こうして安全な場所で、みんなが無事に帰ってきて美味しいコーヒーを飲めるように席を空けておくことくらいだよ。……まあ、一番の理由は、僕が龍の鱗よりもコーヒー豆の産地の方が気になるからなんだけどね」

「もう、相変わらずですね」

リーザが笑って新しいおしぼりを持ってきた。

「いいんだ。僕は、勇者になれなかったんじゃなくて、勇者にならない道を選んだんだ。魔王を倒して歴史に名を刻むより、今日このカフェで一番美味しい焼き立てのスコーンを食べた男として、自分の記憶に名を刻みたいんだよ」

クエスは財布から数枚の硬貨を取り出し、カウンターに置いた。一週間の休暇は、まだ始まったばかりだ。

「さて、次は路地裏にできたっていう『黒猫亭』の深煎りを試してこようかな。あそこなら、龍の鳴き声も聞こえないだろうしね」

そう言ってクエスは、腰のナイフを護身用(あるいはパンを切る用)に軽く叩き、軽やかな足取りで店を出た。命懸けの戦場へ向かう冒険者たちの背中とは逆の方向、芳醇な香りが漂う方へと、彼は歩みを進める。

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