表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理しな ケガしない ソロはしない 僕の異世界スローライフ   作者: 異世界でもコーヒー飲めますか?
機工乙女の夢
15/16

パン・カールの思い

三日後の午後。約束通り、クエスは『銀の匙』のいつもの席で、約束された「報酬」である食後のコーヒーを啜っていた。

そこへ、巨大な鞄を背負い、オレンジ色の髪を少し乱したパンが息を切らして飛び込んできた。

「お待たせしました、クエスさん!……これ、見てください!」

彼女がテーブルに置いたのは、直径20センチほどの球体状の機械。クエスの助言通り、外殻には三層の魔力冷却膜が施され、内部からは微かな駆動音が聞こえる。

「……へぇ。本当に形にしたんだ。仕事が早いね、君」

クエスは感心したようにカップを置いた。だが、パンの表情は真剣そのものだった。彼女はクエスの目を真っ直ぐに見つめ、堰を切ったように語り始めた。

「クエスさん。……どうして私が、あんなに必死に『楽をさせる道具』を作っているか、不思議じゃありませんでしたか?」

「んー、まあ。僕みたいにダラダラしたい同類かなって思ってたけど」

「それもあります。でも……本当は、怖かったんです」

パンは、自分の細い指先をぎゅっと握りしめた。

「かつて私を助けてくれた魔導師がいました。彼は希代の天才と呼ばれて、溢れるほどの魔力を持っていた。でも、私一人の命を守るために……その魔力を使い果たして、視力を失ったんです」

クエスが、わずかに目を細める。

「彼は笑って『無理をしすぎた』と言いました。でも、私は……その苦笑いが、ずっと胸に刺さったままなんです。もし、彼にもっと効率よく戦える道具があれば。魔力を無駄に消費せず、座ったまま安全に戦える手段があれば。彼は今も、この青い空を見ることができたはずなんです」

パンの声が、少しだけ震える。

「だから、この『オールレンジ攻撃ユニット』は、ただの武器じゃないんです。これは、**『優しすぎる人が、無理をして壊れてしまわないための盾』**なんです。魔力がない私みたいな子が戦うためだけじゃない……クエスさん、あなたみたいに凄まじい知識と力を持っている人が、コーヒーを飲む時間を奪われず、ケガもせず、笑って生きていくためのものにしたいんです」

パンの言葉は、クエスの心の奥底にある「無理をしない」という哲学の、さらに深い場所にある孤独に触れたようだった。

「……君の思いは、よくわかったよ」

クエスはふっと息を吐き、冷めかけたコーヒーを最後の一口まで飲み干した。

「重たいね。コーヒー一杯の代償としては、ちょっと重すぎるくらいだ」

「……すみません、変なこと言って」

「いや、嫌いじゃないよ。……いいだろう。その実験、僕が責任を持って最後まで付き合う。ただし、君も約束して。実験中に絶対『無理』はしないこと。機工士つくりてが倒れたら、救われるはずだった誰かも救われないからね」

クエスは立ち上がり、珍しく自分から鞄を肩にかけた。

「さあ、行こうか。君の『始まり』の実験場へ。……一週間分のコーヒー代、きっちり働かせてもらうよ」

パンの顔に、今日一番の輝かしい笑顔が浮かんだ。

二人は店を後にし、街の外へと向かう。

それは、かつて誰かが失った「光」を、技術と魔法で取り戻すための、新しい冒険の第一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ