偶然は必然の出会い!
普段は、効率と数式を愛する機工士と、怠惰とコーヒーを愛する魔導師が交わることなど、まずあり得ない。しかし、その日は街中に、ある「聖なるフレーズ」が書かれた看板が掲げられていた。
『コーヒー、再開しました』
その一言に導かれるように、クエス・ノーランはふらふらと、パン・カールが居るカフェへと吸い寄せられていった。
「ふぅ……。設計はこんなもんだな」
パンは大きく伸びをして、テーブルの上に散乱した設計図を見渡した。書き込まれた数式の海。理論は完璧だ。だが、現実はいつも残酷な壁を突きつけてくる。
「あとは、この無茶な実験に付き合ってくれる、暇……もとい、腕のいい魔導師を見つけるだけ。……って、そんな都合のいい人、見つかるわけないよね。みんな手柄を立てるのに必死なんだから」
彼女はハーブティーを一口すすり、眉を寄せた。
「やっぱりギルドに依頼を出すしかないかな。でも、どのくらい支払えばいいんだろう……。資材代で貯金はカツカツだし、もし断られたら、この『オールレンジ魔法展開機』もただの鉄屑になっちゃう」
彼女がため息をつきながら、開いたままの設計図を指先でなぞっていた、その時だ。
「……お隣、いいかな? 他が混んでいてね」
死んだ魚のような目をした青年が、一客のコーヒーカップを大事そうに抱えて、パンの向かいの席に音もなく座った。クエスだ。
「あ、はい。どうぞ……」
パンは反射的に設計図を端に寄せたが、クエスはそんなものには目もくれず、ただ、うっとりとコーヒーの香りを吸い込んでいる。
「あぁ……この香り、この色。三日ぶりの再会だ。君のために、僕は龍に食われ、土砂降りに打たれたんだよ……」
「……あの、大丈夫ですか?」
パンは思わず声をかけた。目の前の男から漂うのは、尋常ではない「やり遂げた男(ただし疲労困憊)」のオーラだ。
「ああ、ごめん。独り言だよ。……ところで、君。その紙に書いてある数式、冷却魔法の術式回路だよね?」
クエスは、コーヒーを一口含んだまま、パンの設計図をチラリと見た。
「え……? わかるんですか?」
「専門じゃないけどね。でも、そこまで冷却を重ねるなら、もっと効率のいい『熱伝導結界』を三層に分けて張ればいいのに。そうすれば、魔導師の負担は今の半分以下……いや、理論上は指先一つで制御できるはずだよ。無理もケガもしなくて済む」
パンは、持っていたペンを落とした。
その一言は、彼女が数日間悩み抜いていた計算の「正解」を、コーヒー片手にあっさりと突きつけるものだったからだ。
パンは、目の前の「暇そう(かつ、最高に腕の良さそう)な魔導師」を、逃がすまじと凝視した。
「……あの! もしかして、今お暇ですか!?」
「えっ? いや、僕はこれから一週間、一歩も動かずにマッタリする予定なんだけど……」
「『楽をしたい』っていう目的は一緒です! お願いします、私の実験に付き合ってください!」
コーヒーの再開が、二人を引き合わせた。
無理をしないための最強の武器を作りたい少女と、無理をしたくない最強の魔導師。
この出会いが、世界の戦い方を根底から変えてしまうことを、今の二人はまだ知らない。




