魔導機工が 僕のスローライフ
雨上がりの柔らかな日差しが、街道沿いの野原を照らしている。
そこに、一際鮮やかなオレンジ色のショートボブを揺らしながら、一人の少女がしゃがみ込んでいた。
「よしよし、この薬草もいい具合に魔力を吸ってる……。あ、こっちの花も可愛い」
彼女の名前は、パン・カール。
特定の組織に属さない「ノラの魔導機工士」だ。
通常、魔導機工士といえば、騎士団や国のお抱えとなって兵器を作るのが一般的だが、彼女は違った。
彼女が作るものは、同業者たちから見れば「異端」であり、同時に「革命的」でもあった。
パンは摘み取った花を肩にかけた大きな鞄に押し込むと、その足で街の片隅にある静かなカフェへと向かった。
カランカラン、と控えめな鈴の音が響く。
お気に入りの窓際の席に陣取ると、彼女は注文したハーブティーが届くのも待たず、テーブル一面に分厚い羊皮紙を広げた。
「ええっと……ここの術式回路を三列並列にして、魔力伝達効率を数パーセントまで引き上げれば……」
彼女の手が、魔法のペンを走らせる。白紙だった羊皮紙は、瞬く間に複雑な設計図と書き殴られた数式で埋め尽くされていった。
彼女が導き出そうとしているのは、既存の魔導具の概念を覆す代物だ。
「今の討伐隊は、みんな苦労しすぎだよ。魔法使いは一発撃ったら休憩、戦士はボロボロになるまで前線……。
もっと、みんなに『楽』をさせてあげたい。魔導師たちが座ったまま戦えるくらいにね」
彼女が設計図に描いたのは、小さな自律飛行型の魔導ユニット。
これが完成すれば、一人の魔法使いの魔力を増幅し、複数の属性魔法を同時に、かつ全方位から掃射することが可能になる。
「これができれば、地龍相手に一人で結界を張って泣きそうになってる魔法使いさんだっている必要がなくなるはずなんだから」
パンは、ふふん、と満足げに鼻を鳴らした。
彼女の「楽をさせたい」という情熱は、ある意味で、
「マッタリしたい」と願うクエス・ノーランの哲学と、奇妙なところで共鳴していた。
「さて……あとは、この莫大な熱量を冷却するための『冷感触媒』が足りないんだよね。……誰か、氷系の魔法にめちゃくちゃ詳しくて、ついでに暇を持て余している都合のいい魔法使いさん、どっかに落ちてないかなぁ?」
パンは、窓の外をぼんやりと眺めた。
その視線の先には、偶然にも(あるいは運命的に)、二日ぶりのコーヒーを求めてカフェへと向かうクエス・ノーランの姿があった。




