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【短編小説】Luckプラック№1人生

掲載日:2025/12/17

 眠れない夜がある。

 あるだろ?あるんだよ。

 俺には必殺技が無い事を考えると眠れない。

 そう言う時は眠れないだろ?

 眠れないんだよ。

 そうだ、俺には必殺技が無いからな。

 世間にはまだバレていないがこれは由々しき事態だ。

 バトルを仕掛けられたら俺に勝ち目はない。

 走って逃げる事で一時的にどうにかする事は出来ても、一度バレたら永遠に逃げ続ける事になる。



 負け犬だ。



 必殺技はなんでもいい。

 痰壺を飲むとか電車を止めるとか、バス停を武器にして闘うんでもいい。

 パトカーとか飛行機を燃やすとか、いつでもどこでも勃起できるとか、なんだっていい。

 俺にも必殺技が欲しい。

 冷たい闘争領域に出てからと言うもの、俺はその領域の中で闘争を避け続けてきたがもはや限界だと思う。



「一番を目指せ」と父親は言った。

 何も巨人の星を目指せと言う事ではないらしいが、逆に難しいのではないかと今になると思う。

「全て出来る必要は無い、だがどんなに色々できなくてもひとつだけ必殺技を持て」そう言われて生きてきた。

 しかし俺はその必殺技を身に着ける事が無かった。



 一番とは何か。

 一等とは何か。

 最強や最速にはなれない。

 最恐にも最狂にもなれない。

 世界はおろか、東洋太平洋も日本も出られない。

 市区町村レベルですら越えられない。ストリートですら怪しい。

 このマンションすら出られるかも分からない。



 俺は俺に訊く。

 お前は自問自答してるか?してないだろうな。

 自問自答しろよ。

 俺は俺に訊く。

「何の一番なら良いんだ」

「なんだって良い、お前に訊けば何でも知ってる、それでもいい」

「なんでも、知ってる?」

「AVでもアイドルでもバイクでもモツ煮込みでもなんでもいいんだよ」

「そんな事を言われても」

「お前は何をしているのが好きなんだ」



 将来の夢だとか何が好きなのかと訊かれるのが昔から一番怖かったし今でも一番怖い。

 長渕剛を聴くか?

 聴けよ、インターネットで言うほど悪くないぞ。

 テレビに映っている長渕王選手権だって笑えない。

 SASUKEに出るだけでも大したものだ。

 一番にならない男には生きている価値が無い。

 つまり死ななければならないと言う事だ。

 神風、廻天、流れ星、願い、狂瓢、俺は眠る事すらできない。

 眠れないから羊を数える。

 恒河沙、阿僧祇。

 眠る事ですら一番に、一頭になれない。

 不可死儀!

 無力躰芻!


 自問自答の速度が上がる。

 スピードの向こう側で鉤括弧が外れる。


 サメ映画、遊郭、……そうだ!

 俺には何もない!

 俺の手の中、頭の中は空っぽだ!

 虚ろの王でもない。

 おい、どうしたら良いのだ!

 寝がえりを打つ。

 眠れない。

 眠れない。

 隣で眠る女はインターネットで炎上した事があるらしい。

 いや、バズだったか。

 俺はこの女にも勝てないのだろうか。

 この部屋からも出ていけないのだろうか。

 この布団からも出られないのだろうか。

 俺は目を瞑る。

 

 男は死んで価値が出る。

 それならば死に近い眠りの最中になら少しは価値が出るのかも知れない。

 拳銃だ、拳銃をくれ。

 煉炭じゃダメだ。


 俺は眠ろうとしたんだ。

 ただそれだけなんだ。

 眠れない呪いを解くために父親を殺すなんてのは馬鹿げている。

 父親を殺したところで眠りは訪れない。

 父親が言ったのは単なる真実だ。

 つまり父親は俺のモノリスになろうとしただけだ。

 モノリスを壊したって何にもならない。

 俺は骨を手にすることがないしそれは宇宙船にはならないって事だけはどうにか予測がつく。



 何かの一番はプラスじゃなくても良いのだろうけれどマイナスの一番だって難しい。

 30人殺したり3億円を盗んだり複数の製菓を脅迫したりするのは今の俺には難しい。

 やはり俺は虚ろなのだ。



 一番からの逃走。

 一等からの逃走。

 だがその逃走たる眠りすら俺には無いのだ。

 闘争も出来なければ逃走も出来ない。

 窓の外ではリヤカーを引いた若者が林檎を売っている。

 あれはどこかの農園から盗んできた林檎なのだろうか。

 それとも正規ルートで仕入れた林檎なのだろうか。

 彼が枯らしている喉はあげ続けた声のせいか、夜中に農園に忍び込んだせいか。

 酔ったサラリーマンが狂った林檎を買って齧り走っていく車に投げつけた。

 車は大きく蛇行してガソリンスタンドに突っ込むと爆発をした。 



 街は燃えた。

 俺はベランダからそれを見て、やめた煙草を手にしている事に気が付いた。

 何も出来ないなら何かを我慢する事で一等になれるかも知れないが、何かを我慢する事も出来ないのだから本当にどうしようもないなと思った。

 そうやって吸った煙草は旨くもなんともない。

 せめてそういう煙草を愉しめる精神であれば何か道はあったかも知れない。

「やめるわ、煙草」

 投げ捨てた煙草は駆け付けた警察官に当たった。

 俺には運も無いんだなと笑った。

 女は、笑わない。

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