招待状
「読んでくれてありがとう」
青白い画面にそんな文字を打ち込み、僕は一冊の本を君に渡すことにした。
やっと休みだ。
5日間の仕事を自身で労おうとパソコンを起動する。
デスクトップの隅にあるプログラミングソフトを見ないようにしながらテレビ配信サイトをクリックする。
今日は溜まっているアニメを見よう。
そんなことを考えていると、突然アプリが落ちてしまった。
なにか裏で起動しているのか?と思いPCの状態を精査する。
知らないアプリがCPUの大半をを使用している。
どうなっているのだろうか、そう思いデスクトップを見回すと、画面中央に見たことがないアイコンを見つけた。
ウイルスか?
慌てて消去しようとしたその時、ファイルが勝手に起動してしまう。
Connecting......success
open the file
◼◼◼◼◼を起動します。
そんな文言が文面に表示された後、簡素な背景に文章が現れた。
─────
この文が書かれたのは、今君が読んでいる時代よりも100年、ともすれば200年先の事かもしれない。
君が理解できないことも多いだろう。
だが、どうか1度、手に取って読んで見てほしい。
君を退屈させることは無い。
なぜなら、この世界は君たちの世界より、もっと発展した。
完全なるメタバースの創造に成功し、二つの世界を行き来することができるようになったのだ。
そして、全ての争いはメタバースで行われるようになった。
遂に現実は平和を得た。
そして、争いは仮想空間で行われるようになったのだ。
戦争はエンタメに成り下がった。
人々はそれを娯楽の1つとして扱っている。
スポーツとして、あるいは賭け事として。
楽しそうだろう?
全て、ここ数十年で急激に発展した。
結果、皆幸せに生きているよ。
では、紹介することにしよう。
その言葉の後、長い長い動画が再生された。
青白い画面に、なにかの映像が映る。
どうやら、LIVE中継のようだ。
なぜか、食い入るようにみてしまう。
他のことも忘れて意識を動画に集中した。
──────────
─────
──
部屋の様子が映し出された。
床や壁、家具など、全てが白い。
所々に青いラインが入っているのがいかにも未来的だ。
そこには3人の男がおり、何か話をしている。
「今日の作戦通知書が届いた。条件は森林、白兵戦だ。」
「相手は?」
「お隣さん。懲りないよねぇ、あちらさんも。」
「そうだな、まあ、程々にやるとしようか。」
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謎の男性2人が近未来的なタブレットを操作したかと思うと、3人の姿が変化した。
それまで軍服を着用していたのが、武器を持ち、戦闘服のようなものに身を包んでいる。
全員、個性的だが近未来的な装備をしている。
1人は両手にを短機関銃を持ち、背中や足、肘など各所にブースターのようなものが見える。
1人は小銃を持っている。3人の中では1番現代的...20世紀の武装に近い。
大きなバックパックを背負っているのが特徴か。
最後の一人は異質だった。武器が何かおかしい。
まるでアニメのような装備だ。
刀のようなものを肩に吊るしている。
刀、と言っても刃が付いていない。
こんなもの、実際の戦闘で役に立つのだろうか。
装備は1人目と同じく、各所にブースターを取り付けたものになっている。
この人がリーダーなのだろう。
派手だし。全体的に。
「よし、準備できたな。」
刀を吊ったリーダー格の男が2人に話しかける。
「いつでも。」「問題ないよ。」
2人が返事したのを確認した男が、タブレットを操作する。
数秒後、3人の姿が消えた。
カメラが移り変わるとそこは森林だった。
先程見た3人が各々の装備をチェックしている。
battle ready...
3
2
1
start
モニタに表示された文字がスタートに変わると、3人は森の中に飛び込む。
カメラはまず、短機関銃を持った男に追従することにしたようだ。
彼はブースターを器用に使って木から木へと飛び移るように進んでいる。
彼の前には小さく刀を装備した男も見える。
現代の世界ではありえない技術。
それは目の前の映像が未来のものであると否応なく理解させられる。
息をするのも忘れて画面に集中する。
数秒後、小銃を装備した男にカメラが移動した。
彼はブースターを装備していない。
木を遮蔽にしながら移動している。
彼は少し開けたところにたどり着くと、バックパックを地面に置き、中のものを取りだした。
中からドローンのようなものとタブレットを取りだした。
ドローンを起動すると一気に上空に飛ばし、自分は荷物とともに草葉の陰に隠れる。
その後、自身の装備の腰に付いたボタンを押すと、姿が見えなくなった。
画面は短機関銃を持った男に戻る。
彼は大きな木の上に登り、枝の陰に隠れていた。
身につけた小さなインカムで何かを聞いているようだ。
通信を聞き終えると、彼は短機関銃のチャンバーをチェックし、ある一方に目を向けた。
5秒程の短く、緊張した時間がすぎた後、茂みから兵士が1人現れた。
小銃を持ち、索敵しているようだ。
しかし、短機関銃の彼には気づかない。
彼が潜んでいる樹の真下に来た頃、彼は樹から飛び降りた。
両手の短機関銃を相手に向け、乱射する。
地に足をつけた頃、そこにあったのはいくつかの弾痕と物言わぬ塊のみだった。
胸に装備したナイフで首だった部分を刈り取ると、ソレはポリゴンとなって霧散した。
これは...ゲームなのだろうか。
あまりに現実味がない。
しかし、これがただのゲーム映像だとはとても思えなかった。
映像が3人目を映す。
今まで映っていなかった、刀を持った男だ。
彼もインカムで何かを聞きながら目にも止まらぬ速さで森を駆け抜ける。
彼が大木を蹴って別の木に飛ぼうとした瞬間、銃声が鳴り響いた。
彼が蹴った木に敵が潜んでいたようである。
銃弾を辛うじて交わした男は転がるようにして地面に落ちると、すぐに木の陰に隠れた。
右手で肩の得物を抜くと同時に、腰につけている球状の物体を左手で2つほど手に取った。
お互いに膠着し、緊張した時間が流れる。
一瞬の静寂の後、手前の男が動いた。
左手の球を1つ、木の影から相手に見えるように投げたのだ。
当然、相手は反応して正確に弾を打ち込む。
2発ほど命中して、投げた球は爆発し、煙が立ち込める。
男は、そのの陰に隠れてもう1つの球を相手に投げつけると、両足のブースターをふかして相手に突撃した。
煙から飛び出してきた男に、相手は動揺を見せたものの、確実に処理しようと銃口を男に向ける。
相手が発砲したその瞬間、突撃時に投げた球が変形した。
まるでみかんの皮のような形に6枚の羽が展開した。
銃弾を全く通さないそれは甲高い音を立てながら光の弾を乱射する。
光弾は吸い込まれるように相手の武器を抉る。
銃身から火花を散らし、小銃が爆発する。
その隙を逃すまいと刀を肩に担ぐように構える。
ブースターを全て起動し相手の懐に踏み込まんとする。
実に17メートルを1.5秒で進み、相手に肉薄する。
刃の部分には真紅の光が走っており、相手を確実に両断するものだと否応なく理解させられる。
男は躊躇なく相手を逆袈裟に斬り上げた。
右腰から左脇まで切り上げられた相手は二つに分けられた。
1秒もかからず霧散した男は相手を見るまでもなく刀を収めた。
インカムに二言、三言話した後、男は満足そうに頷き、南西方向に飛んで行った。
地面を滑り、木をつたいながら移動して5分ほどすると、男は敵兵を発見したようだ。
対して、相手は男に全く気づいていない。
一瞬で近づくと、男は敵兵を真っ向から切り下ろした。
ファンファーレが鳴り響き、勝者が告げられる。
3人組は特段嬉しそうな様子もなく、カメラに向けて軽く敬礼を行うと、光に包まれて消えていった。
同時に画面が暗転する。
画面が明るくなると、そこに居たのは知らない老人であった。
彼はこちらに向けて話しかけてくる。
「......これが、この世界での娯楽だ。どうだ、イケてるだろう?」
「私は、メタバース世界の研究をしていてね。今は、過去の人間を連れて来る研究をしているんだ。」
「メタバース世界を通して君の肉体を未来に持っていく、というものなんだ。」
「よければ、協力してはくれないだろうか。」
PCの画面に実験に参加しますか?『YES』 『NO』の文字が映し出される。
嫌だな。失敗するかも分からない実験には協力したくない。
そう思って『NO』をクリックしようとしたその時、画面の先の老人が話しかけてきた。
「あー、今の君の行動を当てて見せよう。断ろうとしているね?こんな胡散臭い研究に参加したくない、と。」
図星だ。思わずカーソルを止めてしまう。
「そうだと思った。事前に報酬の一部を支払わせてもらうよ。」
ピコン、と電子音がなった。
「今、君の口座に1億円振り込んだ。成功報酬はさらにこの2倍だ。是非、受けていただけないだろうか。」
合わせて3億...フィクションでしか見た事のない金額に冷や汗が背中を伝う。
しかし、理由がわからない。
そう、何も見えないのだ。
画面の中の男の素性や俺を選んだ理由の説明がつかない。
よく分からない実験にお金だけでモルモットになりたくはない。
そう思い、『NO』をクリックする。
すると、画面の中の老人が引き続き話す。
「ふむ、実験に参加出来ないと、そういうのだね。」
当たり前だ。やりたいことはまだあるし、今の生活に満足している。
「では...もう1つ報酬を増やそう。こちらの世界、つまり未来のAIのデータを君に渡そう。」
どきり、と心臓が跳ねた気がした。
この男は俺のことを知っている。
俺がAIの研究をしていると知っているのだ。
そして、研究が行き詰まっていることも。
会社での怒号を思い出す。
プログラミングを書いたことすらない男の昭和的な凝り固まった思考。
常々うんざりしていたのだ。
画面の前の老人の言うことを聞けばそれを解消できるかもしれない。
いや、それどころか特許や賞などで巨大な財を築けるかもしれない。
脳がデメリットを提示してくる。
きっと理性がやめろと言っているのだろう。
帰れるか分からない
───帰る必要なんてないじゃないか
報酬は本当に貰えるのか
───データなら盗めばいいだろう
気付けば、デメリットを否定していた。
きっと心の奥底では行きたいと思っていたのだろう。
一松の不安を抱えながらも、俺は「YES」をクリックした。
「協力ありがとう。では、すぐに準備しよう。君はそのままで大丈夫だ。少し待っていてくれ。」
5分程して、老人がまた話し始める。
「準備が出来た。では、君に会えるのを楽しみにしている。到着したら使人を送る。動かず、待っていてくれ。」
コクリ、と頷く。彼が満足そうに微笑むと、PCが強い光を放った。
余りの強さに思わず目を瞑る。
体がぐにゃりと変形するのを感じ、意識が反転する。
目を開けると、そこは別世界だった。
目の前にあるのは...駅だろうか。たくさんの人がいる。
動くな、と言われたことを思い出し、キョロキョロと周囲を見回していると、建物の奥から1人の女性が駆け寄ってくるのが見えた。
「貴方、おじいちゃんに連れてこられた人?」
「ここに来る前、確かに老人と話してた。」
「そ、なら貴方が過去から来た人ってことね。」
女性は手を差し出してきた。
「私は相川恵、ここで、あなたの補佐を務める者よ。これからよろしくね。」
「うん、これからよろしく。」
「身分とかはこっちで用意したわ。名前呼ばれた時に反応できるようにしときなさいよ。」
そう言って恵はいくつかの書類を取り出した。
身分証明書の類だろう。1番上のカードを確認すると、自分の名前が確認できた。
「オバタ...ソウスケ...」
「ええ、ここでのあなたの名前は小幡蒼介。改めてよろしく、ソウスケ。」




