SS-1 強い意志(電子版2巻発売記念)
「ふぅ……」
ある日のこと。
学園の廊下を歩くヴァルツは、小さくため息をついた。
そんな彼には、周りからは冷ややかな視線を向けられている。
「また何か怒っていらっしゃるのか……?」
「やはり恐ろしい方だ」
「近づかないが吉だな」
こそこそと話すのは、同じく学園で過ごす生徒たち。
何をされるか分からないため、ヴァルツには聞こえない声で話している。
それでも、ヴァルツ自身も視線は感じ取っていた。
(また悪評を言われているんだろうなぁ……)
そうは思うものの、ヴァルツはさほど気にしない。
すでに学園では一か月を過ごし、周囲からの態度にもすっかり慣れていたからだ。
憧れるヒーローになるためには、こんなことに一々反応していられない。
(まあ、それより問題なのは──)
その中で、小さくため息をついたのは、別の理由があった。
(修行できる場所がない!)
ヴァルツは、一人になれる場所を探していた。
それもそのはず、この傲慢な体は“人前で努力をする”という行為ができない。
傲慢を通り越して、もはや卑屈にも感じる不自由さだ。
そうして、ヴァルツは不機嫌そうに歩くことしばらく。
血眼になって修行する場を探すが……どうやら今日はついていないらしい。
歩いた先で、唐突に出会ったしまったのだ。
「あ、ヴァルツ君!」
「!」
声をかけてきたのは、ルシア。
その原作主人公らしい明るい顔で近づいてくると、彼はヴァルツにも恐れず、そのまま話しかけてくる。
「修行でもしに行くの! 僕も行っていいかな!」
「……っ!」
だが、ヴァルツは答えられない。
(タイミングが悪いよ~~~!)
ヴァルツの中の人格は、ルシアの大ファンだ。
前世では、心の支えになってくれたゲームの主人公のため、一緒に修行をしたい気持ちはとてもある。
しかし、ラスボスという主人公とは対極の立場のヴァルツが、素直にうなずくはずもなく──。
「なわけあるか! どけ!」
「あっ」
ヴァルツはルシアを押し退け、ずかずかと歩いていく。
すると、振り返りざまにギロリとルシアを睨んだ。
「いいか。ぜってえに付いてくるんじゃねえぞ」
「うぅ」
ここで付いて来られては、修行の時間は消えてしまう。
ヴァルツは表に出る態度のまま、誘いを断った。
心の中では、泣く泣くのようだが。
(いつか一緒に修行しようね……)
そんな思いで、ルシアの場を後にする。
向かった先は、学園内の図書館。
修行が無理なら勉強をしようと思ったのだ。
しかし、一難去ってまた一難。
「おやおや、これはヴァルツ・ブランシュ君」
「……っ!」
今度はサラに見つかった。
その顔には、ニヤリと笑みが浮かぶ。
「ほう、なるほど。また隠れて勉学に励まれるつもりですね」
「ち、違えって言ってんだろうが!」
「うわわっ」
すると、ヴァルツは逃げるように走っていった。
後ろから「廊下を走らなーい」と教師の声が聞こえてくるが、もう関係ない。
そうこうして、しばらく。
「……ったく、どいつもこいつも」
ようやく一人になれたと思い、ヴァルツはドカっと腰を下ろす。
結局、学園の裏庭まで辿り着き、木陰で一息ついた。
そんな場所も、すでにマークされているとは知らず。
「やはりここでしたか」
「なぜお前が!?」
すっと現れたのは、リーシャだ。
バッと振り返ったヴァルツに、彼女はにっこり笑って答える。
「ヴァルツ様なら人目につかない場所に行くと思いまして。これも愛の力ですね」
「またバカなことを……」
この学園という場でも、リーシャはずっと変わらない。
ヴァルツのことを理解し、常に隣にいる。
ただ、ヴァルツの方は変わらないわけでもなく……。
「ここで剣でも振られますか?」
「フン、そうだな……ん」
ヴァルツは返事をして、自分で気づく。
(そういえば、リーシャの前では修行できるんだよな……)
過ごした時間が長いからか、学園の前から関わってきたからか。
どちらにしろ、リーシャの前では努力する姿を見せられる。
傲慢な態度こそ消えないが、その点はリーシャが特別だと言えた。
そんな支えてくれる存在に、ヴァルツは考察をする。
(元のヴァルツの人格も、リーシャは認めてるのか?)
だが、そう思った瞬間にヴァルツは胸を抑えた。
「ぐっ……!?」
なんだか心臓をぐっと掴まれる感覚がしたのだ。
元のヴァルツなりの反抗かもしれない。
ツンデレとも取れる行動を感じながらも、ヴァルツは前を向いた。
(まあ、リーシャの前では修行を遮られないだけマシか)
リーシャの執着具合は恐ろしく、とても逃げられそうにない。
しかし、隣で研鑽をできるのなら、不幸中の幸いだ。
「見るなら勝手に見てろ」
「はい! ヴァルツ様!」
目を合わせずそう告げると、ヴァルツはブンッブンッと剣を振り始めた。
改めて思えば、不便すぎる体だ。
特に、学園という大勢の者が存在する場では。
普通に修行も出来ないにもかかわらず、他者に負けることは許されないのだから。
それでも、その強い意志は決して変わらない。
ヴァルツは己を磨き、目標のために努力し続ける。
(僕はヒーローになる!)
「ハーハッハッハー!」
そうして、どう見ても悪役の様相で、今日も剣を振り続ける“ヴァルツ様”であった──。
いつも本作を応援してくださり、ありがとうございます!
今回は記念SSです!
8/28に、本作『傲慢悪役ヒーロー』のコミカライズ電子版2巻が発売されました!
Amazon他、ピッコマ・コミックシーモア等、各電子書店でお求めいただけます!
ページ下部にリンクを張りましたので、ぜひチェックしてみてください!
また、お知らせ出来ていなかったのですが、コミカライズ1巻は紙書籍としても出させてもらっています。
紙書籍派の方は、お近くの書店を覗いてみてください。
2巻に関しても、電子版が1か月先行であり、9/25に紙書籍版が発売予定です。
お好きな方でお求めください!
ということで、記念SS更新でした。
なろう様の方でも、お知らせの際にSSを更新しようかなと思います。
次回は、2巻の紙書籍版の時にできればと!
引き続き、本作『傲慢悪役ヒーロー』をよろしくお願いします!




