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【web版】Q.傲慢で非道な悪役貴族に、正義のヒーローに憧れる少年が転生したら? A.口は悪いが人を救うダークヒーローが誕生する  作者: むらくも航@2シリーズ商業化
第二章 本編開始

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第44話 最後の魔法

「勝ちたいのか、死にたくないのか、選べ」


 ヴァルツからルシアへ。

 その究極の選択を突きつける。


「僕は──」


 対するルシアは、まさに即答(・・)

 

「僕は勝ちたい」

「……!」


 一瞬の迷いすらなく答えてみせたのだ。


「フッ」


 今のヴァルツの人格は本来のもの。

 その傲慢(ごうまん)さは普段どころの話ではない。


「悪くない答えだ」

 

 そんなヴァルツが笑った。

 彼もまたルシアを認めていたのかもしれない。


「ならば、言う通りにしろ」

「うん……!」


 そうして、ヴァルツはルシアへ指示を与えた。

 全ては魔王に勝つために。


「魂を全て【太陽】に(ささ)げろ」







<ヴァルツ視点>


 ずっと続く暗闇の中。

 僕は本来のヴァルツと対話をしていた。


『お前はどうなりたい』

「僕は……」


 でも、その答えは決まっている。

 初めからずっと変わらないものだから。


「みんなを守るヒーローになりたい」

『……フッ。悪くない』


 ヴァルツが笑った。

 傲慢で、決して笑顔を見せないようなあのヴァルツが。


「ヴァルツ……」


 その様子がなんとなく最期(・・)を思わせる。

 だから僕は聞いた。


「君に聞きたいことがあるんだ」

『……なんだ』


 何度も考えたことがある。

 以前、人格を乗っ取られた時、どうしてまた僕に返したのだろうと。


 あの時、君は『長くは持たない』と言っていた。

 でも、実はあのまま返さないこともできたんじゃないかと思う。


 だけど、その答えがようやく分かった。

 同じ体だからか、嫌でも君の感情が伝わってくるんだ。


「君は寂しかったんじゃないか?」

『……!』


 君はずっと孤独なままだった。


 だからこそ、傲慢な口調ながら周りを気にかける僕に体を返してくれた。

 君は本性をさらけ出せない。

 それでも、周りに人がいることに温かさを感じたかったから。


『……』


 原作最後の「俺は……!」というセリフ。

 あれはプレイヤーであるルシアが、複数人でヴァルツと対峙(たいじ)した時じゃないと起きない。


 「俺はお前らみたいになりたかった」。

 あれはそう言いたかったんだと思う。


 それでも、ヴァルツは最後まで肯定はしなかった。


『そんなわけねえだろ』

「そっか」


 だけど伝わってくる。

 おそらく本音を隠していることを。

 最後まで傲慢な奴だよ、君は。


『直に俺は消える』

「……うん」

『見せてみろよ。お前の行き着く先を』


 暗闇が次第に明るくなっていく。


 そんな中、おぼろげに聞こえたような気がした。

 それは、傲慢なヴァルツからは決して聞けないような優しい言葉。


『お前は間違いなくヒーローだ。俺も救われた一人だからな』


 そうして、視界が白色に(おお)われた──。






「……ッ!」


 目の前が一気にクリアになる。


 ここは学院。

 僕は戻ってきたんだ。


 そして、前方には──魔王。


≪終わらせようぞ、この戦いを≫

()もそう思っていたよ」


 口調が強制されない。

 やはりそうか。

 本来のヴァルツは消えたんだ。


 最後に()を残して。


「君の力、使わせてもらうよ」


 体の奥底に感じる魔力。

 このとてつもなく深い【闇】。

 明らかに今までのものとは違う。


 僕はそれを右手に宿す。


「──【太陰(たいいん)】」


 それと共に伝わってくる。

 ヴァルツの最後の伝言だ。


『てめえの【闇】が覚醒しないのは、お前が“本質的な悪”ではないからだ。そんな役は俺に任せておけばいい』


 ヴァルツは自らの魂を捧げて、【闇】を【太陰】に覚醒させた。


 そして、もう一つ。


「ルシア」


 すでにルシアの姿はない。

 代わりに浮かぶのは【太陽】の巨大な(かたまり)


 彼もまた魂を捧げたんだ。

 僕に【太陽】を授けるために。


「……ありがとう」


 僕がヴァルツの精神世界に落ちている間の出来事。

 それがヴァルツの記憶を通して伝わってくる。


 ヴァルツは今のままでは『勝ち目がない』と踏んだ。

 誰より優れた頭脳だ。

 おそらくそれは正しかったのだろう。

 

 だからこそ、ルシアの魂、そして自身の魂を犠牲にした。

 【太陽】と【太陰】を僕に授けるために。


 ヴァルツは【太陰】に覚醒させることはできた。

 それでも、【太陽】を操ることはできない。


 【光】と【闇】。

 二つを操ってきたのは僕だ。

 同時に扱うのは僕にしか出来ない。


 だから二人は託してくれた。

 【太陽】と【太陰】という特別な属性を。


「……っ」


 泣いている暇など無い。

 二人の想いに報いるためにも。


≪な、なんだそれは……!≫


 見たことがないであろう覚醒属性。

 魔王は焦った様子を見せる


巫山戯(ふざけ)るな!≫

「……!」


 魔王が魔力を溜める。

 これまでで一番の大きさだ。


≪見せてやろう≫

「望むところだ……!」


 ここで勝負が決まる。


≪【破滅の闇】≫


 魔王が最後の魔法を放った。

 それは学院全てを(おお)うような巨大な【闇】。

 今までの比ではない。


「……ふぅ」


 対して僕は、【太陽】と【太陰】を融合した。


「お前の敗因を教えてやる」

 

 全ての属性の始まりとされる【光】と【闇】。

 その覚醒属性である【太陽】と【太陰】。

 双極であるはずの二つの属性が交わり、爆発的な力を生む。


「想いの力だ」


 ヴァルツ、ルシア。

 僕の周りにいてくれた人たち。

 そして、王都の人々。


 全ての魔力が今、僕の体に乗っている。


「──【天地創造(ビッグバン)】」

 

 これまでの集大成。

 全ての想いが乗った魔法だ。


≪ぐうおおおおおおおおお≫

「はあああああああああ!」


 二つの魔法が宙でぶつかる。


 僕の後ろは学院、そして王都がある。

 僕が負けることがあれば、王都は消えてなくなるだろう。


 ──それでも、負けるはずがない。


「うおおおおおおおおおお!」

≪……!≫


 ほんの少し、僕の魔法が押した。

 それを機に一気に決着はつく。


「終わりだあああああ!!」

≪バカな……!≫


 まばゆい光を放つ【太陽】。

 深淵(しんえん)の闇に染まる【太陰】。


 その二つが入り混じった【天地創造(ビッグバン)】。


 唯一無二の色をした魔法が、魔王もろとも突き抜ける。

 それはやがて王都の空を貫いた。


「……!」


 魔王が発動させた各地の魔法陣が消え失せる。

 それと同時に、僕も魔力を使い切って【二律背反(アンチェイン)】が消えた。


「空が……」


 そして、空が晴れる。

 さっきまでの暗い世界はどこかへ行き、代わりにまぶしい陽が差し込んだ。


「勝ったんだな、僕は」


 安堵(あんど)から、その場にへたり込む。

 だけど、それと同じぐらい喪失感は残った。


「ヴァルツ、ルシア……」


 失ったものは大きい。

 それでも、前を向いて歩かなければならない。

 彼らが託してくれた未来のために。


 僕には守ったものもあるのだから。


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