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【web版】Q.傲慢で非道な悪役貴族に、正義のヒーローに憧れる少年が転生したら? A.口は悪いが人を救うダークヒーローが誕生する  作者: むらくも航@2シリーズ商業化
第二章 本編開始

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第20話 不審なヴァルツ君

<ルシア視点>


「ヴァルツ君……」


 昨日のことがあってから、色々と考えてみた。


 あの時、コトリとサラさんは途中で【毒】にやられて気を失っていた。

 つまり、最後の会話を聞いていたのは僕だけからだ。


「どうして君の名前が……」

 

 その中でたしかに聞いたんだ。

 あの二人がヴァルツ君の名前を出したことを。


 ──そんな時、


「おい」

「!」


 前方から声が聞こえて顔を上げる。

 タイミングが良いのか悪いのか、ヴァルツ君だ。


「話がある」

「……!」


 彼のその言葉でピンとくる。


 やっぱり来た。

 もしあの二人がヴァルツ君の手下なら、おそらく僕への口止めを考える。

 そう思っていたんだ。

 

 僕は慎重に、下から(たず)ねる。


「場所を変える?」

「必要ない」

「?」


 だけど、そんな雰囲気はなく。


 目付きが悪いのはいつものことだけど、何かしてくるわけではないような。

 すぐに終わるってどういうことだろう。


 なんて考えている内に──


「!?」


 ヴァルツ君の顔が急に(こわ)()る。


「……! ……ッ!」


 しかも、何かもがき苦しんでいるような表情だ。

 後ろに隠れている右手も、なぜかプルプルしているようにも見える。


 一体何をする気なんだ!?


「ヴァ、ヴァルツ君!?」

「……ッ!」


 そうして一瞬顔を引きつらせた後、


「……チッ」

「!?」


 急にふっと冷静になったヴァルツ君。

 まるで何かを(あきら)めたかのようだ。


「だ、大丈夫?」

「黙れ。俺の前から消えろ。()(ざわ)りだ」

「……ええ」


 と思えば、僕に退()くよう言ってくる。

 もう何がなんだか分からない。


「消えないなら俺が行く。どけ」

「うわっ!」

 

 さらに、ヴァルツ君は僕に肩を当てながら歩いて行った。


「な、なんだったんだろう……」


 『話がある』と言ったのはヴァルツ君なのに。


 なんというか不思議な行動だった。

 大貴族の感覚はやっぱり僕と違うのかな。


「あ」

  

 そして気づく。

 昨日のことも聞きそびれたことに。

 







<三人称視点>


 誰もいないトイレにて。

 ここは校内でも最も(はじ)に位置する。


 その中で一人、


「なんで!?」


 ヴァルツが控えめに壁を叩く。


 失敗したからだ。

 ルシアにペンダントを渡すことに。


「どういうプライド!?」


 先程、ヴァルツはルシアに会った。

 昨日の計画通りにペンダントを返そうとしたのだ。


 だが、やはりというべきか、悪い予想が当たる。

 ヴァルツの傲慢(ごうまん)な意志力が「人に物をあげる」ことを許さなかった。


「手も痛いし……」


 そんなやり取りの中で、右手に隠し持ったペンダントを差し出そうとした。

 だが、意志力がそれを許さず、中と外のヴァルツの力が釣り合って均衡(きんこう)


 結果、ヴァルツは自ら手を()ることに。

 ふっと冷静になったのは、一旦諦めたからだ。


「我ながらアホすぎる……」


 ペンダント一つにここまで苦労するとは。

 つくづくこの傲慢(ごうまん)な性格にため息を吐きたくなる。


「となると、次なる手は……」


 そんな事を必死に考えるのもバカらしい。

 だが、いずれの事を思えば、主人公であるルシアに返さないわけにもいかないようだ。

 

「いくつか方法はある」


 たとえば、『ルシアの(かばん)にこっそり入れる』。


「いやいや!」


 思い付いておいて、ヴァルツは自ら頭を振る。


「スマホを持ってない小中学生のラブレターじゃあるまいし!」


 恥ずかしさもそうだが、さらに不審に思われて終わり。

 そう考えたようだ。

 

「却下で。次」


 そうして、考えること少し。


「これだ!」


 (ひらめ)いたヴァルツは早速実行に移した。




 そうして、再び相まみえたヴァルツとルシア。


「おい」

「ヴァルツ君!」

「やはり邪魔だ。どけ」


 声をかけつつ、またも道を開けさせる。

 行動の不審さも極まり、ルシアからすればもはや怖いが、関係ない。


「あ!」

 

 その最中でヴァルツはペンダントを落とす。

 ルシアがそれに気づいて声を上げた。


「そ、それ……!」

「なんだ」


 あえてはぐらかすヴァルツ。

 だが、内心はガッツポーズである。


(よし、食いついた!!)


 まさに計画通りだ。

 彼の考えたまま、ルシアが(うった)えかけてくる。


「それは僕に必要なものなんだ」

「……」

「返してくれないか?」


 ペンダントは、ルシアも取り返そうとしていたようだ。


 協力すると決めたサラのためでもあり。

 過去の悲しい出来事を繰り返さぬよう、さらなる力を得るためでもある。


 対してヴァルツは、


「好きにしろ」

「え?」


 興味なさげに振り返った。

 まるでそれが()らない物かのように。


「い、いいの?」

「二度も言わせるな。そんなものはいらん」

「そ、そうなんだ……」


 その言葉には戸惑いながらも、ルシアは慎重にペンダントを拾う。

 そして、とあることに気づく。


(まだ体温がある……)


 先程までぎゅっと握りしめていたためだ。

 横目でルシアの行動を見ていたヴァルツは一言。


「せいぜい大切に(・・・)するがいい。平民らしくな」

「……!」


 口調は悪いが、言葉に込められた確かな優しさを感じるルシア。

 今の行動も相まって意思を読み取りかける。 


(返しにきてくれた?)


 まだ半信半疑の上、二人組との関係も謎。

 それでも「返ってきた」ことには変わりない。


(大貴族って難しい……)


 どこか疑心は残りつつも、今は素直に受け取るルシアであった。


 そして、当のヴァルツは、


(やったー!!)


 なんとかペンダントを返すことに成功。

 ようやくあるべき場所に戻すことができ、内心では喜びをかみしめる。


(よかった、よかった)


 これで一件落着。

 しばらく心配はないだろう。


 ……と思っていた。


 ヴァルツの頭からは抜け落ちてしまっていたのだ。

 現時点でのシナリオが、本来よりとんでもなく早く進んでいるということを。







 数日後。

 学園内の広場にて。


「何はともあれ、取り返せて良かったね。ルシア君」

「はい、少し不思議でしたけど……」


 サラとルシアが共にお昼ご飯を食べている。

 話題はペンダントについてのようだ。


「それはそうと、あれから変化はないのかい?」

「そうですね、特にないです」

「そうかあ」


 ありのままを話すルシア。

 何も変化がないことに、サラは少し残念そうだ。


 ──と思った矢先、


「……!」


 突如として、首から掛けていたペンダントが光り始める。

 『勇者の(ほこら)』で授けられた時と同じような輝きだ。


「な、なんだ!?」


 混乱するルシアに、再び謎の声。


(なんじ)の力を示すが良い≫


「……!」


 その言葉で直感した。


 この場合において、力とはおそらくひとつ。

 ──【光】属性のことだ。


「ルシア君!」

「はい、はい!」


 それはサラも勘付いている。

 ルシアは言葉のままに、ペンダントに【光】属性を込める。


 だが、タイミングが悪かった。

 ここにきて、物語が速く進行している弊害(へいがい)が出てしまったのだ。


「──!?」


 ペンダントの光が ()(じょう)なまでに強まっていく。

 異変が起きているのは間違いない。


「なんだ、光が強く……!?」


 ゲーム内でも存在するこのイベント。

 しかし本来ならば、もっと後半(・・)に起きるはずだったのだ。

 正確に言えば、ルシアが【光】をコントロールし始めた後。


「まずい! ルシア君!」

「……!」


 今のルシアの魔力制御はまだ未熟のまま。

 強すぎる【光】を完全に扱いきれず、ただ力のままに込めてしまった。


 その結果、


「【光】があふれる……!?」


 ペンダントが正常な反応を見せない。

 言うならば『暴走状態』のようなもの。


「……!」


 とっさにルシアの頭に(よぎ)ったのは、ヴァルツの言葉。


『せいぜい大切にしやがれ』


(もしかしてヴァルツ君はこのことを!?)


 そうして、あふれた光が爆発のような輝きを見せ、


「くううっ!」

「うわあっ!」


 巨大な何かが姿を現した──。

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