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【web版】Q.傲慢で非道な悪役貴族に、正義のヒーローに憧れる少年が転生したら? A.口は悪いが人を救うダークヒーローが誕生する  作者: むらくも航@2シリーズ商業化
第二章 本編開始

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第15話 圧倒的な差

 「ただの試験だとしても、僕は最後まで戦う!」


 ヴァルツが【光】属性を解放し、まともに攻撃を食らった物語主人公のルシア。


 そこで対決は終わりかと思われた。

 その間際──


「まだ、だ……!」

「面白い……!」


 ヴァルツの【光】に共鳴し、ルシアの中に眠っていた【光】が目を()ます。

 

 かつての勇者にのみ許された特別な属性。

 それを手に、再び両者は向かい合う。


「【光・身体強化】」

「【光・身体強化】」


 両者は再び属性魔法を高めた。


「行くぞ、ヴァルツ君……!」

「──!」


 再びルシアがヴァルツへ突撃。

 だが、さっきまでとはまるで速さが違う。


(さすがだ。潜在的に扱い方を知ってるなんて!)


 ルシアは【光】をたった今手にしたばかり。

 普通ならば扱い切れない特別な属性を、直感で使ってみせる。


(それでこそだ、主人公!)


 その理由は一つ。

 ルシアが勇者の血を引く(・・・・・・・)者だからだ。


 この世界である学園RPG『リバーシブル』。

 その全体像は、因縁の決着。


 かつて戦い合い、共に滅びた勇者と魔王。

 だが、その血は脈々と受け継がれていた。


 勇者の血を引くルシア。

 魔王の血を引くヴァルツ。


 この世界は、それぞれの(けい)()を持つルシアとヴァルツの物語なのだ。

 

「うおおおお!」

「クハハハハ!」


 まだまだ荒削りではある。

 それでも、ヴァルツはルシアに確かな潜在能力を見出す。


「僕は負けない! もう二度と!」

「いい! いいぞ……!」


 このアルザリア王国において、かつて最高の剣士と言われたダリヤ。

 彼を超えたことで、ヴァルツはもう上は望めないかと思っていた部分はある。


 だが、まだいたのだ。

 ダリヤと同等……もしくは、ダリヤ以上に手に汗握るような戦いをできる者が。


 その速すぎる両者の剣技は、観客を魅了する。


「なんなんだよこれ!」

「これが試験ってまじか!?」

「こいつらが入ってくるのか!?」


 戦いを見守るのは、同じ受験生だけではない。

 在校生や教師陣も含めた、学園関係者も多い。


 そんな人々を魅了する二人のぶつかり合い。

 これには【光】の本質が起因している。


 人々に希望をもたらす【光】。


 この属性を目にするだけで、人々の心は踊り、気持ちが引っ張り上げられるのだ。


 ──それでも、


「ぐうぅぅぅ!」

「……」

 

 やはりヴァルツには届かない。

 それほど、両者には圧倒的なまでの差がある。


 そんな状況に、ルシアが必死に問う。


「君は一体どれほど!」

「あ?」

「どれほど積み上げてきたと言うんだ……!」

 

 ルシアとて並大抵の努力量ではない。

 そう言いたくなるのも仕方がないだろう。


 しかし、対してヴァルツはニッと笑った。


「俺には努力など不要だ」

「……! くっそおおおお!」


 もちろん大ウソ(・・・)

 二年もの間、二人の鬼師匠にしごかれ続けたヴァルツだが、傲慢(ごうまん)な彼の口からは出るはずもなく。


 ここにきて原作通りのセリフである。


「うわあああああああ!」

「……!」


 そうしてヴァルツは、ルシアの異変に気づく。

 ルシアの攻撃が荒くなっているのだ。


 剣の型は乱れ、【光】のコントロールも失い始めている。


(これは……)


 たとえ勇者の子孫とはいえど、今のルシアは(きゅう)造品(ぞうひん)

 最初はうまくいっても、長くコントロールすることはできなかったようだ。


(この辺までかな。それにしても……)


「雑魚が」(強かったよ)

「……!」


 一度距離を取ったヴァルツ。

 片方に手に灯したのは、今使っている【光】。


 そして、


「終わりだ」

「そ、そんな……!」


 もう片方の手に灯すは──【闇】。


 その姿にはルシアでさえ絶望の顔を見せる。


 世の中でも特別と言われる二属性。

 目の前の男は、その両方を(あわ)せ持った化け物なのだから。


 これには、観客も思わず同じ反応を見せる。


「冗談だろ……?」

「あんなの無理だろ……」

「そこまでいくともう……」


 さっきまでは盛り上がっていた会場は一転。

 あまりに光景に静まり返ってしまう。


 ヴァルツが化け物すぎるのが原因ではある。


 だが、これこそが【闇】の本質。


 人々を絶望させる【闇】。

 輝かしい【光】とは対極の性質が、観客の熱意を奪っている。


土産(みやげ)だ」(楽しかったよ)

「……!」


 しかし、これだけではない。


 右手に【光】、左手に【闇】を灯すヴァルツ。

 その対極とも言える両属性を──融合(・・)


「クックック……」


 その瞬間、ルシアとヴァルツを囲う『魔法空間』が展開された。


 輝かしい【光】とドス黒い【闇】。

 二つが交互に混ざり合った不思議な色だ。


 地面からも同色の魔法陣が浮かび上がっている。


「ハーハッハッハ!!」


 ヴァルツに【闇】が発現してから約半年。

 彼は魔法の師匠マギスと、これについて研究を行ってきた。


 普通ならばできるはずがない。

 かつて血を争い合った、両極端の属性を合わせることなど。


 だが、ヴァルツはやり遂げた。

 光のような内心、闇のような外面(そとづら)を持つヴァルツだからこそ。


 そして、ヴァルツはこの魔法の名を口にする。


「【二律背反(アンチェイン)】」


 ヴァルツが口にした途端、


「ぐぁっ!?」


 ルシアが苦しみ出す。


「な、なにが……!」

「クックック」


 ヴァルツが生み出した魔法空間【二律背反(アンチェイン)】。

 これはいわば、光と闇の良いとこ取り(・・・・・・)


 相手には【闇】の『弱体化』を与える。

 自分には【光】の『強化』を与える。


 【闇】の力によって相手の魔力を吸い取り、そのまま【光】の力によって自分のものにする。


 まさに傲慢(ごうまん)()(そん)

 ヴァルツによる、ヴァルツのための魔法だ。


 そして、ヴァルツは試験を終わらせる。


「──(ひざまず)け」

「……がっ!」


 この空間で、ヴァルツの命令は絶対。

 この優位がひっくり返ることはないのだ。


「フッ」 


 膝をつき、何も動けないルシア。

 対して、ヴァルツはゆっくりと(・・・・・)歩み寄った。

 一切の焦りもなく、ただ一直線に。


 そうして、ルシアの目の前で剣を向けた。

 

「言う事があるだろう」

「……僕の、負けだ」


『勝者、ヴァルツ・ブランシュ!』


 あくまで自らは宣言せず。 

 相手に降参させる傲慢ぶり。


 これがヴァルツ・ブランシュである。


「ありえねえ……」

「こんなの無理だろ……」

「相手の子が可哀想だ……」


 観客の反応は絶望に染まる。

 これは元より持っていた【闇】の方が強い表れかもしれない。


 そうして、ヴァルツはパチンと指を鳴らす。

 【二律背反(アンチェイン)】を解除したのだ。


「ぐっ! ……ハァ、ハァ」


 弱体化は解除されたが、まだ息を切らすルシア。

 その目はヴァルツに向けられている。


「……」


 本来ならば、敗者にかける言葉はない。

 しかし、背を向けたヴァルツは最後に口にした。


「這い上がってこい」

「!」


 それが優しさだったのか、嫌味だったのか。

 まだヴァルツをよく知らないルシアには分からない。


 ──それでも、


「必ず……!」


 ルシアの目は光を失っていなかった。


「フン。それでいい」


 そうして、ヴァルツは振り返ることなく、試験場を後にした──。

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