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第11話 覚醒前夜

 「誰だ、お前は」


 ダリヤが思わず口にする。


 説明しろと言われれば難しいが、そう言いたくなるほど雰囲気が違う。

 加えて、それはここにいる全員が感じていた。


「……」

「ちっ! どうなってやがる!」


 今までは口は悪くても会話は成り立った。

 だが、今は明らかに様子がおかしい。

 まるで|何かに意識を乗っ取られている《・・・・・・・・・・・・・》ようだ。


「勝負は一旦休止よ、ダリヤ!」

「マギス!」


 マギスは審判の位置から飛び出す。

 リーシャも心配そうに声を上げる。


「ヴァルツ様! ヴァルツ様!」

「……」

「どうされたのですか!」


 応答はない。

 ならばと、見兼ねた師匠二人、リーシャも加えて(きょう)(こう)手段に出る。


「しかたねえ。止めるぞ、マギア、リーシャ様!」

「ええ!」

「はい!」


 何が起こるかは分からない。

 それでも、目を覚まさせなければ危ないのは分かっていた。


 さらに──


「ダリヤ……」

「分かってら!」


 ダリヤとマギスの頭にはとある事が(よぎ)っていた。


 『属性は人の本質を表す』。

 この話には続きがあるのだ。


 強すぎる属性は、時に人格を呑みこむ(・・・・・・・)ことがある。

 【毒】魔法を制御できなかったため、本質的にSとなった誰かさん(マギス)のように。


 そして、


「……」


 今、ヴァルツから出ているのは属性魔法。

 しかし、彼が持つ【光】とは明らかに異なる。


 もしあれに呑まれればまずい。

 そう直観しているだけに、二人は余計に焦っていた。


「勝負はお預けだ、ヴァルツ様!」

「今は我慢して!」


 かつては国の最高戦力とまで言われた二人。

 そのコンビネーションは抜群である。

 この二人ほど相性の良い「剣と魔法」は他にいないだろう。


「私も!」


 そこに着々と力を付けているリーシャが加わる。

 もはや小国なら落としかねない戦力が整っていると言っても過言ではない。


 ──そのはずが。


「がはっ!」

「ちょっ、ダリア!?」


 ヴァルツはものともしない。


「訓練じゃないわよ! 本気でやりなさい!」

「やってる!」

「え?」


 ダリヤが浮かべているのは、まるで最上級任務かのような表情だ。

 現役でも見た事のない()(まなこ)のダリヤが、まるで歯が立たない。


「なんだ、こいつ……!」


 先程も手を抜いていたわけではない。

 それでも剣を交えた感じでは、まだ自分が一つ(うわ)()だったはず。


「俺は一体、何と戦ってるんだ……?」


 しかし、今相手にしているのは絶対的な強者。

 現役時代でも戦ったことのないような圧倒的な才覚。


 たった剣一本に、まるで立ち向かうことができないのだ。


「こうなったら!」


 ならばと、マギスが構えを見せる。


「死ぬんじゃないよ! 【毒の棘(ポイズン・スパイン)】……!」


 放ったのは、無数の毒の(とげ)だ。


 ただでさえ強力な【毒】という属性魔法。

 それをこれでもかと含んだ散弾だ。

 人に向けたのすら久しい危険な魔法である。


 ──しかし。


「……」

「えっ!? 吸われた!?」


 ヴァルツを(おお)う黒い何かが、その全てを吸収する(・・・・)

 マギスの奥の手を意にも介さない。


 そして、

 

「……」

「来るのか!?」

「構えて!」


 ついにヴァルツが動く。


 剣をすぅっと徐々に下ろしたかと思えば──


「ぐうおっ!?」


 次の瞬間には、ダリヤの首すれすれに剣を突き立てる。

 間一髪、ダリヤの対応が間に合った。


「がはっ!」


 だが、無防備になった腹あたりを回し()りだ。

 ダリヤは軽く吹っ飛ばされ、地に伏せる。


「ダリヤ!」

「──!」

「え」


 だが、次はお前だと言わんばかり。

 声を上げたマギスに、ヴァルツは手を向けた。


 その手には、先ほどから体を覆うドス黒い何かが浮かんでいる。

 明らかにヤバい(・・・)攻撃が飛んでくる。

 

 そう直感したマギスの前に──


「ヴァルツ様!」


 リーシャが(おど)り出る。


「なっ!」

「リーシャ様!」


 ダリヤとマギスは声を上げる。

 だが、リーシャは決して引こうとしない。


「おやめください!」

「……」

「ヴァルツ様は、いつものヴァルツ様はどこへ行ってしまったのですか!」


 リーシャを前にしても、ヴァルツは手の平を向け続ける。

 いつもとは明らかに違う、冷酷な目付きを覗かせたまま。


(ヴァルツ様……!)


 怖い。

 足が震える。

 恐怖に呑まれそうになる。


 それでも──


「……ッ!」


 リーシャはヴァルツを信じた。


「──!」

「ヴァルツ様!」


 そうして、リーシャが声を上げた瞬間、ヴァルツがようやく口を開く。

 

「かえ、せ……!」

「「「!!」」」


 声に違いはない。

 だが、三人はその声に確かな優しさを感じ取った。


「リー、シャ……」

「……!」


 その一言を発して、ヴァルツはバタっと倒れた。







<ヴァルツ視点>


「……ん」


 ふと気がつき、目を開ける。


「どこだ、ここ」

 

 周りを見渡せば、何も無い暗い世界。

 およそ現実とは思えない場所だった。


「僕は一体なにを──」

≪よお≫

「!?」

 

 そんな時、どこからともなく声が聞こえてくる。

 限りなくヴァルツに似た声だ。


「君はもしかして、ヴァルツ?」

≪ああ≫


 姿は見えないけど、暗闇で声だけが聞こえてくる。

 ここはヴァルツの心の中のような場所なのか?


「じゃあさっき、僕の意識を吞みこんだのも君?」

≪そうだ≫

「目的はなんだったの? 体を取り返すこと?」

≪いいや?≫


 フッと笑ったヴァルツは答えた。


≪特にねえ≫

「ど、どういうこと?」

≪てめえで勝手に解釈しやがれ≫


 やっぱり彼は傲慢(ごうまん)だ。

 でも、最低限の説明はしてくれた。


≪てめえが「負ける」と思った時、心の隙ができたんだ≫

「心の隙?」

≪ああ。俺はそこに入り込んだだけ。どのみち長くは持たなかっただろうな≫


 そして、一呼吸の後、ヴァルツが言葉を強める。


≪誓え≫


 その言葉には、彼の傲慢なプライドが感じられた。


≪俺の体で二度と負けんじゃねえ≫

「……!」


 これはおそらく警告だ。

 次に本気の場で負けるようなことがあれば、今度こそ本当に乗っ取る。

 少なくとも僕にはそう聞こえた。


≪それが約束できるなら自由に使え≫

「なにを?」

≪俺の()を≫

「……!」


 ドクンと、心の奥底で何かがうずく。

 これは……本来のヴァルツの属性?


 そうして僕は誓った。

 僕も目的を果たすために。


「約束するよ。僕は人々を救うヒーローになるために」

≪フッ。そこまでは聞いてねえ≫


 段々と意識が現実に戻っていく感覚がある。

 ならばと最後に言葉を残した。


「ヴァルツ、君はやっぱり傲慢な奴だよ」

≪フッ。ああそうさ、俺はヴァルツ。最も傲慢な男だ≫


 そこで、またふっと意識が途切れた──。







「──ルツ様!」

「ん」

「ヴァルツ様!」

「!」


 耳元でリーシャの声が聞こえて、バッと起き上がる。


「……! ヴァルツ様! 目を覚まされたのですね!」

「ああ」


 彼女にうなずきながら、周りを見渡す。

 窓から差す日差しが眩しかった。


「俺はどのぐらい寝ていた」

「ほぼ一日です。昨日の午後からずっと」

「そうか」

「はい。それで、今うなされていたようでしたので、何とか起こしてみようと」


 少し声を上げ疲れたのか、リーシャはふっと胸を撫でおろした。


「今のヴァルツ様は、いつものヴァルツ様ですよね」

「……」


 あの時、意識がもうろうとする中、僕がダリヤさんに手を上げたことは、なんとなく覚えている。

 そして、マギスさんを守るリーシャに止めてもらったんだよな。


「お前の目は盲目(もうもく)か?」(そうだよ)

「……! 良かったです」

「ふん」


 この口調で伝わるのもどうかと思うけど。

 よし、そうとなれば。


「あ、ヴァルツ様ダメです! まだ寝てないと!」

「黙れ」(大丈夫だよ)


 僕は体を起こしてベッドから出る。

 今は何より試したいことがあるんだ。


「一人にさせろ」


 この心の奥でうずうずと動いている、属性魔法を。

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Q.傲慢で非道な悪役貴族に、正義のヒーローに憧れる少年が転生したら?  A.口は悪いが人を救うダークヒーローが誕生する
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