You are the master
6/29(日) ラストにユクの絵追加
(真っ白だ)
一面の銀世界。
空に浮かぶのは、紅玉林檎のような形をした月。
どうやら俺は、まったく知らない世界に来てしまったようだ。
「原始人」
(……ん?)
唐突に、白い生地の向こうから声が降ってきた。
「なんでこんなところで寝てるの?」
俺は顔を上げた。
この時のことを、俺は今でも憶えている。……念のため言っておくが、
生地のことじゃない。
長い髪、貴族めいた立ち姿。
黒と銀の色合いは、近所にいた利口なワンちゃんを思い出させたが、
まあ、それは今は置いておく。
(なんで、寝てるかって?)
それは、こっちが聞きたい。
命を落としたら、次の瞬間——ここにいたのだ。
あの世なんてなかった。
俺はいきなりこの世界に、ポップしていた。
「……だが、地獄ではなさそうだな」
こんなに乙な地獄があるものか。
それに目の前の少女、見た目は——
うむ、九十四点。
生意気そうじゃなければ、百点もありえたかもしれない。
そんな時だった。
「そりゃそうでしょ。時代が違うだけなんだから」
「……ん?」
今、なんて言った?
「あんたが寝てるそれ。人工物よ。ここはドームシティなの」
「はぁぁあ!?」
思わず飛び起きる俺。
触ってみると確かに、ふんわりと冷たい。けれどそれは、不思議な光を放って、
すぐに消えてしまった。
(いや待て……俺は死んだはずだ。だったら、これくらい不思議でも……)
「理解の遅い原始人ね」
「やめろ!その呼び方マジでやめてくれ!!」
「ふうん? じゃあ、名前は?」
「キョウジだっ!!」
「ふうん。まあどうでもいいけど。契約しちゃえば関係ないし」
「契約……?」
その瞬間、俺は気づいた。
彼女の体には、ところどころ“機械”のパーツがあった。
背後には、執事風の初老の男が静かに立っている。
つまりこれは……!
<問おう。貴方が――> 的なやつだ!!
未来世界で、美少女AIが主を探していたってわけか!!
(よし、理解した!)
街並みはクラシック調、でも明らかに見たことのないテクノロジーが散りばめられている。
歩いているのも……人間よりAIのほうが多い。
(うおおおおお! これは! 今、レアな人間は貴重な存在……!)
「で? 契約するの? しないの?」
「もちろんするとも、貴族風AIお嬢さん!! こんな機会、逃すわけがない!!」
「貴族……? ふふっ、急にテンション上がったわね」
「いやあ、気のせいじゃないですかね!」
「ちゃんと、覗いたぶんは働いてもらうわよ。私は合理主義なの」
(……ん?働く?)
「じゃあ、膝をついて」
「へ? あ、はいはい」
言われるがまま、俺は片膝を地についた。
――そして、次の瞬間。
カチャッ。
「……ん?」
俺の首に、ひんやりとした感触が走った。
見ればそこには、小さな首輪。
「ふふ。契約、完了。今日からあなたは——ユク様の、専属奴隷ね(はぁと)」
「え」
「なに?」
「いやいやいやいやいや!?!?」
「だって言ったじゃない、主従関係って」
「俺が“主”じゃないのかよおおおおおお!!?」
雪の中、俺の絶叫がこだました。
「面白い原始人ですね、ユク様」
「ふふっ。そうでしょう?実は私……一目見た時から、気に入ってたの。
……縄文人かしら?」
「れいわぁぁぁああああああ!!!!」
そしてこの日——、四村キョウジ(21)童貞の奴隷生活が始まった。
※絶賛ニート中(元野球部補欠)。