第1話 お出汁の卵焼き
2作目です。
ヒーローはまだ出てきてないです。
夏の終わり。まだまだ暑い日が続く秋の朝。私は響お兄ちゃんがアイロンをかけてくれたシャツに腕を通し、鏡の前でネクタイを整えた。
眠たい目をこすりながら洗面所から出ると台所に立ったお兄ちゃんがご飯をよそっていた。
食卓にはすでに卵焼きと豚汁が湯気をたてて置かれていた。お兄ちゃんからご飯を受け取り一緒に席についた。
「「いただきます。」」
お兄ちゃんの作る卵焼きはとても美味しい。日によって甘いときもあれば、しょっぱいときもあって、今日はどんな味がするのか口に運ぶまでとても楽しみだ。今日はお出しの味がよくきいていてご飯がよく進む。
「律、今日はネクタイがうまく結べているな。やっぱり半年過ぎると上達するものだな」
「響お兄ちゃんが教えてくれたからだよ。今日の卵焼きお出しがきいてて美味しいね。流石お兄ちゃん」
「それはよかった。ありがとう」
物心ついたときから、私のことを育ててくれたのは響お兄ちゃんだ。両親はすでに亡くなっていて、幸いにも遺産があったからお兄ちゃんは大学に行きながら、就職して今日まで私を育ててくれている。
母の記憶はもうほとんどない。私を産んだあと、すぐに父が交通事故で他界した。母は父のいない現実から逃れるようにがむしゃらに働き、私が5歳、お兄ちゃんが18歳のときに過労で倒れた。
そのことからかお兄ちゃんは私が働くことを良しとしてくれない。少しのお手伝いは許してくれるけど家事という家事はさせてくれない。できるだけの世話をしてくれるおかげで父と母がいない寂しさは特に感じることはなかった。
お兄ちゃんは手先が器用でなんでも家事からなにから全部できた。
小学校高学年になってからのある日。普段から私をひとりにしないようにしているお兄ちゃんが滅多になく残業をした日だった。
私が料理をしなくても済むように普段から電子レンジ調理ができるものは用意されていたけど、喜ぶ顔をみたくて家にあったレシピ本をみながら、包丁を握った。
結果、まだトマトは使っていないのにまな板が赤く染まった。
そのとき、ちょうど帰ったお兄ちゃんは台所を見て叫んだ。慌てて傷の手当てをされたあと、私は包丁を禁止された。
それからだ。あの悲しい表情を見るくらいだったら私は勉強に打ち込んで、将来は給料のいい職についてお兄ちゃんを安心させよう。と誓った。
「ご馳走様」
私より先に食べ終わったお兄ちゃんが食べ終わった食器を運んでいく。手早く食器を洗い、自分の荷物のチェックをしている。「律、食べ終わったら置いておいて」と手元を見ながら伝えてくる。
私は素直に返事をして、食器を水道において汚れを浮かせるために蛇口をひねった。私は歯も磨き終わって今日の占いを見ている。5位だったか、残念。
「そろそろ家を出る時間だ」
お兄ちゃんが時計を見ながら言った。
「なあ、律ほんとに大丈夫か。家政婦とか雇わなくて」
「響お兄ちゃん。心配なのはわかるけどうちに知らない人がいるのは嫌だよ」
お兄ちゃんは今日から3ヶ月の間、遠方の支社に出張に行かなくてはならない。今までは私のお世話があるからと免除されていたが、今年から高校生になったことでついに行くことになったのだ。
出張が決まってからというもの、私が生きていけるように包丁がなくてもできるレシピや洗濯機の使い方などを教えてくれて、たくさんのノートに書き残しもしてくれた。
「それに私も高校生になったからそろそろ自分で頑張らないと」
「はあー、わかった。ただし、どうしても無理なときは連絡しろ。あと週末は絶対に電話してくれ」
「はーい。じゃあ、いってらっしゃい響お兄ちゃん」
お兄ちゃんを玄関で見送ったあと私も家を出る準備をする。まあ鞄を持つだけだけど。
スニーカーを履き、誰もいない玄関に向かって呟く。
「いってきます」
これから3ヶ月頑張って生き抜こう。こうして私、和泉律の1人暮らしが始まった。
読んでいただき、ありがとうございます。
見切り発車だけど、頑張ります。




