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そうでは無い。


Nopeという言葉がある。


ノーの言い方の一つであり、意味としては題名の通り。


単に否定の言葉であるが、この題名を冠した映画が世には存在する。


果たして、その映画は何を否定しているのか。


今回はゲットアウトという映画作品で有名な監督が送る奇妙なホラーについての感想を記そうと思う。


人間の持つ悍ましき狂気を描いた監督の作品は、今度は何を表現しているのであろうか。


-----------------


本作の最初は中々に衝撃的な場面から始まる。


血塗れの姿をした、子供用の服を着たチンパンジーが、恐らくはスタジオで暴れ回った後の映像が映し出されるのだから。


酷く不穏な映像の中には、横たわってぴくりとも動かない少女の姿が。


彼女の靴が真っ直ぐ立っているのは映像的に結構なフックとなっており、奇妙な奇跡も伴って嫌な気分にさせてくれる。


その後、暗い画面でタイトルコールが為され、場面は一気に陽の光で明るい農場へと移っていく。


農場の風景はのどかな物で、ここで観客は主人公とその職業に対面する事となる。


いかにも朴訥な感じを受ける黒人男性と、映画用の動物を育てている牧場の風景。


穏やかな風すら感じる農場の風景は、突然の異音と共に崩れ去っていく。


夏の昼空、雨雲も感じない雹の様な音が鳴り始めると、先程まで一緒に働いていた主人公の父親が突然と倒れる。


この転換場面の突然さは意表を突いており、それまでは家族映画の如き雰囲気が一気に緊迫感を持たせる事に成功しており、この映画がホラー映画である事を否応なく知らせた。


見ると、右目から血を流して倒れている姿が画面に映る。


酷く痛々しい様子と共に流される、次第に弱りいく姿は観客に焦燥感を与え、助かるかどうかの主人公の気持ちとリンクさせていく。


助かってくれないかと、どうにか生きていてくれないかと。


暗転。その直ぐ後に映し出されるのは明らかな死体。


間に合わなかった事を映像一つで如実に表しつつ、ここで主人公は一つの疑問に至る。それが何かは、この時観客には分からない。


しかし、画面が転換し、遺体である父親のレントゲン写真が映し出されると、観客の疑問が幾分か氷解していく。


レントゲンに映し出されたのは、右目にめり込んだ謎の物体。それはどうやら、鉄製の部品のようであった。


何故、そんな物が突然と落ちてきたのか?


本作序盤の謎にして、最大の謎として存在する、天上で起きている何か。それを調べるのが本作の縦筋となる。


話を戻すと、父親の死亡から幾分か経ち、主人公が仕事を継いでいる様子が映される。この時に映されるのは、仕事がうまくいかない、人生が好転していない様子。


この場で登場するのは主人公の妹で、一人で動き回り、空回りをしていく上昇志向の強い様子が見え隠れする。


どうにかして成功したい、どうにかして有名になりたいという感情が台詞と動き、表情から強く分かる様になっている。


内向的で仕事が上手くいかない主人公と、何がなんでも成功したい妹。彼等二人の兄妹が本作の狂言回しとして、話を進めていく。


なぜ、父親は死ななければならなかったのか。


どうして金属部品は落ちてきてしまったのか。


彼等は当初、この疑問に対して円形の未確認飛行物体…UFOの存在を疑う。


と言っても、最初はその映像を撮って一儲けしようという妹主導の、どこか冗談染みた感じでしか無かった。


しかし、それは突然と訪れた竜巻の様な何かが牧場を訪れた際に真実へと姿を変えていく。


電子機器が異常をきたし、全てを呑み込む嵐が家を襲った時、彼等は漸くと現実に気付いた。


何かがここに存在し、攻撃をしていると。


本当にUFOなのかも知れない、そう思って興奮する妹は知り合いのカメラマンに映像を撮ってもらう様にせがむものの、その対応はどこか冷たげであった。


このシーンでのカメラマンのセリフ、有名になりたい一番になりたいという願いは際限が無いという物は、本作品の元凶と言える人物にも繋がる台詞だったりもする。


映像を撮る撮らないのすったもんだの末、盗撮をしていた人物の助力を得る事となった主人公一行。


彼等は牧場の周囲を映すカメラの映像を見て、とある事に気付く。一つの巨大な雲が微動だにしない事に。


そこにUFOがいるのか、そう仲間の一人が問いかけると、主人公はこう答える。あれはUFOなどでは無いと。


意志ある何かの存在を確信する表情と声は、観客へと否応なく説得力を感じさせる物であった。


その後、場面が暗転すると再び冒頭の場面へ。


暴れ回るチンパンジーが人を殴り、噛み、千切る様子を子供視点で見せられるのは、想像以上に恐ろしい物であった。


なにせ環境音のみが場を支配しており、あまりにもうるさ過ぎる画面と対照的に、息すらも吐く事を躊躇う様な緊張感がこの場面では形成されている。


動物園では聞き慣れた猿の鳴き声も、今、この場に於いては怪物の唸り声に他ならない。


そうこうしていると猿が観客の視点…少年役の人物と障害物越しに目が合い、此方へと近づいてくる。


その時の猿の様子は何処か穏やかで、まるで敵意を感じない。それもその筈で、視線が道具に阻まれて合わせなかったが故、猿は相手を人間と認識しておらず、単に興味本位で動いているに過ぎない。


偶然によって訪れた静かな時間は拳と拳を合わせ合う友好の印を刻む、瞬間に銃声によって現実へと引き戻される。


人を害した動物である以上、殺処分は致し方の無い処置。


しかし、この時に少年が感じた感情はそのまま違う物へと昇華されていく事となる。


即ち、自分自身が特別な存在であるという証明。


動物と友達になれるという、自分だけの特別な能力。


少年はそのまま成長し、軈てとある見せ物小屋を建てるに至っていた。


宇宙からの友人との邂逅、そう記された看板の場所には、主人公一家を害したあのUFOが近付いていた。


そう。全ての発端はこの少年。この少年の特別である、という意識が未確認飛行物体を呼び寄せていたのである。


ここに来てようやくと存在が明らかにされる訳だが、未だ全体像が描かれている訳では無い件の飛行物体。


しかし、この物体には見るからに感情が備わっていると観客は気付く。声をがなりたて、雲から風を吹き荒ぶ様子は明らかに怒りである。


そう。この物体は怒り狂っていたのだ。自分を見せ物とする事、敬意の欠片も見当たらぬ人間の悪意に触れて、自尊心を傷つけられていたのだ。


ここでタイトルのNOPEの意味の一つが解読される。


動物に対して敬意を払わない事、誰かに対して敬意を払わない事、それは大いなる代償を払う事になるであろう事。


どんな理由を持っていようと、相手の感情を無視するやり方は『そうでは無い』方法に他ならないのである。



さて。この場面に於いて生物である事が分かった『NOPE』は、遂に人間や家畜を喰らう怪物となって場を荒らし始めていく。


無機物も一気に喰らい、消化が終わればそれらを排泄する。


ここに来て主人公の父親の死因が判明し、主人公は怒りに打ち震え、この怪物を退治する事を決意していく。


しかし、相手は物言わずとも全てを喰らい尽くす怪物に他ならず、それに対してどう主人公は対処していくのか…。


本作はここからジャンルが変わり、モンスターホラーからそれを退治する者達の話へと姿を変えていく。


一体如何様にして彼等は怪物を倒すのか。


それは本作を見てのお楽しみという事にしておこう。

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