スーパーなヒゲのヒーロー
4月28日である。4月28日なのである。
何でもない日だが、実際の所は何かが有る日じゃないとこんな言い方はしない。そして、実際に何かある日だ。
そう、この日はゲーム界のスーパーヒーロー……言わずと知れた有名人たるマリオの映画が日本に上陸した日。
予告を見て、面白そうだなと見に行った所、これが中々に面白かったので、即座に感想を書くに至った次第。
と言う訳で今回紹介するのは『スーパーマリオブラザーズMovie』である。
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本作の事前評価、それはアメリカでは評論家からは評判が芳しくなく、観客からの評価は異様に高いと言う物だった。
で、実際に見てみた所、その評価も納得が出来た。
と言うのも本作、ストーリーそのものは手垢が付きまくった王道も王道、行って帰ってくる物語だったからである。
本作のストーリーは、うだつの上がらない配管工の兄弟が異世界に迷い込み、その世界での冒険を通じて成長し、元の世界へと戻って成功を収めると言う物。
何処かで見たような話運びだし、実際色んな作品で用いられている方式だが、本作に於いてはその王道の物語が効果的だったと思われる。
と言うのも映画中では必要最低限のストーリーで話の推進力を得た後は、それ以外の部分を全てファンサービスと小ネタで埋め尽くしているからだ。
物語を評価する評論家にとっては、この部分が高評価に出来ない理由なのだろう。てか、評価のしようが無い気もする。
なにせストーリーらしいストーリーを構築する気が最初から無いのだから、なんなら映像の楽しさ全開にする為に削ぎ落としまくってる感も有る。
実際にレビューを拝見した所、ファンサービスの量については褒め称えているような物が多かった。
此処から察するに評論ウケし辛いというより、加点がし辛い作品だと言うのだろう。考えてみれば大衆向けの娯楽作品に関しては、そういう評が多いような気もする。
知らんけど。
さて、本映画のファンサの豊富さは凄まじいの一言である。
冒頭のcmのシーンからして、映画版の声優がゲーム版の声優に演技の出来を聞く場面が挿入される程。
cm自体もマントマリオ(これの表現方法が好き、子供でも出来そうで)だったり、ゲームキューブの起動音が着信音だったりと小ネタも多い。
この時に出てくる嫌味なキャラクターがFCのレッキングクルーからの登場人物らしいとか聞いたが、それは本当なのだろうか。そうだとしたら、実に細かいネタまで拾っている。
また、この時に仕事に行くシーンを通じてマリオとルイージの性格、身体能力の高さを短めの時間でしっかりと描写しているのは評価するに値する所だろう。
個人的には冒頭での工事現場のシーンをゲームでも体験してみたいなと思う位には魅力的だった。
さて、この後はマリオのうだつの上がらない部分を必要最低限描写する為、家族や仕事の描写が映し出される。
本作で初登場したと思しきマリオブラザーズの親兄弟達だが、これが驚く程にそれっぽい感じがして驚く物だ。
そう言えばという話になるが、彼等の家に貼られているポスターや遊んでいるゲームにも小ネタが詰まっていて楽しい。
パルテナの鏡やベースボールのポスター、初代ドンキーコングの筐体など、画面の至る所に小ネタが挟まれているのでそこを見る為に複数回観るのも良いかも知れない。
その後は、オデッセイで見覚えのある市長がニュースに現れ、ブルックリンが大洪水状態になっているとの報が。
その後、なんやかんやあって見慣れた土管の中に入り込み、ワープゾーンへと突入。兄弟は離れ離れになってしまう。
本作ではゲーム版の様なプリンセスを取り戻す物語は些か鳴りを潜めており、その代わりに兄弟であるルイージ、彼が囚われの姫役をこなしている部分が多い。
話を戻そう。ワープの果てにキノコ王国へと辿り着いたマリオは、そこでキノピオ…見た目的にはキノピオ隊長に出会う事となる。
彼から一通りの事情を聞くと、そこからは楽しい世界を映像と共に冒険する事になっていく。
聞いた事のあるBGMが矢継ぎ早に流されていき、キノコ王国などのゲーム世界が映像で見れるだけで堪らない。
というかキノコ王国ってあんな感じだったんだと驚いた。
めっちゃキノコだらけの中を、見た事のあるキャラ達が動き回るのを見るのは非常に楽しかった。
更にキノコ王国の城へと向かうシーンにて、城下町の描写がされていたのも凄く嬉しい所。
初代ドンキーコングのハンマーが売られている店(今でもちゃんと動きますよ的な台詞が憎い)があったり、それ以外にも土管だらけの世界が見せつけられ、笑いを誘うと共に、ここがマリオの世界である事を強調していく。
その後に現れるトレーニングコース等はマリオ要素の極致と言えるだろう。
ステージそのもの見た目もさる事ながら、様々な障害物に何度も打ちのめされながら何度も立ち上がりクリアを目指す様はマリオそのもの……というよりプレイヤーそのものと言っても過言では無い。
懐メロと共にかつてプレイヤーだった観客達はここで感情移入をより一層に強めていくに違いない。
感情移入、という面ではマリオと縁深いドンキーコングも忘れてはならないだろう。
コング一族の代表として共に戦うドンキーはマリオと同じ悩みを抱えており、性格もどこか似た者同士。
ある種の凸凹コンビと化した二人の連携や交流は、ピーチやルイージとはまた違った意味でのキャラの魅力を映画に齎してくれている。
ドンキーのバトルでは樽を用いるAC版をオマージュした動きや、DKシリーズのディディーやディクシー達がカメオ出演しているのも彼の魅力を引き立てるのに一役買う。
そんなドンキーの活躍シーンで最も記憶に残る所と言えば、やはりマリカー宜しくの虹をカートで渡る所だろう。
馴染みあるアイテムとカートの動作を見るのはとても楽しく、特に終盤にて現れるトゲゾー甲羅などは劇場が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれても不思議では無い完璧な代物だった。
一体何人のプレイヤーがあの甲羅にトラウマを刻まれてきたのだろう。劇場で聞こえる「ひゃっ」という小さな叫び声を聞くと、それを思わざるを得ない。
恐怖という面ではこのあと直ぐに訪れるウツボなどは、本作でも屈指のホラー的場面であろう。
マリオ的ホラーはルイージがカロンに襲撃される所などで描写されているが、本作のウツボは原作宜しく、妙に生々しくかつ無機質な表情・行動が恐怖を誘っている。
よくトラウマになったゲームキャラで挙げられるウツボだが、映画制作者にとってもそれは同じだったようだ。
その後、ウツボのシーンが終わってからは遂にピーチとクッパの結婚式のシーンへと移る。
この際に登場している観客席の者達に懐かしい顔ぶれが揃っている事に喜びに似た感情を抱きつつ、展開を眺めていくとゲームステージ攻略の流れでスピーディに進んでいくアクションシーンに目が奪われる事だろう。
この時にファイアーコングやアイスピーチなど見た事無いけど見てみたかった『まさか』を見せてくれるのも有り難い。
その後はマリオ3などでお馴染みの形態で危機を脱し、ルイージを取り戻す事に成功する。
この時に兄弟が再会した際、背後にハート状のアーチが存在した為に別の事を考えたのは私だけだろうか。
その後、物語は最終盤、クライマックスへと到達する。しかし、考えてみれば本作、盛り上がり所ばかりなので何度目かのクライマックスと言うのが正しいと言えるかも知れない。
故郷たるブルックリンに戻り、クッパの圧倒的なパワーに蹂躙されるマリオ一行。
全てに挫けそうになった時、マリオの前で流れる冒頭のCM…無謀の象徴だったこれが数々の冒険を経て、勇気の象徴となるのは心憎い演出である。
その後、勇気を出したマリオだがクッパの猛攻は凄まじいの一言。初代スーパーマリオ宜しくの苛烈な火炎が背後に迫り、あわや大惨事か…と言った所でルイージが登場。
それまでの囚われの姫的な立場から一転し、二人ならばsuperな brothers振りを遺憾無く発揮して大団円となる。
ところでこの時にルイージが持ってきたマンホールの蓋、どっから持ってきたんだろうか。そこら辺の奴を引っ剥がしたのだろうか。そうだとすると凄い。
まあ、なんだかんだと言ってきた所で結びとするが、本作を表現する言葉は最後、序盤で嫌味な役をしていた彼奴が言った『こいつらがスーパーマリオブラザーズだ!』の一言に集約されているだろう。
本映画は中身も、楽しさも、劇場で流れる任天堂のCM的にも紛れもなく、楽しい『だけ』の映画である。
ゴールデンウィークの最中、お暇な時間が作れれば是非見ていただきたいと言える、娯楽大作と言えるだろう。