イケメン×アクションはやっぱり面白い物だよ。
日本はヒーロー映画を作る土壌が余り無いと言われている。
海外のマーベル作品などと比べ映像技術が未熟(最高峰の最高と比べてんだから当然の話だが)で、予算も潤沢とは言えず、客が興味を持たないジャンルとされているからだ。
実際、日本にはスーパーヒーローが活躍する実写映画が中々出てこない。一回り前の時代だと、アクション映画ですらあまり見当たらなかった。
長年と続いているヒーロー系でいうと特撮系の物が挙げられるが、此方も出来の良さ云々は置いておいて、世間の評価は『子供向け』のままで、未だに歯痒い思いをしている。
果たして日本という国に於いては超人達が活躍する映画は、海外のスタジオにお株を奪われたままなのだろうか?
それは違う。少なくとも今現在新たなる形で、しかも日本独自となるスーパーヒーロー映画が公開されているからだ。
そんなご大層な前置きで感想を述べたいのはこの映画…『刀剣乱舞-黎明-』である。
何故、私がこの映画の事をそんな風に思っているのか?その事について、これから記していこう。
--------------------
まず先に話す事が有るのだが、筆者は特別『刀剣乱舞』が好きだった訳でも無い。
この映画が第二作目という事も全く知らなかったし、設定もよくは覚えていない。キャラの名前も朧げである。
元となったゲームを触った事はあるものの、ゲームシステム的な都合で早々にリタイアし、今の今まで他国の出来事の様な感じでこのタイトルの事を眺めていた。
そんな私が観る切っ掛けとなったのは何時も贔屓にしているレビューサイトにて、妙に熱の籠った推薦文が記されていたからだ。一体何が彼をここまで突き動かしたのだろう……そう思いながら劇場に向かったのを覚えている。
で、実際に見てみると成程、これは太鼓判を押すのも分かる中々の出来。自分もゲームをもう一度してみようかな、そう思わせる代物であった。
話の内容は実にシンプル。
未来から過去改変を目論む敵勢力が存在しており、彼等の歴史介入を阻む為に味方勢力……刀剣男士が戦うといった物。
他にも独自の用語や設定が存在するが、まあ基本はこれを抑えておけば問題無い。
覚えておくべき設定と言えば、刀剣男士が具現化する為には物の声が聞ける主が必要、という事くらいだろうか。
私のつまらない話はさておき、此処からは本作の面白いと思った所を記していこう。
一つ。アクションが見応えあるし、バリエーション豊か。
本作では文字通り、刀剣による乱舞が大盤振る舞い。
最序盤からして鎧武者達が乱れ居る大乱闘、その後に刀剣男士によるスタイリッシュな戦闘シーンが繰り広げられる。
飛び跳ね廻り、襲い来る敵を一太刀で断つ。
光煌めく一閃の元、敵役をバッサバッサと撫で斬る様は非常に格好良い。最近では映画館で時折出てくる時代劇物でしか得られない栄養が、本作品ではたっぷりと摂取出来る。
またシチュエーションが豊富なのも素晴らしい所。
上記の合戦さながらの大戦以外にも、河川敷の様な開けた場所での戦闘、工場での三つ巴かつギミック満載のバトル、住宅での狭い場所による鍔迫り合いなど見所満載。
特に一番盛り上がる所は最終盤、敵の大軍vs刀剣男士達による街中での大立ち回りだろう。
アクロバット有り、連携有り、格好良い殺陣有りと、本作の魅力たっぷり。それが長時間続くのだから、ファンにとっては至福の時と言っても良いのではないだろうか。
そうそう。ファンと言えば彼等及び彼女等が愛する刀剣男士達もまた、映画の魅力を上げるのに一役買っている。
それが二つ目。イケメン達が格好良いし、面白い。
私は本作を見る前、刀剣乱舞のメインキャラクターとして描かれている刀剣、三日月宗近については『まあ正統派なイケメンなんだろうな』くらいのイメージしか無かった。
しかし本作を見ると意外や意外、面白い兄ちゃん要素が強くて驚いた。それでいてちゃんと格好良いのだから、一粒で二度美味しい。
気に入ったシーンについて、一つずつ記していこう。
先に記した通り、本作では刀剣男士は具現化している。それは平安時代でも、未来の時代でも、そして当然、物語の主役となる現代に於いても。
なので当然、場の雰囲気に馴染めてなくて違和感バリバリである。もう見た目から絶対違う人紛れ込んでる感が凄い。
なので『えっ、誰この人…』って目で見られる事も多い。多いのだが、それに対して宗近は必殺技を持っていた。
彼は片目を瞑る仕草をする事で、人の気を逸らす事が出来るのである。そう、目を瞑る仕草。つまりはウィンクで。
パチリと妙に可愛げのある感じでするもんだから、これが結構クスリとする。それまでの間、ずっと真面目な顔で真面目な事を言ってるもんだから、殊更そう感じる。
また彼は劇中で刀状態でいたりするのだが、その時に一人でにバッグからファスナー開けて飛び出して来た時は普通に笑った。なんかシュールな見た目がツボに入ったのだ。
そんな宗近氏はどんどん魅力を増していく。
喫茶店で涼しげに抹茶ラテを飲む(客の視線を一身に集めながら)様、だけに留まらず、コスプレだと思って一緒に写真を撮りに来た人と一緒にピースするノリの良さも見せる。
剰え抹茶ラテのお代わりを求めて店内をテコテコ走る様は可愛さすら感じさせ、面白兄ちゃん度合いを加速させていく。
個人的にはこの喫茶店のシーンが非常に気に入っており、普通なら時間遡行者が登場すると、なんだこの道具は!?なんだこの人々は!?と全部にやたら驚くのが常なのだ、が。
しかしだ、同じ遡行者たる宗近はそんなある種格好悪いムーブを取る事は無く、奇妙な物を見掛けても少し物珍しい仕草をするばかりで、クールな態度を決して切らさない。
そればかりか周りの人間の空気に合わせ、行動してくれる始末。イケメンである。イケメンのおもてなしである。
この面白兄ちゃん性は他の刀剣男士達にも存在しており、やたらと弟の名前を忘れる兄弟刀(余談だが、この時に出てきた剣名が知っていた物だったのでなんか妙にテンション上がった)や、人生にくたびれた系おじさんの前に現れる俺様系刀剣など沢山の魅力が画面に溢れていく。
その中でも白眉と言えるのは、織田信長の愛刀としても名高い『へし切り長谷部』その人であろう。…人で良いよね?
彼はそれまで登場して来た刀剣男士達が主を振り回しているのとは違い、逆に主に自身が振り回されるという美味しい……いやいや、損な役周りをさせられている。
旅行だなんだと荷物は持たされ、長谷部と呼べと言っているのに『へっしー』呼ばわりはされ、移動中は友達かの様に馴れ馴れしい態度を取られる。それで眉毛をへの字型に曲げてる姿を見ているだけで、もう面白い。
その上で格好良い所は綺麗に決める。コイツは無敵なのではないだろうか。こんなんファンになるに決まっていようが。
最後のシーンでも美味しい出番貰ってるし、製作者からも愛されてる感が強い。もしかして一、ニを争う人気キャラなのだろうかと、そう勘繰ってしまう程だ。
と。彼等の魅力について語るのはこれ位にして、第三の魅力について記す事にしよう。
第三にして、もしかしたら最大の魅力かも知れない所。
それはファンに対して真摯な態度で製作しているのが、物凄ぉく配慮をしているのが、よく分かる所である。
先ず本作、刀剣男士の服装などを馬鹿にする描写は一つたりとて無い。場に合わないな、コスプレかなと言わせたりはするが、基本的に好意的な態度を崩さない。
というより、そこら辺のお約束は序盤の序盤、ほんの少しだけで済ませ、そこ以外は主役達の魅力を突き詰める事だけに特化している。無駄な雑音は省いているのだ。
それでいて映画の原作、ゲームをしているプレイヤーへの心配りも忘れない。
本作では執拗に『ウチの』本丸、『俺の』本当の主など、妙に一人称の響きが強い台詞が多い。
これは映画中で仮にとは言え、主を違える刀剣男士にショックを受けるプレイヤーへの配慮であろう。
彼等は姿形や性格こそ同じであれど、貴方方と共に歩まれた者達とは異なるのです、だから気兼ね無く本作をお楽しみくださいとの、製作者からのメッセージを感じる。
そんな本作の製作者とファンの関係性、それを如実に表しているのはやはりエキストラの膨大な数だと私は思う。
この刀剣乱舞-黎明-という作品、お世辞にも制作費が高い作品とは言えない。それはセットが少ない事やCGの微妙な出来からも明らかな事である。
しかしだ、本作ではそれを補って余りある程、エキストラの膨大な数が映像としての格を引き上げている。
なんでもボランティアエキストラを集めたとの話だが、それにしても凄まじい人数が出演しており、エンドロールを長々と埋め尽くす様は圧巻の一言。
エキストラの様子は短いながらもカメラでしっかりと映されており、そこから見て取れる彼等及び彼女等の表情からは、本作を愛する感情がありありと伝わってくる。
そんなファンと製作の意向が合致した結果、産まれたのが愛に溢れた本作という事なのだろう。それは間違い無い。
さて。そんなこんなで本作の魅力についてとうとうと語った所、ここら辺で結びといこう。
私は冒頭で本作には海外のスーパーヒーロー映画にも比肩し得る逸材であると、本作の事を評した。
それはアクション面や原作愛にファンへの真摯な態度、愛されるキャラクター造形など、様々な要素の結晶である事は間違いない。
だが、最も特筆すべき点は彼等自身、刀剣男士達の個性にあろう。
この個性とはキャラクター性もだが、それ以外にも彼等特有の物……物に備わる歴史も含まれる。
当然の話だが彼等は刀、一人でに動き回る事は本来不可能。
使い手となる歴史上の人物達、そして他の時代での主代行者たる意志と記憶、それがあって初めて彼等は行動が出来る。
それは逆を言えば、彼等の物語を作品のストーリーに組み込めると言う事。
しかも時間遡行に加え、同種異者が多数居るという設定上、異なる世界線をも観る事が可能でもある。
つまり海外のmarvel作品宜しく、マルチバース展開が出来るという事だ。悪堕ち、善落ち、なんでもござれ。
脚本となる歴史的事件はそれこそ山のようにある事だし、この刀剣乱舞という題材には世界に羽ばたき得る、無限の可能性が秘められていると私には思えてならない。
この作品を作ってくれた製作者一同、そして、この作品を作るまでに愛を注いでくれたファンの方々、加えてアクションを連綿と受け継いできた特撮畑や映画界の人々。
彼等と彼女等に対し、万雷の拍手喝采と惜しみない賞賛を以て、本作の感想の締めとしたい。