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翌日。
魔王バンザはまだ見つかっていない。
今のところ森周辺を蝙蝠に探させているが、森にはいないのか森の地下にいるのかよくわからない状況だった。
「馬鹿をおびき寄せるいい方法って何だと思う?」
シーアたちに宿の俺の部屋に呼んで、作戦会議をすることにした。
議題は今言ったとおりだ。蝙蝠で探しても見つからない。自分で探すのは論外。
それなら、向こうから来てもらうしかないだろう。
「美味しそうな物を置いておくとか」
「馬鹿と言っても、獣じゃないからな?」
「・・・そもそもとして、魔王の目的がわからない」
これが今回の件で最も面倒くさいところだ。魔王バンザの目的が何一つわからない。
キールに聞いてみたのだが、モルテリア共和国に魔王が狙いそうな物はないということだった。
一応手がかりが無いわけでもない。魔王バンザが《氷獣》を使った場所。
アースフェルの洞窟だ。氷の中心部が洞窟だったし、前にアースフェルのところに魔王が来訪したとも言っていた。
ただ、アースフェルから聞いた魔王の印象は少なくとも馬鹿ではなかった。
アースフェルに用があったとは考えにくい。
「何も考えてないってことは?」
「ないと願いたいな・・・。とりあえずおびき寄せられそうな方法を挙げてくれ」
「誰かが囮になるとかは?配下を殺した人を探してるかも」
「それなら蝙蝠をわざとらしく旋回させてるから、そっちで反応するはずだ」
「「「「・・・」」」」
やばい、何も出ない。
「魔力を放出して、おびき寄せるのはどうですか?」
「大きい音出すとか!」
「確かに馬鹿に対してはいいかも。カイ君ならそれくらいできるだろうし」
「マキとマイ、凄いね」
「ん、いいと思う。後、氷を破壊すればもっとわかりやすい」
麻紀と麻衣の提案から、一気に話が進んだ。
2人の発想力は普通に高い。一体何が違うのだろうか。
年齢だって3つしか変わらないのに、この違いである。
・・・まあいいか。今後こういうのは麻紀と麻衣に任せよう。
さて、魔力の放出と大きい音。後は氷の破壊か。それなら・・・
「何かしらの魔法を打てばいいか」
「いいと思う。だけど街に音が届くのはどうかと思う」
「被害はある程度抑えとけばいいって言ってたから、音くらい大丈夫だろう」
「クロト。昼間寝てる時に大きな音が出たら、どう?」
「・・・何か方法ないか?」
セラに言われて考え直す。
確かに寝てるときに大きい音を出されると、迷惑でしかない。
「クロトもセラも昼間に寝ることに疑問を持とうよ」
「まあ、カイ君は昔からよく寝てたからね」
「大体寝てるか本読むかくらいだったからな」
「クロト、よく太らなかったね」
「体質だな」
俺以外にも結構いたが、どういう仕組みなのだろうか。
・・・大分話それたな。
「セラの《存在隠蔽》で音をごまかせないか?」
「無理。今のところ《存在隠蔽》の対象は人物だけ。今後できるようになるかはわからない」
「前に対象範囲と対象人数は変更できるようになったから、多分できるだろ。ただ、今回使うのは無理そうだな」
「クロトの《結界》じゃだめなの?」
「無理だな。防げるのは物と魔法だけだ」
《結界》のことはよくわからない。
魔法と液体と個体は防げたのだが、音も空気も無理だった。
俺の視力で見ても、小さい穴が開いているとかそういうことは無かった。
固有魔法が成長するのはわかっていたが、普通の魔法はどうなのだろうか。
・・・うん、わからん。
「あ、カイ君。できたかも」
「ん?」
南の方を見ると、1つの結界を出していた。
「音を防げるのか?」
「うん。色々試してたら固有魔法が手に入っちゃった」
「あ、そういえば聖女だったな」
「忘れてたの!?」
「何か短剣で冒険者を指導してたからな。あれを見ると流石に忘れるぞ」
「あ、そういえばあの後長剣に変えたんだよね」
「・・・」
本当に聖女なのか?
神、職業を間違えた説。
「まあいい。どんな固有魔法なんだ?」
「多分聖女特有の物だと思うんだけど《聖魔法》だって。《光魔法》の上位互換みたい。聖女って《治癒》とかの回復に特化してる思ってたけど、《結界》に特化してるね」
「それは聖女によってなんじゃないか?《結界》を試してる内に固有魔法が出たんだろ?」
「確かに。まだ例が少ないから多分になるけど、可能性は高そうだね」
「ああ。そういえば、《聖魔法》の中に《聖槍》ってあるか?」
「あるよ。大分強めの魔法だね。・・・あれ?カイ君持ってるやつだよね」
そう、持っているのだ。
使ったのは生贄獣に対してだけ。その時に思ったより威力が高かったため、以来使っていなかった。
恐らく《聖槍》は勇者や聖女といった人間が使うもののはずだ。俺は何故か使える。
こういうときにアースフェルみたいな相談できる奴がいるとありがたいんだけどな。
オロチも知識はあるほうなのだが、神獣ほど神に近いわけではないので職業に関することはわからないのだ。
「これは保留だ。とりあえず《結界》を張るか。大きさの制限は?」
「無いよ。私の魔力だあんまり大きいのは無理だけどね」
「それはどうにかなるな。オロチ、人間に魔力渡しても問題無いよな?」
『はい。ただ、魔物に渡す時よりも慎重に進めないといけないので時間がかかります』
「わかった。じゃあ魔力あれば街1つ囲めるか?」
大きい音を出すと言っても、国1つ囲う必要はない。
この街・・・名前知らないぞ。まあいい。
この街を囲えれば十分だろう。
「うん。大丈夫」
「よし。街の中心部行くぞ」
さて、魔王が来るといいんだが。
まあ馬鹿みたいだし来るだろ。




