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『主、何故アースフェル様の住処に行くんですか?もう何も無いと思うのですが』
「いくつか気になることがある。まず魔王が暴れた森っていうのは、アースフェルの住処がある森だと思ってる。後は細かいところだな。アースフェルがいなくなって精霊はどうなったとか」
『なるほど。確かに気になりますね』
さて、《転移》するか。
・・・
『主?』
「《転移》ができない。何でだ?』
『主が不調ではなく?』
「ああ。発動直前まではいくんだが、途中で遮断される。・・・仕方ない。飛んでいくか」
『ですね』
森の方に行こうと、飛び上がってすぐ。
原因がわかった。
「なるほど、魔王の能力が氷系統ってこういうことか」
『氷系統なのは誰でもわかりますね。それから《転移》ができない理由もわかりましたし』
森の中心部あたりに、やたら大きい氷の塊ができていた。
アースフェルの洞窟も飲み込まれている。流石に埋まっているところに《転移》はできないようだ。
「・・・行くか」
『はい』
とりあえず氷の方に向かう。溶かすかどうかは後でキールに聞こう。
まずは周辺だけ見るか。
『主、少し氷を触ってみてください。何というか違和感が・・・』
「わかった」
氷を尻尾で触っていたオロチに呼ばれる。
オロチは今、人くらいの大きさの龍になっている。
やろうとしたらできたらしい。よくわからん。
「ああ、確実に固有魔法だなこれは。オロチの違和感は普通の魔法と氷の造りが違ったからだろ」
固有魔法は結果だけ産み出す。今回の氷だったら氷を手順を踏まずに魔力だけで生成。
セラの《存在隠蔽》だったら魔力で周りの者の視点と精神への干渉を起こす。
ただ、《存在隠蔽》の場合は力が強いため魔力消費量が多い。
氷は出した量に応じて魔力消費量が変わる感じだろう。
『《氷魔法》を持ってるとわかるものなんですね』
「ん?持ってないぞ。学園であの巨人、生贄獣だったか?を相手にした時に《水魔法》の《ウォーターボール》を冷やして氷を作っただろ?オロチがそれを削ったよな?」
『生贄獣に気を取られて見てませんでした。・・・普通は《ウォーターボール》を冷やすこと自体できないはずなんですがね』
「そうなのか?」
『そうなんです」
・・・そういえばセラも同じようなことを言ってたな。
故郷が違うから発想がずれているのかもしれない。
『・・・主、そろそろ気づかないふりは止めてください』
「何のことだ?」
『何のことだ、じゃないんです。面倒くさいといって放置してると、さらに面倒くさいことになると思いますよ』
「・・・おい、そこの。用があるならさっさと出てこい」
気配がある茂みにそう言うと、細身の男が出てきた。
俺たちが着地した時から近くにいたのだが、絶対に面倒くさいので無視していたのだ。
来るんじゃなかったな。とはいえ、見つけたからには正体くらい確かめなければいけないだろう。
「・・・はあ」
「おい、お前!人の顔を見てため息をつくな!」
「悪い悪い。で、何の用なんだ?」
「我が主よりここに来る者は全て殺せと命じられている。よって、お前を殺す!」
なんか馬鹿っぽいな。
会話してれば色々情報を引き出せるかもしれない。
『てなわけで、オロチ頼んだ』
『駄目です。それくらい主がやってください』
『・・・わかったよ』
「《ファイヤーボール》!!」
「《ウォーターウォール》。もう少し静かに発動できないのか?」
「我が主であるバンザ様にこのほうがいいと言われたのだ!」
うん、馬鹿だ。しっかり名前を教えてくれた。
ついでにバンザという奴まで馬鹿っていう可能性が出てきたな。
「この氷もお前の主がやったのか?」
「ああ。固有魔法で《氷獣》というらしい。ただ、こういう使い方しかできないから主はあまり使っていないな。それでも主は、他の魔法の威力が高いから別にいいのだ!」
ここまでくると罠を疑うレベルだぞ。
ていうか《氷獣》って名前なら、使い方絶対違うだろ。
とりあえずバンザは脳筋のイメージでいいか。
『こんなもんでいいよな?』
『はい。名前とその者の性質だけでもわかればいいかと』
『じゃあ、あいつが固有魔法持ってたらめんどくさいから奥義でやるぞ。試したくもあったしな』
『わかりました』
オロチに《武器化》してもらい、俗に言う居合いの構えをとる。
「奥義《豹桜》」
その場から一直線を最速で進み、首を斬る。
「ちなみにバンザ様は序列・・・」
「・・・なあオロチ。なんか重要なことを言いかけた気がする」
『・・・主、気のせいです』
「わかった。俺たちは何も聞かなかった」
よし。思ったより時間がかかってしまった。
さっさとキールのところに向かおう。




