45.
『前に言った悪魔王を名乗る者が移動を始めた。行き先はウィーン帝国だと思われる』
意味が分からん。
何故よりにもよってここなのだろうか。
ルークから聞いていた悪魔王のいる場所はハラルの街だった。なので、ハラルに行くことも考えたのだが、特に暴れているわけでもなさそうなので保留にしていたのだ。
「オロチ、何でだと思う?」
『何らかの方法で主を感知したか、悪魔界が開いたことに気付いたかではないでしょうか』
軽い気持ちで聞いたら思ったよりしっかりした答えが返ってきた。
まあ、確かに後者はありえそうだ。前者に関しては、限りなく可能性が低い。
俺達の周りを探っているような奴はいなかった。固有魔法を持っていたとしても悪魔王になれる力を持っているということは戦闘系の魔法で、探知的な物ではないと思う。
つまりは、見つからなければいいのだ。
ということで・・・
「シュルトの所で匿ってもらおう」
『ここでいいのでは?』
「いや、シュルトの所は魔道具が大量にあるし隠れ場所も多いからちょうどいいだろう」
てなわけで《転移》
「よし、さっさと話をつけ・・・」
「む?誰だ」
《転移》
なんでだよ!?
シュルト視点
今、俺の所には客人が来ていた
彼は悪魔王のドルドと名乗り、目的は悪魔界に行くことだと言う。
まだ発表もされていない情報を持っているということは、少なくとも悪魔族なのだろう。
しかし、あそこには調査員がいる。今行かせるわけにはいかないのだ。
どうしたものか。
「む?誰だ」
突然ドルド殿が扉の方向に誰何を発した。
「どうされた?」
「今、一瞬だけ気配を感じたのだがすぐに消えてしまった」
「クロトか?」
あ、口が滑った。
「クロト?その者のことを教えてもらいたい」
あ・・・。
まあ、いいか。俺としては悪魔界のことを喋らずにすむならありがたい。
すまんな、クロト。
クロト視点
「先客がいるとは思わなかった。しかもあいつ、ルークが言ってた奴じゃないか?」
『恐らくそうでしょう。名乗る者となっていましたが、ほぼ確実に悪魔王でしょう』
「やっぱりそうだよな。じゃあ目的は悪魔界か」
悪魔王は蝙蝠と影に監視させて、帰るまで隠れていよう。
「ん?誰か来たな。ギルドの使いか?」
『でない方が・・・』
「貴殿がクロトか?少し話したいことがある」
「・・・。とりあえず入ってくれ。目立つ」
オロチの言葉を聞くべきだった。というかなんで来たんだ?
・・・シュルトか。めんどくさくなって俺の居場所を教えたんだろうな。どうしてやろう。
「で、誰なんだ?」
「我は悪魔王のドルドだ」
「それを信じろと?」
知ってるが、しらを切らせてもらおう。
なんかドルドって名前に聞き覚えがあるんだよな。
「信じなくても構わない。1つ聞きだいことがあるだけだ。ゾルゾという名前に聞き覚えは?」
「ないな。名前が似ているが兄弟か?」
そうだ、思い出した。ハラルで戦った悪魔王だ。
ドルドに聞き覚えがあるんじゃなくて、ゾルゾに似ていたから気になったんだ。
「ああ、弟だ。そのドルドなんだが、何者かに殺されたようでな」
「その仇討ちに?」
「いや、弟とは仲違いしていた。それよりも弟を倒したものに興味があるのだ。我は強い者を探して旅をしていてな。弟はあれでも悪魔王だ。それを倒した以上力は持っているはず」
「そうか。見つかるといいな」
「ああ。本当に、な!!」
パァン!
あ、やらかした。来た攻撃が思った以上の速さだったせいで、防いでしまった。
「防ぐか。今までは当たるか避けられるだったんだがな・・・。さっきも言ったとおり仇討ちというわけでもない。強い者を探しているだけだ。本当のことを言ってくれ」
「・・・ゾルゾは俺が殺した。それと、仲違いしていたとはいえお前の弟だ。すまん」
「存外情に厚いのだな。それよりも我と立ち会いをしてほしい!」
それよりって・・・。
まあいい。立ち会いくらいは受けるか。場所は・・・よし、この件は仕返しに使えるな。
「わかった。じゃあシュルトのところに行くぞ」
「了解した」
・・・
「てなわけで誰にも見つからない場所を用意してくれ」
「頼んだぞ」
「クロト、お前ぇ」
「ん?どうした」
「・・・クソ。わかったよ」
よし、スッキリした。
「貴殿はなんというか、こう・・・」
「どうした」
「いや、なんでもない」
「そうか?ていうかその貴殿っていうのはやめてくれ。なんか嫌だ。クロトでいい」
「了解した。よろしく頼む、クロト」
「ああ、よろしく。ドルド」
色々な魔道具を操作しているシュルトを尻目にそんな会話をする。
お、あの魔道具は携帯みたいなものだろうか。欲しいな。
「場所は取れた。行くぞ」
「どこになったんだ?」
「キメラ迷宮の一層だ」
「あそこの名前そんなんだったのか」
「いや、こないだ適当に決めた」
そんなんでいいのか、ギルドマスター。
もしかしたら国の名前とかも適当に決まっているのかもしれないな。
「そのキメラ迷宮?というのはどんな迷宮なんだ?」
「その名の通りキメラばっかりだ。100層以外は全てキメラだ。最後の100層だけ鳥型の亜竜だったな」
あそこの攻略は二度とやりたくない。《転移》が使えて本当に良かった。
「亜竜か。久しく戦っていないな。今度行ってみるとしよう」
「ついたぞ」
「キメラは?」
「先に片付けさせた」
「わかった」
シュルトがここを選んだのは正解だったな。広いし、特に障害物もない。
「さて、始めるか。魔法はどうする?」
「では無しで頼む」
「了解。シュルト、合図頼んだ」
「はいはい。じゃあ・・・始め!」
合図と同時に側面に周り、蹴りを放つ。が、防がれた。ドルドは少しだけ吹っ飛んだ所で停止した。
やっぱり強いな。今まで俺が戦ってきた中で一番だと思う。ゾルゾの時のようにそう出し惜しみはできないし、学園に出た巨人のように隠れながらも無理。この場にいたとしても、亜竜の時のようにシーアたちに任せるのも無理か。
《身体強化》《雷纏》
「ちょっと気張れよ」
「む?・・・ッ!」
今度は真正面から殴りにいく。さっきのような動きをしてもいいのだが、速過ぎて減速という行程を挟まなければならない。そのため真正面が最速。
「のはずなんだけどな。お前、本当にすごいな。また防がれるとは思わなかった」
「なるほど、あのときのあの者の言葉の意味がわかった。嫌みにしか聞こえん。降参だ」
そういうと、ドルドはそのまま気絶した。
・・・やりすぎたか?




