EX.レーガン
遅いと怒られても困るので、すぐさま《黒》に声をかけて精鋭に集まってもらった。
「よし、全員集まったな。今日は俺の知り合いが来てくれたから、特別に訓練をつけてもらう」
「強いんですか?」
「ああ、もちろんだ」
1人が質問してきたので、即答した。というか俺たちにとっては強いなんてものしゃないんだがな。
レートはドルドの強さに感づいているのか、少し青ざめていた。まあ、いくらクロトを知っているとはいえ、自分より強いのと戦うのは俺も嫌だからな。
この後は一度解散して、少ししたらまた集まるということになった。
ドルドは部下がいるということで呼びに行っている。普通に考えたら許可はださないんだろう。だしたときにドルドが驚いていた。
何か企んでいたら、許可をだそうがださまいが関係ないという判断だ。
さて・・・
「おい、無視するな。レーガン」
「おお、レートじゃないか。どうしたんだ?」
「どうしたんだしゃない。ふざけるなよ?」
「わ、わかったから怖い顔で睨むな」
少し前からレートが部屋の中に居たのだが、顔が怖かったので気付いていないふりをしていたのだ。
「あの男は何なんだ?」
「知り合いだ」
とりあえず建前を答えておく。まあ、誤魔化せないだろう。
「違・・・くはないかもしれんが、人間じゃないだろ?」
「何故知り合いというところを否定しない?」
「いや、クロトと親しい奴はどこかおかしいからお前もそうなんじゃないかと・・・」
「・・・」
まずい。反論したいのだが、その理由を聞かされると俺もどこかおかしいのではないかと思ってしまう。
今度ゲルドに聞いてみよう。
「それはともかくとして、確かにあいつは人間じゃない」
「露骨に話をそらしたな。まあ、いい。魔族か?悪魔族か?」
「いや、悪魔王だ」
「・・・ハラルはどうなっているんだ?」
「それは俺も思った」
まあ、確かに種族たけをみるとここはヤバイ。ただ、クロトも良いとはいえないが害はないし、ドルドもただの戦闘が好きなだけ虐殺が趣味というわけでもない。一応、性格的には恵まれているのだ。
とりあえずレートには頑張ってもらおう。
レート視点
「レーガンが言っていたレートか。我はドルドだ。今回はよろしく頼む」
「レートだ。こちらこそ」
殺さないし、武器も木剣でということだったので開き直ることにした。
強い奴がきたのだ。今の自分たちがどこまでできるか、確かめてみよう。
「よし、全員揃ってるな。準備はいいか?」
「「問題ない」」
「では・・・始め!」
レーガンの合図で、始まった。
自分たちの作戦は2人を突っ込ませて、その隙を後ろの残った者で突くというものだ。
・・・がその作戦は初期段階で、破綻した。
その2人がすぐに気絶させられたのだ。それもほとんど目に見えない攻撃でだ。
正直、舐めていたと言わざるを得ない。いくら強いとはいえ、膂力と魔力の範疇だと思っていた。
しかし、今の攻撃は単純な力ではなく緻密さがあった。
少し考えればわかることだった。殺さないというルールは、緻密性のある攻撃ができない限りつけないだろう。
「仕方がない。突っ込むぞ!」
「「「おう!」」」
当然言葉のままの意味ではない。ただの合図だ。
私たちの相手は基本的に魔物だが、人型を相手にする可能性も低いがある。そのため、人型相手の訓練もしている。
今やろうとしているのは、そのうちの一つだ。突っ込むふりをして一気に囲み、攻撃する。これが自分たちが持つ戦術の中で、最も練度が高い。
・・・それでも。いや、やはりと言うべきだろう。悪魔王はただの人型ではなかった。
囲むところまではいった。少し驚いた顔をしていたので、奇襲は成功したのだろう。
が・・・
「・・・ッ!?」
「ほう、防ぐか。確かに強いようだ」
「嫌みにしか聞こえないよ。降参だ」
自分に対する攻撃はかろうじて防いだ。
しかし、自分が吹っ飛ばされた衝撃のせいで動きが止まった自分以外はその隙に気絶させられてしまった。
さすかに1人で勝つ見込みはないだろう。
完敗だ。
レーガン視点
「レートは強いな」
「だろ?うちで一番強いからな」
終わった後、《黒》の面々には休んでもらい俺はドルドと話していた。
「それに集団の動きも強かった。あの連携を毎回できれば、大半の魔物には勝てるだろう」
「悪魔王のお墨付きか。心強いな」
これはあいつらに伝えてやろう。喜んでくれるだろう。
特に、ドルドの正体を知っているレートは。
「一つ提案があるのだが、いいか?」
「ああ、なんだ?」
「あの・・・《黒》、だったか?に修行をつけたい」
「・・・こちらとしては願ったり叶ったりだが、いいのか?」
「ああ。あいつらはもっと強くなれるだろう」
だが、それだとこちらから対価として用意できるものは大してない気がする。
「代わりに、我と我の部下をこの町においてくれないだろうか?」
「いいぞ。できる限り補助しよう」
「助かる。我々に安心できる寝床というのはなかなかないのでな」
それはそうだろう。悪魔族を町の中に進んで入れる者は、そういないだろう。
「それじゃあ、早速明日から修行を頼んでいいか?」
「ああ、もちろんだ」
こうしてレートたちの修行は始まった。
・・・
少し経って。
ドルドとその部下たちは、大分町に馴染んでいた。ハラルはそこまで大きい町ではないので、大半の住民と知り合いになっていると思う。
そんなある日。ドルドが突然部屋に入ってきた。
「所要ができたので、ウィーン帝国に行ってくる。すまないが我の訓練は一度中断させてくれ」
そう言うと急いで出て行ってしまった。
俺は秘書的な役目を果たしている悪魔族の青年と顔を見合わせ、2人してため息をついた。
・・・なんで《王》はこんなにも自由奔放なのだろうか。




