43.感情②
オロチ視点
「クロト、ちょっといい?」
『主はいませんが、どうぞ』
呼びかけたのはシーア殿だけだが、他の方も勢ぞろいしているようだ。
大方さっきの話関係だろう。主は自分の話が始まったとたんに外に出てしまった。
シーア殿達に声量を抑えるという発想はなかったらしい。
「カイ君はどこに行ったの?」
『先ほど風にあたってくるといって外に出ました』
「はあ、変なところで小心者なんだから」
前の世界からの付き合いというだけあってミナミ殿は主のことをよく理解している。
さて、どうするべくだろうか。正直、彼女等との距離感をどうすればいいのかわからない。
主は自分に弱点がないと言っているが、そんなことはない。
「・・・オロチにとってクロトは何?」
『もっとも尊敬するべき主』
突然質問したセラ殿の真意はわからないが、これだけは自信を持って言える。
瀕死の状態を助けられ、武器として使えるようにしてもらい、今も愛用してもらっている。
そのことに報いたいというのもある。だが、それ以上に自分の主が今後何を為すのかを見てみたい。
それくらいに主は魅力的な存在だ。
「そう・・・」
少し安堵のような表情をしたセラ殿を見て、理解した。
自分が主に好意を抱いているのではないかと思ったのだろう。
セラ殿に限らず、ほかの方も主に好意を抱く者が増えるのは容認するのだろう。しかし、それでも増えないに越したことはない。
・・・まあそれも難しそうだが。主はこの世界にとっては少し珍しい容姿だが、整っている。それに加えて、あの戦闘力だ。表面の性格だけ知って離れる者はでるだろうが、増えるのは防げないだろう。
「「「はあ・・・」」」
「めんどくさいのが来たら・・・」
「消す・・・」
特に会話は無かったが、全員同じ考えに至ったようだ。マキ殿とマイ殿は物騒なことを言っているが、他の方は呆れたような感じだ。
この状況は、普通の人からすると主は恵まれているのだろう。
・・・ただ、主は迷惑だとは思っていないだろうが恵まれているとも思っていなさそうだ。
「えーと、どういう状況だ?これ」
主が帰ってきた。自分は隅のほうにいるとしよう。
南視点
「えーと、どういう状況だ?これ」
「カイ君が部屋にいなかったからオロチちゃんと話してたの」
「そうか・・・すまんな、オロチ」
なんでオロチちゃんに謝るんだろう?特に不都合なんて・・・カイ君、私たちとの会話が負担になるなんて思ってないよね?うん、ないだろう。
「カイ君、お話があります」
「あ、ああ」
「とりあえず、さっきはごめん」
「それに関しては謝ることじゃない。さっき悪・・・くはないがおかしかったのは俺だ」
様子をみる感じ、少し悩んでいるだけで気負うとかはないみたいだ。
「多分だけど、カイ君は迷ってるんだよね?」
「・・・よくわかったな」
「当然。どれだけ一緒にいると思ってるの!」
「そんな長くない。3年くらいだろ」
「・・・確かに」
もっと長いかと思ってた。
「ってそうじゃなくて。カイ君は気にしなくていいんだよ」
「クロ兄は私たちの立場わかってる?」
「私たちは勝手にクロ兄の側にいるだけ」
私だけがカイ君と話していたせいかマキちゃんとマイちゃんが少し不機嫌そうに言った。
カイ君はだから?という顔だ。言いたいことが全くわかってない。
「つまり、私たちの都合に合わせずにクロトの好きにしていい」
セラが簡単にまとめてくれた。のに、
「・・・だからといって全く気にされないのは困るけど」
ちょっとセラ、確かに困るけど!今言うことじゃないでしょ。
カイ君はどう返そうかを考えているみたいだ。
「はあ。わかった。あまり悩まないようにする」
「そう言って隠れて悩んだりしないでね」
まあ、ここまで言われて悩むような性格ではないし、そうなったら私かマキちゃんとマイちゃんが気付く。
・・・時間が経ったらシーアやセラもわかるようになるんだろうな。なんか複雑。
「・・・わかった」
カイ君は少し意外なことを言われたような顔をして、了承した。
隠れて何かをするという発想がそもそも出ていなかったみたいだ。
・・・まあ、そこまでは良かった。ただ、その後が問題だった。
カイ君が
「感謝する」
と言いながら、少し笑った。少し笑うくらいなら普段からある。
問題は質だ。いつもはからかう感じなのが、今回はどこか優しい感じだった。
それだけなのに効果は抜群である。・・・つい顔を背けるくらいには。
背けた先には同じように顔を背けた皆の姿がある。この状況どうしよう。
『はあ。主、皆さんの話は終わったようなので、少し自分の話をよろしいでしょうか?』
「ああ、いいぞ」
『では外で』
そういう会話をして、カイ君とオロチちゃんは出て行った。
・・・ありがとう、オロチちゃん。
「クロト、あんな表情するんだ・・・」
シーアの言葉に全面同意します。




