EX勇者
僕たちはルーナ王国に帰ってきた。しかし、アメリアの手伝いをするどころではなかった。
クラスメイトが1人さらわれたのだ。
・・・迷宮攻略を終え、帰る途中。移動手段は馬車だったが、1台に全員が乗るのは当然無理だ。そのため何台かに分かれて、1列に並んでいた。
突如、後方で大きな音がしてすぐに戦闘音らしきものが聞こえた。
「多分盗賊の類だと思う。勇気君は待ってて。私が加勢に行ってくる」
「わかった。そっちは優香に任せる。僕は前のほうに事情を伝えるよ」
そう言って戦闘音とは逆のほうに進みかけた時・・・
「勇気君!ただの盗賊じゃない。魔族が数体交ざってる!」
「なんだって!?」
慌てて優香の行ったほうに目を向けると、確かに魔族らしき者がいた。
ただ・・・少し違う?魔力量は確かに魔族の基準と同じくらいだが、魔族程不快感のような物は感じなかった。・・・しまった。僕は何をしているんだ!それどころじゃないだろ!早く加勢に行かなければ。
「優香、馬車に近い奴から攻撃するよ!」
「うん!」
まずは被害を出さないようにしなければ。
しかし・・・
「なっ!?受け止めグッ」
「ゆうカハッ」
受け止められ、さらに優香と一緒に弾かれてしまった。
「この程度か。だとするとゾルゾを殺したのは勇者ではないか」
「ドルド様、この者は聖剣を持っておりませんが?」
「まだ手に入れていないだけだろう。聖獣は気まぐれでもあるからな」
「どういたしますか?」
「勇者は放置だ。次の候補の元へ向かうぞ。それとあの者どもは連れてこい」
「承知しました」
何を言っているんだ。ゾルゾ?聖獣?候補?
・・・ドルドとゾルゾ。名前が似ているのは何でだろうか。
まただ。思考が変な方向に行く。まずはこの状況をなんとか・・・
「寝てろ」
「ぁ・・・」
・・・
「勇気様、勇気様!しっかりしてください!」
「・・・ん?アメリア?」
なんでアメリアがここに?僕たちはウィーン帝国から帰ってる途中・・・
「アメリア!魔族はどうなった?」
「・・・わかりません。巡回の者が勇気様方に気づいた時は全員が気絶している状態でした」
つまり数的有利があったにもかかわらず負けたということだ。
・・・こんなんで勇者なんかやっていけるのだろうか。
「それから・・・勇者様が1人と従者が1人攫われました」
「・・・え?」
そういえばドルドとかいう奴がだれかを連れてこいって言ってたような・・・
「攫われたのは誰ですか!?どこにいるんですか?」
「落ち着け、小僧」
「え!?大賢者様?何故こちらに?」
突然出て来たのは最強と呼ばれる大賢者だった。
大賢者。
人類最強の魔法使いと言われ、その魔法で不老の体になり長い間生きているということだ。
会ったのはこれが初めてではない。とはいえいい顔合わせであったわけでもないが。
こちらに来たばかりの頃。城の中を歩いていた僕は大賢者様と会ったのだが、迷子かと聞いてしまった。
それはしょうがないと思う。なにせ大賢者様は何故か、幼女の姿なのだ。
ただ、それは僕視点であり大賢者様からしたら不愉快だったのだろう。魔法で吹き飛ばされてしまったのだ。
というわけで、僕は大賢者様が苦手だ。しかし今はそんなことを言っている場合ではない。
「ここにいる理由くらい察しろ。小僧、敵は魔族だったのか?」
「・・・わかりません。少なくとも姿はそうだったんですが、魔族のような不快感は感じませんでした」
「そうか。・・・姿は一致していたんだな?」
「はい。名前はドルドだと言っていました。他にも聖獣や、ゾルゾといった意味のわからないことも言っていました」
「・・・なら興味は無いな。帰る」
「なっ!?協力してもらえないんですか?」
思わず叫んでしまう。僕より強いのに。最強と呼ばれているのに。
だが、大賢者様から帰ってきたのは冷たい声だけだった。
「その1人を助けないと世界が滅ぶのか?そうではないだろう。なら協力する必要はない」
「そんな・・・」
「まあ、1つ助言はしてやる。その相手は魔族ではなく悪魔だ」
「悪魔?」
「まさか・・・。あっ、お待ち下さい大賢者様!」
僕には意味がわからなかったがアメリアにはわかったようだ。すでに去っている大賢者様を追いかけて行ってしまった。
僕はどうすればいいんだろうか。
アメリア視点
廊下の途中で大賢者様に追い付いた。
「大賢者様、悪魔というのは本当ですか?」
「あそこで嘘をつく意味があると思うか?」
「いえ・・・」
悪魔。
伝承でなら聞いたことがある。魔族とは違い、別次元から来たという者。数は少ないが、魔族よりも高い身体能力を持つらしい。
「ドルドというのは恐らく、100年近く前から生きている悪魔だろう。その弟にゾルゾという悪魔がいるというのも聞いたことがある」
「・・・大賢者様。そのゾルゾという者なのですが、ゾルゾが何者かに殺されたという話を勇気様が聞いたそうです。ゾルゾというのは帝国で騒がれている盗賊のことなのでしょうか?・・・大賢者様?」
大賢者様を見ると驚いた顔で何かを考えていた。私の言葉は耳に入っていないらしい。
「あの悪魔王を倒せる者が人間に?いや、それはないか。それならとっくに噂が広まっているはずだ。となると他の王か?だとするとまずいな。その者は大分力を付けているということになる。どうするべきか」
「大賢者様」
「なんだ?」
「協力はできないのですか?」
「無理だな。ただ、ゾルゾを倒したという者が現れたら戦わずに逃げろ。そして儂に伝えろと言っておけ」
「・・・わかりました」
大賢者様がここまで警戒しているのは初めてだ。
ちゃんと伝えておこう。




