29.依頼
俺たちは迷宮に来ていた。
・・・が、迷宮の魔物が弱すぎた。麻衣、麻紀、南は勇者と聖女だから当然。シーアは俺が訓練を付けたし、セラもそのシーアが訓練している。
というわけで普通の魔物だけでなく、階層主まで瞬殺。迷宮の最後まで来てしまっていた。
「全部一発だったね。クロト、迷宮主はどうする?」
「ここで帰るしかないだろうな。目立ちたくな・・・」
いや、セラの固有魔法使えば倒した後見つからずに出られるか?・・・よし。
1分後。
「「「「「「・・・」」」」」」
なんだろう。この悪いことは何一つしてないのに、犯罪をしたような気分になってくる。迷宮主は一番弱い迷宮の魔物でも必ず重症者は出ると聞いていたのに・・・瞬殺だった。
「カイ君、帰る?」
「・・・そうだな。セラ。固有魔法頼む」
「・・・ん」
その後、物足りなさを覚えながら宿に帰ってしばらくのんびりしていた。
ん?誰か来たな。
「失礼します。探索者ギルドの者なのですが、クロトさんの部屋でまちがいないでしょうか」
「そうだが?」
「こちらのギルドマスターにあなた方を呼んで来いと言われて参りました」
そういう職員の声には微妙に困惑が交ざっていた。要件は話されていないのだろう。
そして、こっちも微妙に戸惑っていた。心当たりはあるのだが、周りに人はいなかったし、使い魔などの気配も感じなかった。しかし、他に呼び出される用なことはしていない。
・・・行くしかないだろうな。
「俺は行ってくるけど、どうする?」
「「「行かない」」」
「「行く!」」
セラ、シーア、南は行かないようだ。まあ面倒くさいんだろうな。俺もだ。
麻紀と麻衣は何を考えてるのかわからん。
「ではご案内します」
3人しか行かないことに何か言われるかと思ったが、そんなことは無かった。
案内されたのは1軒の潰れた居酒屋。職員はそこに入り、カウンター裏にあった隠し戸に入った。
ばれないように蝙蝠を先の方に飛ばしてみたが、《結界》がありそれ以上進めなかった。大分厳重だ。
「ギルドマスター、連れてきました」
「入っていいぞ」
この世界のお偉いさんは皆こんな口調なのだろうか。
探索者ギルドのマスターはレーガンよりかは若そうな、ゴツい人だった。
「早速だがあそこの迷宮主を倒したのはお前等だな。これは質問ではなく確認だ」
「・・・証拠は?」
そういうと部屋の壁に映像が映し出された。この世界に映像技術があったのか。魔導具かな?
映像は俺達が迷宮主の部屋に入った様子が映された10秒後に、一面光で包まれて途切れた。
うん、俺達だ。もしかして壊したから弁償を求められるのだろうか。
「俺が呼んだのは頼み事をしたかったからだ。お前たちにはある迷宮の攻略をしてもらいたい」
・・・弁償じゃなかったのは良いんだけど、なんか面倒くさい雰囲気になってきた。
「迷宮?他の探索者でいいだろ」
「そこらの探索者だと手も足も出ないんだよ。じゃなきゃわざわざ声をかけない」
「・・・どの位の規模なんだ?」
「わからん。ただ、最大で100層はあると言われている」
長いな。相手にもよるけど大分時間がかかりそうだ。
「やるとして報酬とかは?」
「そうだな。お前たちについて黙っておくのと、今後1つだけギルドが便宜をはかるというのはどうだ」
少し渋いかもしれないがまあ、こんなところだろう。黙ってもらうのは確定事項だし、種族の関係で今後何かあるかもしれない。その時にギルドの助力を得られるのは大きい。ただ・・・
「そんな権限があるのか?」
「権限はないが、だいたいのギルドマスターはおれに借りがあるからどうにでもなる」
うーわ。ゲスい顔してる。
よし、これは全員強制参加だな。
「わかった。やろう」
「そうか、感謝する。一応その迷宮のことを話しておこう。実は新しい迷宮が見つかった場合、ギルド職員が下見に行く。で、その迷宮にも行ったわけだ。1層目はキメラだった。大分余裕を持って倒せた。2層目はキメラが2体いた。ギリギリ勝った。3層目にはキメラが3体いた。逃げてその迷宮は封鎖した。多分だがこの後の階層もキメラが増えていくと思う」
「・・・色々言いたいことはあるが、その迷宮は階層主フロアボスの部屋だけなのか?」
基本的に迷宮は迷路の末に階層主の部屋があるという構造のはずだ。
「少なくとも3層まではそうだった。まあ、こんな真面目な話をすぐそばでしているのに寝られる嬢ちゃんがいるなら大丈夫だろ」
嬢ちゃん?・・・あ、麻紀と麻衣連れてきてるの忘れてた。寝るならついてくる必要なかったんじゃないのか?
「・・・まあ行けるところまでやってみる」
「ああ、頼む」
さて、決定事項を皆に伝えなければ。かえ・・・麻紀と麻衣起こさなきゃ。
「おい、起きろ。帰るぞ」
「「クロ兄、抱っこ」」
「幼稚園児じゃないんだから自分で歩け。ほら、起きろ起きろ」
「「むう」」
寝てるのは静かでいいと思ったが寝起きが悪すぎてダメだ。
「あ、そういえば名前は?」
「ああ、シュルトだ」
ゴツイ見た目に反してイケメンな名前だな。
よし、帰ろ。
シュルト視点
「アイシャ、どうだった?」
クロトたちを案内してきたギルド職員に話しかける。
「・・・壊れていました」
「・・・」
壊れたというのは魔道具の話だ。
この部屋には魔力量である程度の勢力(魔族側か人間側か)を調べられる魔道具が置いてあった。
それが壊れていたということは・・・
「まず人間側ではない、か」
「どうしますか?」
正直どうすればいいのか悩んでいる。
普通なら魔族側だとわかった時点で捕縛命令をだせばいいのだが、今回に関しては違う。魔道具が壊れたのだ。過去に、魔王がすでにいるのにのに魔王と名乗る魔族が多くの被害を出す事件があった。ギルドにはその魔族を魔道具で調べた資料がある。
そこに書いてあるのは魔道具にひびが入ったが、正常に計測できたということだった。
つまり壊したクロトはそれ以上の強さを持つということだ。
となると・・・
「刺激しない程度に警戒しておけ」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何もそうするしかないんだよ。俺たちでは絶対に勝てない」
もう見守るしかないだろう。
・・・最早災害と言って差し支えないのだから。




