19.特殊な生徒
合宿から数か月。もう学年が変わるというところまで来ていた。1年生最後の行事である体育祭も迫っていた。
体育祭と言っても前の世界のようなほのぼのしたものではない。1年間勉強したことの集大成として、生徒の総当たりだ。総当たりというと数百人が戦うことになるので、2週間に渡って行われる。まあ俺とシーアのやることは変わらない。この数か月でシーアは教師陣から大分信頼されるようになったので動きやすくもなった。
「ねえクロト、聖獣の名前決めたの?」
「決めてない。俺が名付けても安直なのか変なのしかでてこない。なんならシーアがきめてくれ」
「私も同じ感じになるよ」
仕事は順調なのに武器の名付けが最近の悩みだ。俺自身の知り合いが少ないため、他人に決めてもらうのもままならない。
「あ、図書館行ったら?読んでればなにか思いつくんじゃない?」
「図書館か。そういえば一度も行ってないな。今日の午後に行ってくる」
「わかった。とりあえず今入ってきたのを片付けようか」
「ああ、また大分連れてきたな。10人、まあ問題ないだろ」
最近侵入者の数が増えた。最初は2,3人だったのが5,6人になり、最近ではだいたい10人規模になった。
このことをじいさんに愚痴ったら、ある意味自業自得だと言われた。
じいさんの見積もりだと2~5人が何度も攻めてくる感じだったらしい。それが何の成果もあげずに、しかも誰も帰ってこなかったため人数を増やさざるを得なくなった。これがじいさんの予測だ。
じゃあわざと通せばいいのかと言ったら怒られた。
午後。図書館が思ったより大きくて驚いた。正直、市立図書館位の規模を創造していたのだがもっと大きかった。所謂東京ドーム何個分と数えられる位だ。これは本を探すの大変だ。
・・・などと思っていた時期が私にもありました。
ものすごく便利な魔道具があった。図書館にあるパソコンで調べるやつの上位互換だ。調べるだけでなく、調べた本が魔道具から出てくる。どこかで買えないかな?
とりあえず本を探す。キーワードは蛇でいいか。
・・・しばらく調べていたが、だいたい蛇系の魔物に関するものしかない。
ん?3代前の勇者の本?こんなのもおいてるのか。魔王が勇者の本を読むというのはおかしいが、まあいいだろう。
内容は勇者の英雄譚だった、のだが
「蛇でてきたか?・・・もしかしてこれか?」
唯一蛇に被っていたのは、勇者が作った《水魔法》に《八岐大蛇》と名付けたこと位だ。それでいいのか、魔道具よ。
・・・オロチでいいか。確か前の世界に大蛇丸みたいな名前の刀があった気もする。
うん、これでいいだろう。
シーアに
「結局安直になったね」
と言われた。
俺ってほんとネーミングセンス無いな。
体育祭が近くなると、学園では練習用に訓練場が夜まで解放される。そのため、俺たちの(表向きにはシーアの)仕事はほとんどが夜になった。
「やっぱり夜だと襲撃が多いね。教師が少ないからしょうがないんだけどね」
「まあ俺的にはオロチを使う練習がしたいから、どちらかというと感謝だな」
オロチが武器化できるようになって数か月。使い方は持った瞬間にわかったわけだが、経験が足りない。今まで長剣を使っていれば少しはマシだったのだろうが、俺は短剣だった。そのため距離感や振るタイミングで苦労したのだ。こっちに来てから一番苦労したが、それはそれで楽しい。最近やっとうまくなったてきた実感が出始めたのだ。
「もう十分な技術があると思うけど?」
「いら。万が一があった場合に対応できないと困る」
「クロトに万が一があると思えないし、ただ楽しいだけでしょ」
「お、よくわかったな。そんなわけだから今入ってきたのも俺がやってくる。シーアは引き続き表側での警備を頼む」
「わかった。学園長に引き渡したそばからまた来るんだ。・・・なんか相手が可哀そう」
入れ食い状態で俺としては助かるけど雇い主はいつになったら諦めるのかね。
「あ、話してて出だし遅れたせいで生徒に遭遇してる。やばい・・・けど気絶してそうだから大丈夫か」
・・・ん?なんか違和感。
まあいい。とりあえず片付けよう。
今回の襲撃者は6人。最近では少ないほうだ。まだこちらには気づいていないので1人ずつ。首裏を叩いて気絶させる。最初に試した時は本当にできるとは思わなかった。
全員気絶させた後はいちも通り懐を探る。最初のほうにあった紋章の類は毎回探すようにしている。今回はなかった。
さて。じいさんのところに持って行こう。
「あなたは誰?学園内にいた覚えがない」
「ッ!」
何故だ?俺は何故彼女のことを忘れていた?
違和感はこれか。さっきも彼女が気絶しているかどうかを推測で決めつけていた。俺は基本無駄なことはしないが、必要のことはちゃんとやっている。
必要なことが頭から抜けていたということは、相手が何かをした可能性が高い。
しかしそのような魔法は存在しないし、精霊もこんなことはできない。
つまり・・・
「固有魔法か」
「・・・見破られたのは初めて」
固有魔法。それは全ての生物が持っているといわれているものだ。しかし固有魔法は発現時期に個人差があり、大半の者は発現せずに寿命を迎える。ちなみに俺もまだ出ていない。
それが、学園に通う年齢で発現しているのは珍しいがそんな噂は聞かなかった。恐らくかくしているのだろう。固有魔法というのは強力で自分の益になるが、同時に裏の人間や貴族などに目をつけられやすくなるのだ。
「別に口外はしない。それと俺は警備の人間だ。事情があって隠れて警備をしている。信用できないなら、じい・・・学園長に聞いてもらってもいい」
「事情・・・王女絡み?それなら納得。それから固有魔法のことを言わないでくれるのありがたい。それはほんとにありがとう」
「ああ。じゃあ俺はこいつらをじいさんのところに持って行く。最近こういうのが増えてるから、あまり夜の学園外には出ないようにしてくれ」
「ん。わかった。あ、私はセラ。今日はありがと」
「クロトだ。さっさと寮に戻れよ」
セラが中に入るのを見届けて俺もじいさんのところに向かう。
それにしても固有魔法持ちは初めて見た。俺の固有魔法はなんなんだろうか。




