EX.勇者
僕たちはモルテリア共和国に残り、魔物討伐をしていた。後3日程で帰る予定だ。
今は夜。『鴉』の人の報告を受けていた。
「彼の魔王はソルガール王国の学園にて警備をすることとなったようです。それから我々の監視はばれているものの見逃されているようです」
「ばれているのか。僕でも『鴉』の皆さんの気配は読めないのに。自信無くすな。それにしてもギルドの助っ人の次は学園の警備か。何を考えているんだろう」
普通なら魔王が裏工作でもしていると考えるところなのだが、あの魔王はそんなことをする必要はない。だからこそ、余計に考えていることがわからないいのだ。
「それについてですが、部下は何も考えていないのではと」
「えっ!?」
「私が実際に見たわけではないのですが、ハラルの町のギルドマスターや商会長に面倒ごとを押し付けられたように見えたと」
「・・・その町の人々は彼が魔王だと知っているの?」
「普段行動を共にしているエルフ、ギルドマスター、商会長は知っていることが確認されています」
知っていてそんなことをさせている?命知らずなのか、信頼関係を築いているのか。
「保留だね。そろそろ皆も戻ってくるだろうし。今後も情報収集をお願い」
「かしこまりました」
そういって窓から静かに出ていくと、同時にドアが開いた。
「勇気!明日森の奥行こうぜ!」
「ちょっと、誠也君。そんな言い方じゃ伝わらないでしょ。突然ごめんね勇気君」
「いいよ。おかえり誠也、優香。他の皆は?」
「もう自分の部屋で休んでる。私が明日の予定を勇気君に話すって言ったら、誠也君もついてきたんだ」
「そうだったんだ。森の奥って言ったかい?」
あの森には信ぴょう性のない噂ばかりだった気がする。
「うん。そこの洞窟に神獣様がいるらしいの。だから皆で行ってみようっていう話になったんだ。いいかな?」
「そういうことなら僕も行かせてもらうよ」
神獣か。いたら会ってみたいな。
翌日
「この辺だと思うんだけど・・・」
「誠也ーまだか?」
クラスメイトの1人が誠也に文句を言う。本当は僕も探すのに協力したいんだけど、この森は魔物が多くて警戒が優先になってしまうのだ。
「おーい誠也。この洞窟じゃないか?《結界》張ってあるぞ」
「本当か!?」
驚いた。本当にあるとは。皆で声のほうに走っていくと、大きめの洞窟があった。かなり硬い《結界》が張ってある。
「私、結界破りの魔道具持ってるから使うね」
準備万端な優香に関心しつつ、中を進む。途中グレートウルフがいたが、僕たちをみるなり逃げて行った。慎重に進んでいくと突然開けた場所に出た。
『なんだ、あいつではないのか。道理で結界の破り方が雑だと思った。・・・ふむ勇者か。なかなか強いほうだが、霞むな。いやあいつと比べるのは酷か』
最後のほうは聞き取れなかったが、落胆された。
それにしてもすごい風格だ。神獣というのは本当なのだろう。
「えーと神獣様でいいんですよね?」
『ああ、そう呼ばれている。して、何故ここへ?』
優香が恐る恐る確認すると、神獣が厳かに頷いた。
目的は特に無かったのだが、ダメ元で聞いてみよう。
「神獣様、我々の魔王討伐にご協力いただけないでしょうか?」
『ッ!』
ん?神獣が動揺したような・・・気のせいか?
『すまない。我は今諸事情で力を大分落としておってな。戦力にはなれん』
「そう、ですか」
残念だが、ダメ元だったのだ。しょうがない。今でも力があふれているように見えるが、神獣が嘘はつかないだろう。
「では、他に用はないので僕たちは帰らせていただきます。なにかあったら来るかもしれないのですが、よろしいでしょうか?」
『ああ、問題ない。いつでも来るがいい』
「ありがとうございます」
帰る途中でクラスメイトの一部が
「あそこは仲間になって無双する場面だよな?」
「「「もっともだ!」」」
とか興奮していたけどそんなルールは無いと思う。
神獣を仲間にできなかったのは残念だけど、僕たちで頑張ろう。
フェンリル視点
行ったか。危ない、危ない。雰囲気で頷こうとしてしまったが、協力などできるはずもない。なにせ今の魔王の中にはあのクロトがいるのだ。我が出て行ったところで瞬殺されるだけだ。
今後くるかもと言っていたから、軽はずみな発言には気を付けよう。
そういえば、そろそろクロトに悪魔王の権能が発現するころだろうか。
・・・また強くなるのか、あいつは。




