14.悪魔王
「それで、悪魔王に喧嘩を売ってきたと?・・・馬鹿かお前?いや、もう馬鹿でいい。」
「ゾルゾか、どこかで聞いたことがあるな」
「知っているのか?ゲルド」
俺には聞き覚えがない。シーアも知らないと言っていたからマイナーな奴だと思っていたんだが。
「確かウィーン帝国にそんな名前の、有名な盗賊がいたはずだ。狙うのは基本的に貴族などが乗った馬車で、基本生存者はいない。ただ、一度だけ騎士の生き残りが出たことがあったんだ。その騎士はゾルゾと名乗る者が率いた盗賊団が表れて、気付いた時にはその騎士以外死んでいたようだ」
「盗賊?しかも自分で名乗ってるのか?だとしたら意味がわからないぞ」
俺自身もそうだが、王は基本的に潜むものだと個人的に思っている。王というのが発覚した場合、元の世界でいう、所謂指名手配が出される。それは国にとどまらず、世界規模でだ。だから発覚しないように身を隠す。勘違いかもしれないが、王関係の騒ぎが少ないことから見てたぶん正しいだろう。
そんなわけで盗賊のゾルゾが悪魔王だった場合、目立ちすぎている。
「ああ、しかも盗賊と名乗っている割にはほとんど物をとらない。殺しているだけだ」
「益々意味がわからない・・・。まあいいか。こっちに来たら全部わかるんだし、気にしても仕方ない。来たら倒せばいいだけだし」
「うん、そうだね。今できることをしよう!」
「「・・・」」
レーガンとゲルドがこちらを見ている。仲間にしてほ・・・じゃなくて
「どうした?」
「いや、なんでもない。頑張ってくれ・・・はあ」
「町はできるだけ壊さないようにな・・・はあ」
「なんでもないなら溜息をつかないでくれ。気になるだろ」
「「はあ」」
結局2人は何も言わなかったのでシーアと仕事に行くことにした。
「そういえばクロトってあんまり身体強化系を使ってないよね」
「ああ、うんそうだな。面倒くさいんだよ。普通の身体強化だって常に魔力を身にまとってないとだめだし、《雷魔法》の《雷纏》もずっと意識してないといけないから面倒くさい。だから、普段は使わないんだ。まあ元の身体能力でなんとかなるからね」
「なっちゃうんだ・・・。まあ面倒くさいならしょうがないね。私も騙されないように気を張るのは面倒くさいからね」
「お前のはしょうがなくないな」
「えっ!そんなことないよ。だって・・・」
シーアが何か言ってるが流そう。言い訳だろうからな。
それにしても身体強化系か・・・。悪魔王相手に使う必要になるかもしれないから少し練習しておくか。
えーと、確かこんな感じで・・・
ドーーーンッ
「えっ!?クロト?」
あれ?すっごい進んで木に当たったのか。やっといてよかったな。
よし。
「シーア、少し特訓に付き合ってくれ」
「え?あっうん。わかった」
さて、ちゃんとできるかな。
夜
「さすがにしんどかった」
「まああんなにぶつかってたらそうなるよね・・・」
俺とシーアはゾルゾに備えて身体強化系の特訓をしていたのだが、制御がうまくいかず木や岩に突っ込みまくっていた。肉体的なダメージはほとんどないいのだが、精神的に疲れた。こっちに来て一番きついかもしれない。
「でも制御はできるようになったしとっておきもできたからよかったんじゃない?」
「制御といっても気を張っていないとと維持できないし、そのとっておきも疲れるからできれば使いたくないな」
まあ使えるだけいいか。ゾルゾが来るまでも少しは特訓しておこう。
一週間後。シーアといつも通り森の中にいると・・・
「貴様がグロードの言っていた奴か?」
「・・・ああ、そうだ」
話しかけてきたのはまさに盗賊だというような恰好をした、体格のいい男だった。グロードの名前が出たということは悪魔王関係でいいんだろう。ていうかたぶん本人。
「俺はゾルゾだ。一応お前の名前を聞いておこう」
「クロトだ。お誘いに乗ってくれてありがとう」
「随分過激なお誘いだったがな。さて、なにか言い訳の類は?ないなら戦うことになるが」
「それで構わないさ。シーア、お前は周りの奴の相手をしろ」
「気づいていたか。まあいい、では行くぞ」
シーアが頷き、離脱した瞬間にゾルゾは突っ込んできた。相当な速さだ。気づいたらやられていたというのは、速さが原因なのだろう。
「よく止めた。だが一発だけじゃないというのはわかっているだろう?」
特訓が役に立ちそうなのは嬉しい。嬉しいけど面倒くさい。《身体強化》。
「むっ!?」
これで速さは同じくらいか。ゾルゾの武器は長剣、俺は短剣。とりあえず打ち合うか。
・・・ゾルゾはリーチを活かし俺を遠ざけようとしながら攻撃をあてようとする。
俺は間合いを詰めて手数で押そうとする。
そんな状態が長く続いている。魔法を使ってもいいのだが、自分も相手も動きが速いため狙いが定まらないのだ。
シーアのほうはもう終わっているようで、敵の気配が全て無くなっていた。
すると・・・
「なるほど。あの娘も警戒するべきだったか。仕方ない、今回は引かせてもらおう」
「ダメだ。《ファイヤーウォール》」
ゾルゾに逃げられそうだったので《ファイヤーウォール》を上に打つ。
すると炎が鳥かごのように俺とゾルゾを囲む。
そして・・・
「《雷纏》、《身体強化》」
これがとっておきだ。《雷魔法》の身体強化系と、何故かどの属性にもぞくさない魔法になった《身体強化》の合わせ技だ。ちなみにこれを人間がやると体がめちゃくちゃになるらしい。
俺の全身を薄い雷の膜が覆う。これが《雷纏》だ。文字通り雷を纏っている。
「《雷魔法》・・・中級も使えたのか」
「ああ、ただこれもこれで疲れるからな。速く終わらせる」
「・・・来い」
そこからは早かった。
短剣で切りつけ、防御されたところで長剣を通じてゾルゾにいくよう《雷纏》の電気を流す。ゾルゾが一瞬硬直。防御をされる前に腕を斬り、そして首を斬る。
ほんの数秒である。
「ふう、大分時間がかかった。後は《ファイヤーウォール》を解いて報告を・・・あれ?」
なんか意識が・・・。
『悪魔王の継承を確認。称号を二重王から三重王に変更します』




