表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】今日世界が終わるなら妻とやり直しを  作者: オリハルコン陸
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

後編

妻が夕飯の支度を始めた。

本当なら出前でも取って、もっと妻と話していたいところだが、流石にあと二、三日で世界が終わるのに開いている店はほぼないだろう。

それに


「今日は油淋鶏にしようと思うのだけれど」


妻のその言葉に負けた。

俺の好物の一つ。

結婚してから、妻が覚えてくれたメニューの一つ。


「俺の好物だ」


「知ってるわ」


妻は穏やかに微笑んだ。




キッチンに移動して、妻の背中を眺める。

自慢じゃないが、料理なんてまともにしたことがない。手伝おうとしても邪魔になるだけだし、何なら皿を洗おうとすれば割る自信まである。

坊ちゃん育ちを舐めるな。


ただ眺めるだけの俺を、妻が落ちつかなそうに振り返った。


「お風呂にでも入ってきたらどうです?」


「ああ、そうだな」


生返事をして、妻の背中を眺め続ける。

俺の為に、愛する妻が好物を作ってくれている。これが「尊い」という感情なのだろうか。

だいぶ前に女子社員が騒いでいた感覚が、ようやく理解できた気がした。


結局、夕飯が出来上がるまで、俺は妻の後ろ姿を眺めて過ごした。




妻が手際よく皿を並べて、食事の準備が整った。


「食べましょう」


「ああ」


妻が、当たり前のように正面の席についてくれたことが嬉しい。

妻の前にも同じ食事。


「いただきます」


箸で一切れ肉片をつまんで口に運んだ。


美味い。

ニンニクの効いたネギダレが、サクサクの衣に絡んで美味い。


「君のメシは美味いな」


しみじみ呟くと、妻が顔を赤くした。


「そんな…普通ですよ」


視線を逸らしてもごもご呟く妻。


「いや、君のメシが食える俺は幸せだよ」


世界の終わりが近づいていると思うと、もう伝えられる時間がほとんどないのだと思うと、スラスラと言葉が出てくる。

やはり俺はヘタレなポンコツだな。ここまで追いつめられなければ、妻との会話さえままならない。


言われ慣れていない所為か、妻は戸惑った顔をしながらも嬉しそうに見えた。




「晩酌に付き合ってくれないか?」


夕飯を食べ終わって一息ついて、妻は疲れているかもしれないと思いつつも誘った。

早ければ今夜、世界は終わるのだ。

それまで、一秒でも長く妻と一緒にいたかった。

妻は、頷いてくれた。



◇ ◇ ◇


「ああもう、風邪を引いてしまうじゃないの…」


困ったような声の妻が、目を閉じてソファにもたれる俺の身体に毛布をかけてくれた。

その妻の身体を引き寄せて、酔った振りをして抱きしめた。いや、実際多少酔ってはいるのだけれど。


「えっ…」


妻は驚いて硬直し、その後俺の腕から逃れようともがきだした。けれど離したくない。


「…側にいてくれ」


耳元でそう囁くと、妻はもがくのをやめた。


「君が好きなんだ」


そういえば、朝以来言ってなかったような気がして言葉にした。


やはり俺はポンコツだ。

こんな大事な言葉さえ、すぐに言うのを忘れてしまう。


「愛している」


大事な言葉は、何度でも言わなければいけないのに。

妻の身体が震えている。

寒いのなら温めてやらないと。

そう思って、腕に力を込め肩を撫でた。



「俺は君を愛している」



少し躊躇う気配がした後、妻の腕がそっと俺の背中に回された。

ああ、俺は本当にこの女性をーー





「愛している」





その時、外が真昼のように明るくなった気がした。

そして、妻が何かを囁いたような気も…


「私も…」


そう聞こえたのが、俺の願望が作り出した幻聴でないといい…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ