顛末
結論から言うと、あれは夢ではなかった。
ただ、なんと言うか………あの彗星のニュースは誤報だった。
ページをスクロールして、随分と下の方に見つけた記事。そこに書かれていた顛末。
例の彗星…実際には彗星ではなかったが、を発見した天体望遠鏡の中に、微細なゴミが入り込んでいたのだそうだ。それが画像処理の結果、彗星に見えてしまったのだと。
なまじ信頼性の高い望遠鏡だったこと。他の高性能天体望遠鏡がメンテナンス中だったり故障していたり天候や時刻の関係だったりでまともに使えなかったこと、などの条件が重なり、誰もそれに気づかなかったのだそうだ。
ゴミ一つであの大騒ぎになったのかと思うと呆れもするが、たまにはそういうこともあるのだろう。機械だしな。
それに、俺に妻とやり直すきっかけをくれたので個人的には何の文句もない。というか、後でその研究所には寄付をしておかないといけないな。
ちなみに、誤報だったということは翌日には判明していたらしい。だがニュースを見ず外にも出かけなかった俺は、今朝までそれを知らなかったのだ。
気が抜けてもう一度ベッドに戻って妻を抱きしめて眠ろうとしたら、目を覚ました妻がこちらを見ていた。
「おはよう」
「…おはよう」
どうやらもう一度妻に触れるのは無理そうだとため息をつく。
「何かあったの?」
「いや。君がまだ寝ていたら抱きしめられたのにと思っただけだ」
俺のため息に首を傾げていた妻が固まった。
そしてそっと布団を頭の上まで引き上げた。
その態度に、自分が今何を言ったのか自覚する。
…俺も顔を隠す何かが欲しかった。
その後、今日は会社に行かなければならないことに気づいて慌てて準備をしていたら、妻もいつの間にか起きてメシを作ってくれていた。
平日の朝は少し忙しないからか、妻は俺と一緒には食べなかったけれど側にいてくれた。
出かけに妻の顔を見て、何か言わなければと思い立つ。しかし
「今日は真っ直ぐ帰る」
これはおかしい。俺はいつも会社から真っ直ぐ帰っている。単に残業で遅くなっているだけだ。
「今日は定時で帰る」
こんな約束は守れる気がしないからダメだ。
なら…
迷って結局、
「愛している。行ってきます」
そう言い置いて、逃げるように家を出た。何も言わないよりはマシだったと信じたい。




