後輩ちゃんの恋愛講座 待ち合わせ編
銘尾 友朗様主催『冬の煌めき企画』に投稿した、『煌めいたのは涙か雪か』と、間に合わなかった『後輩ちゃんの恋愛講座 見た目編(旧題:それはきっと煌めきのせいで』の続編になります。
女慣れしてないせいで、クリスマスキープ君の憂き目にあった先輩と、涙に暮れる姿に女慣れさせようと決意した後輩とのもどかしい系ラブコメです。
それだけ分かれば前作は今読まなくても大丈夫です。
どうぞお楽しみください。
土曜日の駅前は、ひっきりなしに人が行き来している。大抵は誰かと楽しそうに話しながら、うきうきした様子で通り過ぎていく。
そんな中、一人でベンチに座って待つというのはなかなかの苦行だ。
「おっせぇな……」
もう何度目か分からない携帯のチェック。
新着メッセージはなし。
流れで履歴を遡って日時を確認。
何度確認しても、待ち合わせは今日この場所。
待ち合わせ時間は十五分前だ。
「……っ……」
催促のメッセージを送ろうと思って、やめる。
これも何度目か分からない。
女慣れの一環として、今日カラオケに行こうと誘って来たのは後輩だ。
ここで「まだか」と催促すると、何か俺が行きたくて仕方がないみたいで恥ずかしい。
急かすのも何か悪いし。
……事故とかじゃないよな。
あと五分、五分待って連絡がなければ、
「せーんぱい!」
「!」
後ろから声をかけられて、慌てて携帯を落としそうになる!
何しやがる! びっくりするだろ!
「待ちました?」
「待ったわ! 連絡くらい入れろよ!」
「ぶぶー。減点です」
「は?」
胸の前に大きなバツを作る後輩。何が減点だ?
「連絡なく待たせる、それは確かに良くない事です。でも何か事情があったらどうです? 来る途中友達からの深刻な相談を電話で受けてたら? 迷子の子を交番に連れて行ってたら? 大荷物のお婆さんを手伝ってて両手がふさがっていたら?」
う、確かに頭ごなしに責めるのはまずかったか……。
「たとえそれが寝坊とか忘れてたとか、相手が明らかに悪い場合でも、デートだったらそこから楽しい時間が始まるんですよ? 怒るのはマイナスにしかなりません」
た、確かに……。
クリスマスにキープ扱いされていた事に気付かなかった俺には、こいつのアドバイスは耳が痛いがためになる。
「……怒って悪かった。でも不安になるから連絡はしろよ」
「不安ですか。ネガティブな先輩の事ですから、私が誘うだけ誘ってすっぽかすとか思ってたんじゃないですか?」
「えっ?」
「えっ?」
……そんな可能性、考えもしなかった。
「……思いもしなかったって顔ですね」
「……」
「……そうですか。へぇー」
ぐっ、悪かったな! クリスマスから学習してなくて!
「じゃあ何が不安だったんですか?」
「……事故か何かかと心配になったから」
ぽかんとする後輩。
「……心配、してくれてたんですね」
「当たり前だろ」
意外そうな顔するなよ。俺が最低な奴みたいじゃないか。
「……ふむ。心配がゆえに怒った、と。それなら減点はチャラですね」
「……あーそうかい」
謎の上から目線に怒る気もなくなった。
それに女慣れのためとはいえ、休みにカラオケに行くんだから、怒るより楽しんだ方がいいよな。
「ま、無事に合流できたんだから、よしとするか」
「そーです! その感じです! いいですよー! わざと遅れてきた甲斐があるってもんです!」
「お前な……」
「あ! さっきのおねーちゃん!」
胸を張る後輩に駆け寄ってくる男の子。幼稚園、くらいか?
「おかーさん! このおねーちゃんがおままりさんのとこにつれててくれたの!」
「あ! どうもありがとうございます! ウチの子がお世話になりました!」
「あ、その、いえ、無事に会えて良かったです!」
え、こいつ、何、マジで迷子交番に連れてって遅れたの!? 言えよ!
……あー、でも素で聞いたら言い訳にしか聞こえないか。
「本当にありがとうございます! あの何かお礼を……!」
「そ、そういうのいいので、気にしないでください! 先輩、行きますよ!」
「お、おう……」
「おねーちゃん、ばいばーい!」
「ありがとうございました!」
「バイバイ! 失礼します!」
手を振る男の子と、頭を下げる母親から、逃げるように歩き出す。
う、腕をつかむな! 何でこいつこんなに慌てて……。もしかして……?
「何お前、迷子を助けたの照れてんの?」
「デリカシーのない発言は減点対象ですよ!」
口調は厳しいが、顔が真っ赤だから照れ隠し以外の何にも見えない。
「お前、いい奴だな」
「十点減点!」
って! かなり思いっきり肩を叩かれた。
女とか意識せず、遠慮のない感じで話せって言ったのはお前じゃないか。
若干納得がいかないが、耳まで真っ赤になっているのをこれ以上いじるのも可哀想だ。
早足になる後輩を追いかけてカラオケBOXへと入った。
うぅ〜! 何であのタイミングで!
いや、お母さんと合流できたのがこの目で確かめられたのは良かったよ!?
でも先輩をごまかせたと思った矢先にあれは!
メチャクチャからかう笑顔で見てきたし!
教える立場なんだからクールでいたかったのに……!
……落ち着こう。大丈夫。
見た目は良くなったし、気軽に話してくるようにはなったけど所詮は先輩。
クリスマスイブの煌めき涙の写真を見て深呼吸。
よし。大丈夫。
ドリンクバーの飲み物を持って、私は部屋に戻った。
読了ありがとうございます。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは カラオケデート編を書いていたと思ったら 待ち合わせで一話分出来ていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何が起きたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
筆が乗るだとか連載完結のテンションだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいラブコメの片鱗を 味わったぜ…
というわけで、カラオケ編は後日! お楽しみに!