○○がでかすぎてかなわない。
どうにもこうにも、重い。
重たすぎる。
「はあー。」
あたしは机の上に、左手を置いて、その上にどかんと重量感あふれる部分をのせた。
あたしの胸部で、堂々と存在感をあらわにしている、この部分。
「ちょっと!!そのくせ。外では絶対やるなよ?」
お母さんがあたしの姿を見てチクリと一言。
外ではやらないってば!でも家の中ぐらいは勘弁してよ…。
あたしの胸部にはクッソ重たい枷がね。
体の一部がね、すんげえでっけえのさ。
「へいへい。」
私の2つの張り出しすぎた部分の下にあるはずの腕は、どこにも見えない。
なぜなら!肉の下に完全に埋もれているからだよ!!
…ああ、左手が、しびれてきた。
あたしの胸部が、重すぎる。
あたしの胸部が、でかすぎる。
そもそもなんでこんなことになってしまったのか。
ごく普通に暮らしてきて、ごく普通に成長してきたはずなのに。
なぜ、こんなことになってしまったんだ…。
思えば小学6年生、あのあたりから怪しかった。
下着がきつい、そう思うたびにサイズをあげていく日々。
友達は年に一回くらいの購入ペースだと言っていたが。
「下着を買うペースが速すぎて金が続かん!!!」
ようやっと巨大化のスピードがおさまったと思いきや、今度はじんわり大きくなり始め。
「あんたのサイズの下着がどこにも売ってない!!!」
普通の量販店で、見つけることができなくなって。
「専門店の下着は高いな…。でもこれしかない、うぐぐ…。」
いつだってお母さんの財布をすっからかんにしてきたのは、あたしの下着だった。
…この、この胸部が憎くてならん!!!
プールに行けば注目を集め!
風呂屋に行けば注目を集め!!
縄跳びをすれば注目を集め!
マラソン大会の次の日にはの胸上部下部横部がダメージを受け!
体育の授業で全力疾走するたびに視線を浴び!
汗ばむ季節にはあせもができ!!
おしゃれな服はすべて入らず!!
だというのに羨ましがられるこの理不尽さ。
おかしい。
この世は何か間違っている!!
ボストコのみすじステーキを買ったときに驚いた。
一パックが、私の胸部重量と、同じ重さだったのだ!!!
…私の体には、みすじステーキ二パック分が張り付いているという事実!!!
みすじステーキはいいよ!!
あの一パックで腹いっぱいになれるからさ!!!
私の過体積過重量箇所はただ揺れるぐらいしか、能がない!!
ただ揺れる?!揺れることでどれほどの害があると思ってんだ!!!
下着のひもがブチっと切れたことだってあるというのに!
一枚いくらすると思ってんだあああああ!!!
なぜ…なぜ誰もわかってくれない!!!
この憎しみを!
この苦しみを!
この重さをおおおおお!!!
はあー、肩も痛いし、心も痛い、そして言動すらあいたたただよ!!
「なんだ、そんなに嫌ならダイエットすればいいじゃん!」
「運動するとチチが痛いんだってば!!」
少々体格が良すぎることは、まあ、認める!
でもね、この重さに耐えるにはね、頑強な体も必要であって…。
そもそも運動すると弊害がでるしさあ。
「じゃあいつも食ってる飯半分にしたら。」
「それは嫌だ。」
重量級胸部保持者はさあ、3キロのダンベル抱えてるようなもんだからさ!
腹が減るんだわ!!!
飯は減らせんなー!!!
「じゃあ無理だわ、あきらめてブルンブルンさせとくしかない。」
「ちょっと!!いい方!!!」
♪ブーン、ブーン
ああ…バイトの時間だ。
「行って来まーーーーーす!」
あたしは重いチチをあげ、足どりくらいは軽くしようとテンションをあげて家を出た。
ばゆん、ばゆん。
バイトに向かう私の体の中心は。
ぼよん、ぼよん。
相も変わらず、揺れに揺れ。
だぶん、だぶん。
「おはよーございまーす!」
「おはよう~。」
バイト先のロッカールームで、先輩に挨拶をして、着替える。
ま、着てきたブラウスの上から、エプロン着るだけなんだけどね。
三角巾をかぶり、エプロンを着て。鏡で、チェック…。
かちゃん!
おっと、エプロンの胸ポケットからボールペンが落ちちゃった…。
拾おうと、かがんだ、その時。
過重量箇所が、重力に忠実に従って!
勢い良く!!
形を!!
変形させっ!!!
その衝撃を真正面から受け止めた、貧弱な、ブラウス生地。
びッ!…ブチっ!!
ブラウスの、胸のボタンが、はじけた。
糸で繋がってる、はじけ飛ばなかっただけ、今日はついてるよ!!!
あたしはそっとボタンを取って、ズボンのポッケに忍ばせた。
…ブラウスのボタンなくてあっぱらぱーだけど、まあ、エプロンしてるしなんとかなるか!
うん、バレないバレない!
胸部は重いが、気持ちはあかるく!
それがあたしのモットーさ!
あはは!
…なかばヤケクソだけどね!
「いらっしゃいませ~!」
準備万端のあたしは元気よく!
従業員出入り口で一礼して!
週末でこみ合うスーパーの中、デカい体を揺らしながらレジへと向かった。