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異世界転生課に勤務しています

ー不慮の事故によりこの世を去ってしまった人間に、神からのギフトと新たな人生を与えられる場所。それが神と人の子が目見えるこの狭間の世界であるー


なんてカッコよく言ったものの、ここは狭間の世界なんて曖昧なものではない。


ここには生き物の転生を司る役所があり、毎日数多ある世界から集まる転生者たちを捌いていく場所だ。つまり死者が生まれ変わるための通過点だ。

よくあの世とか天国とか表現されるけれど、もちろんそこに住んでいる人もいるし、人間が住んでいる世界とそう変わりのない場所だ。


通常死んだ場合、時代や場所は違うものの同じ世界に生まれ変わることになっている。

そうしなければその世界の生き物の総数が変わってしまい、最悪その世界に生き物がいなくなると言ったことも起きてしまうからだ。


あらゆる生き物が死した時、俗に言われるあの世と呼ばれるているここに一度魂は集められる。

そしてここで次の生まれ先を決めて、新しい人生を始めるべく旅立っていくのである。


ー通常ならばの話だが。



「晴海、お疲れ。あとどれくらいで終わりそうだ?」


「アルデバランさん、お疲れ様です。後もうひと息ってところですかね」


「本当に人使い荒いよなぁ。この案件だって二日前に届いたばっかりだってのに、明日までにとかってうちの上司は無茶言うよなぁ」


夜も遅い時間にもかかわらず、煌々と明かりがついているここは“異世界転生課”だ。


この異世界転生課ではイレギュラーと言われているが、主に上司のうっかりで起こる取り返しのつかない事故案件を主に取り扱っている。


神様の手違いや様々な理由から同じ世界に転生することができない場合があり、その時に来るのがこの異世界転生課である。


向こうに非がないにも関わらず、突然人生を取り上げられるのだから、補償は出来る限り希望を叶えられるように、準備は迅速に行う必要がある。


異世界転生をするためにはそれなりの準備が必要なので、上司をサポートする人間が必要になる。


書類の手続きから転生先の候補地の選定、転生者のホストファミリーの調査や本人の希望する容姿の身体の準備に加え、上司のうっかりの被害者の心のケアなど数え上げればキリがないほどだ。


だから転生業務を行う転生役所内の異世界転生課は、役所であっても就業時間なんてものは存在せず他の部署からは隠れて便利屋、クレーム処理係などと呼ばれているのだ。



「僕、以前勤めていたところもサービス業だったんですけどね、もうそれとなんら変わりありませんよ」


「それって最近聞くどこかの世界で言うブラック企業ってやつか?過労死なんて言葉もあるくらいだからな、おぉ怖い怖い」


どれだけ軽口を言いながらも2人の目線はそれぞれのパソコンから離れないまま、手を動かし続けている。


「アルデバラン、この超多忙で不規則なこの課にようやく入った期待の新人の晴海君に、まだ夢を持たせてあげて!」


悲しそうな顔をしながら隣のデスクに戻ってきたのは晴海とアルデバランの上司のモルドレイクだ。


「…いえもう十分現実を体感したので大丈夫です」


定時退社できることからこの転生役所に就職したのだが、なまじ優秀だった故に3ヶ月前にここに配属され、それからの怒涛の日々は晴海のささやかな願いの定時退社の夢を打ち砕くのには十分な期間だった。


晴海が思わず遠くに思いを馳せてしまったのは仕方のないことだろう。


気を取り直して晴海がモルドレイクが残っていた理由を尋ねると、ご案内業務のためだったと答えてくれた。

このご案内とは異世界へ転生者を送り出す業務のことだ。

一番異世界っぽさを感じる部分でもある。


そして対応するのは我が異世界転生課一の美貌を誇る上司であるモルドレイクだ。

もちろん上のものが対応するのが常だが、その実人から見て神様っぽい人を選んでいる。


異世界転生がお役所仕事とわかれば夢がないからとは神様の言だ。

だが現実的に言って神様本人が出るとなると様々な支障がでるだろうし、多忙を極めることも間違いないのでこういった形なのだろう。


そしてこの課に入って知ったことだが、よく物語で描かれるお決まりの白い空間は、実はここの応接室だ。

なんでも初めの頃はちゃんとテーブルや椅子などもあったのだが、ある時説明するための部屋が準備できず、何もない空き空間で対応することになったのだが、その部屋でのことを覚えていた転生人によって異世界転生で話をされる場所は何もない真っ白な空間だったと話が広まってしまい、神秘性を出す為にと言っていたが、部屋の管理が面倒でそこに便乗した形だ。


異世界転生はやはりお役所仕事なんだなと思いながらパソコンに向かい直した。

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