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初詣って意外に疲れるお!

 ワイワイ ガヤガヤ 

 ドヨドヨ ワイワイ

 和幸と画咲は人ごみの中にいた。


「意外にひとがいるおー」

「みんな実家に帰らなかったクチだろうね」

「うむ。まあ年明けから一ヶ月で春休みに入るしお。そんとき実家帰るって人たちかお」


 息を吐くたび白く水蒸気に変わって夜空へと溶けていく。

 ライブから数日。今日は大晦日。時刻は23時30分。

 年があけるまで、あと30分を控え、画咲と和幸は山の外側8合目に位置する百徒神(ひゃくとじ)神社へ初詣のためにやってきた。

 少し早めに行けば混むまえに参拝できるのではないか――?

 ふたりが同時に思いつく安易な考えなど、他の誰もが思いつく。同じ目的の生徒たちで境内は混雑していた。


「学園に残ってた生徒みんな来てるんじゃないかお? あ痛! 足踏まれた!」

  「あ、ごめん…なさい……」

「すごい混雑だなぁ」

 参拝に向かう列というより、ゆっくり動く動物の群れ。その左右にはサークルが夜店を出していたり、生徒会地区会が甘酒を振る舞っていて、いい匂いが混ざり合う。

「甘酒のみたいお! 甘酒のみたいお!!」

「名案だね! ちょ、ちょっと、このままだとしんどい!」


 ふたりは命からがら参拝順路から外れると、振る舞われている甘酒を受け取り、少し高台になっている場所から人ごみや、山々を眺めていた。

「それにしてもこの山には神社もあるんじゃのう」

「神職の学科もあるしねぇ」

「お正月にはガッポガッポだお! オイラたちもそれっぽいところに祠と賽銭箱を置いておけば、ぐふふふ」

「ヒトの住む場所には神様にもいてほしいって考え方があるからねー。必ずしも悪じゃないと思うよ。学園設立と同時期に建立された神社だから、僕らここの神様とは同級生だね」

「神さんに向かってなんとおこがましいことじゃ! ニンゲンの子よ!」

「キミはいったい何者なんだい…」


 ふたりが玉垣にもたれながら話していると後ろから声がした。


「あの」


「むむ?」

 画咲が振り返ると、喧騒を背景に、女性がひとり立っていた。茶色のコートで、顔をマフラーにうずめ、毛糸の帽子を深くかぶり、大きなメガネをかけた、地味な女子生徒だ。


「あの…これ……一応、さっき、声かけたんだけど…聞こえてなかったみたいだから…」


 少し俯き加減で、もう少しなにか言いたそうな感じもしたが、女子生徒は画咲にお団子を差し出した。

「うん。意味分かんないお」

「ちょ、かっくん……」

「あ、あげるって言ってるの……」

「ええ?」

「あなたの足……踏んだから……」

「ああ! さっきのアースペネトレーターはおぬしであったか!」

「……アース、ペレれペ? ……何かしら?それ」

「凄い貫通力の爆弾のことだお! 貫く痛さだったのだ」


「だ、だからその、ごめんなさい……これお詫び…二人分無いけどふたりで食べて」

 女子生徒はハイヒールめいたものを履いているらしく、画咲の足にアースペネトレイトしたらしい。

「あの人混みだから気にしないでいいお! 他の人にも五回くらい踏まれたし! でもありがとうお!」


 女子生徒はマフラーへさらに顔をうずめるようペコっと頭を下げると団子を画咲に渡し、そして何かに気づいたかのようにハッとするとつぶやいた。

「あけましておめでとう……」


 ふたりは顔を見合わせる時計を見ると、針はちょうど深夜12時を指していた。

「「あ」」

「あけましておめでとうだお~!」

「あけましておめでとうー!」

 女性はまた、ペコっとお辞儀をすると小走りで人ごみへと向かっていった。


「今どき、足を踏んだくらいで詫びを入れに来る人なんているんだねぇ」

「ははは、律儀な若者よ。ちょ『足を踏んだくらい』ってなんだお!………あ、女子、待つお!」

「どうしたんだい、かっくん?」

 女子生徒は喧騒へと消えるその刹那、何かを落とした。

「スーパーダッシュ! 画咲物語!!」

「なにそのパチンコみたいなネーミング!! どこいくの、かっくーーん!!」


 画咲は女生徒が落とした何かを拾い上げるとキョロキョロと周りを見渡し、帰ってきた。

「見失っちゃったか。彼女、なにか落としたの?」

「ハンカチ……さっきのオナゴが落としてった。見失っちったお」

「あーあー。この人混みじゃあな……って! ポッケに入れるんかい!!」

「どうせオイラ達も、あの、人がゴミのような人混みに入っていくことになるし、見つけたら渡してあげようと思いけり!」

「ひ、人がゴミ…?」


 しばらくすると列が整然と成り始めたので、ふたりは列に並んだ。

 並んでいるうちに見えてきたのは、決して大きくはないが、立派な神社だ。

 参拝が二人の順番になる。

「かっくん、何お願いするのー?」

「内緒だお~」


 二礼二拍手一礼。パンッパン。 ふたりで手を合わせる。

「いいアイドルが取材できますように!」

「いいアイドルになれ…………なれしいやつが絶滅しますように!」

「怖ッ! なんの立場なの!! 君が神様なの!?」

「ま、まあまあ、し、市場の健全化を図るには重要な措置だお(あっぶねー)」

「もっと自分の事お願いしなよ-」


「神様もうひとつ! 願いが全部叶いますように! だお!」

「“ひとつ” が欲張りだねかっくん………」


「和幸、今年もよろしくお!」

「うん、今年もよろしく!」

「あ、お団子食べなきゃだお!」

「まだ持ってたの!?」

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