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黒幕みつけたお!

「完全に出遅れましたね……」

「期せずしてサンタ衣装・争奪戦の最終ラッシュを目撃したってわけか…………」


「バックヤードでも手に入らないものがあるんでゲスねぇ」

「ネットも軒並みダメかもね…」

「服飾系のサークルもダメでした……冬のモモコミ需要でコスプレ衣装の依頼に対応しきれないそうです…」

「『用意してねーのか!!』ってマダムにメッチャ怒られたお……」


「サンタっぽければ何でもいいんだけどなぁ……」

「趣向を変えてみては? ユニット名は地獄A`sですし、なにか和風ですから」

「ありだね、和風っぽい………着物と浴衣の中間みたいな衣装をときどき見かけるけど、それの赤とか流用できないかな」

「だっておマダム。お? あるのかお!? それ5着押さえてほしいお!」

「まだ電話つながってたんでゲスか……」


「モノによりますが……私は裁縫も出来なくはないですし、クリスマスっぽくいじってみましょうか」

「リアム、仕事多すぎだお」

「いいえ、コンテンツを作る皆さんに報いるには、その他のことを全部私がやる必要があります。やりましょう」

「てな感じだおマダム! それじゃあよろしく頼むお! この仕返しはいつか必ず」

 ピッ

「あ、恩返しか」



「そう、マダムと言えばかもね」

「どうしたんだい文人くん」

「昨日の話……覚えてるかもね?」

「寝る前にスマートフォンを見て、なにか難しい表情をしていましたが……そのことですか?」

「そうかもね……」

「それがマダムと何か関係があるんでゲスか?」


「正確には関係あるか確かめたい……かもね。クラフ手伝って」

 文人はパソコン画面を操作すると、百徒神温泉で撮った写真の数々を表示した。


「ええと……あ、この写真かもね」

「この写真が……どうしたんですか? 旅館の外観?」

 画面に大きく表示されたのは、一行が山麓庵に到着した際に文人が旅館の外観を捉えた写真だった。

「ここを…ズームするかもね」


 宿泊した木造旅館・山麓庵。建物の表面には、各階の廊下の窓がある。文人はその一部、三階の窓をズームした。

 映ったのは廊下を歩く二人の人影と思しき姿。だいぶズームをしているのでボケているが、二人のうち一人は坊主頭の大男で特徴的だ。画像は不鮮明だが、ちょうど二人の人影が歩きながら窓の外を見たような構図と見て取れる。

「なるほどでゲス。この不鮮明な画像で俺の出番ということでゲスか」

「頼むかもね」


 クラフは指をポキポキ、と鳴らすとすごい速さであらゆるウィンドウを操り、画像を鮮明にしてゆく。

「閑散期でお客は少ないかもね。くわえて三階の宿泊客と限定すれば更に絞られるかもね」

「そして三階には『解放作戦』と口にした二人組がいる…ということだね文人くん」

「あの……この坊主の人……どなたかに似ている気がします…」

「そういえばどこかで見たことがあるような気がするでゲスな………」


 ぼやけた画像が鮮明になるにつれて、画面を凝視する一同の顔が、こわばっていく。

「うそ……ですよね」

「冗談だよね」

「これは…どういうことだお……」

「最初はもしかして、と思っただけかもね。遠目に姿形が似ていたから…。でもこうなると……疑いの余地はないかもね」


 そこには、山麓庵の三階廊下を移動する、ある人物が写っていた。


「これって、左近寺さんじゃないか!!」


「三階の連中って、黒の集団側、つまり生徒会では?って結論でゲしたよね!?」

「やっぱりあのゴリラ、特殊部隊ゴリラの一員であったか」

「ちょっと待って下さい! 左近寺さんの隣りにいるのって………誰でしたっけ。見たことがあります……」


「や、優織真一やさお しんいちでゲス!!!」


「ええええええええええ!!! って。誰だお、それ」

「ばか! 生徒会長でゲスよ!!!」

「な、なんで生徒会長と左近寺さんが一緒にいるのさ!」

「ぼくだって聞きたいかもね」

「偶然、宿泊していた者同士ということでしょうか?」

「この並んだ歩き方は顔見知りだろうなぁ……」

「まさか付き合ってるのかお!」


「真実はわからないかもね。でも生徒会のトップとバックヤードのスクラムが、温泉宿で密会なのは間違いないかもね」

「夜中に文人くんたちが聞いた『解放作戦』の声の主は…この二人と考えるのが妥当だな…」

「考えたくないでゲス!! 左近寺さんが、左近寺さんが……」

「クラフさん、まだ決まったわけではありません……」

「でもでゲス……」


「今までのお話ですと、もはや8万人になる学園居住エリア拡大のために、生徒会がバックヤードを武力制圧したがっているという仮説ですが、生徒会に裏で手を貸しているのが……」

「左近寺…ってことかもね」


「うん。よくわかんないお!」

「まったく身内で色々起きすぎだよー。広い学園なのに……」

「左近寺さん……。うそでゲス……」

「ともかく身内に関係者がいるって分かったのは雲海の裂け目だ」

「そうですね。アイドル活動はそのままにして、様子を見たほうがいいかも知れません」

「仮説も悪い線はいってないと思うし。なにか不穏な動きがあれば左近寺さんを問い詰められる」

「誰も傷つかなければいいでゲスが…」


・・・・・・


 五人になった新生 地獄A`sのメンバーは役割分担もチームワークもうまく運んでいる。それぞれ違う分野を志していることが、互いのスキルの使いどころを有耶無耶にしていた。しかしそれが、無いものを補い合うパートナーとして、アイドルの名の下、輝き始めていた。


そんな忙しさにも中休みを取ることにした。クリスマスライブまで、あと一週間を切った、21区商業エリアでのこと。


「いいですよね、街がクリスマスの雰囲気になるこの季節って」

 リアムと画咲は綺羅びやかな電飾に包まれた街の中を並んで歩く。

 ふたりは両手に買い物袋をもち、袋からは長ネギが顔を出す。商業区の通路が交差する場所にはクリスマスツリーが飾られ、マフラーをした生徒たちが楽しそうに写真を撮っている。


「寒!! それにしてもこの商業区寒すぎなりい!」

「公園区が近いですから外気温と変わりませんよ。姫子さんは相変わらず薄着ですね……」

「そそそそ想定してなかったなり…施設の中だから…。一年中Tシャツでおkの精神だったお…」

「ライブ前ですから、風邪引かないでくださいよー?」

「オマケにだいぶ痩せたしお…デブにとって冬は涼しい快適な季節であるが…常人にとってこれほど堪えるものとは…」

「あ、暖かい服、買ってくださいね……」


「ああ、そういえば衣装できたのかお?」

「ええ、手をくわえました。もともとが完成している衣装だったので大それたことはしませんでしたが…」

「寒い格好はなしだお!」

「大丈夫ですよ、会場は温かいですから。今日もこれから鍋で温まりましょう」

「鍋なんて久しぶりだお~」

「学園の食料は出来合いのものが多いですからね…自炊の人ってむしろいるのかどうか…」

「単身寮の人とかは自炊してそうなりね」

「単身寮…そんなのあるんですか?」

「地獄A`sの皆みたいな2人部屋が標準だお。でも5・6人のシェアルームもあれば、単身寮もあるんだお。寮費がお高いけど」

「それこそ雪紅葉さんとか、そういうヒトのお部屋なんでしょうね」

「ちゃんとしたキッチンがあるという噂なり!」

「ええ? すごいですね。憧れますけど……でも私は、皆さんと暮らせれば毎日楽しそうですから5人部屋もいいかもしれません」

「えへへ、オイラもその方がいいお~」

「ふふ。今、とっても楽しいです」

「オイラと歩いてるのが?」

「うふふ、それも含めて、全部です」

「転入当時は、全部ひとりでやっていく気でいましたから…私」


「そっか…みんなそうだったお。でもこうして皆でなにかやるようになれればって、オイラも思ってたんだなこれが」

「姫子さんのおかげですね」

「うん。認めるお。オイラのおかげ。でも今のオイラは皆のおかげ。なんと美しいジャイアニズム」


 寒さに肩をすくめて歩く画咲の後ろから声がした。

「姫子さん」


 振り返ると、白のダッフルコートを着たリアムが立ち止まっていて、画咲に向き合っていた。

「私とアイドルを目指してくれて、ありがとう」


 街のイルミネーションは彼を祝福しているかのように輝いて、彼もまた、今とても幸せです、と微笑んだ。

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