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ババンバ バンバンお!

 久しぶりに、フルメンバーが部室に招集されていた。


「うわあああああん!!! 俺の原稿! 全ボツでゲスううう!! わあああん!!」

「ぶっはは! なんか知らないけど超泣いてるおww」

「やめなよ、かっちゃん」

「それにしても驚きましたね」

「文絵、温泉のチケットって、どうやって当たったのかもね」

  「頑張ったんデゲスゥウウウ……うええん……」

「いや、あの、その、ちょっと、買い物したらさ、福引券をもらって、やってみたら……当たったんだ」

  「ふえええええ、全ボツゥゥゥゥ全ボツでゲスウウウウ……」

「5名様ご招待って。半端だお」

「小規模サークル用かもね」

「で、で、どこの温泉なのかお! 草津!? 登別!?」

  「ボツウウウウウ………」

「いや、百徒神温泉だよ、5区だね」

「なんだお。近所じゃないかお!」

「近所っていっても、観光階層だし様相が違うよ。遠くに行く感覚はちゃんと味わえる」


「あったかもね。百徒神温泉旅館、山麓庵さんろくあん

 文人がパソコンの画面をくるりと回して皆に見せ、それぞれが覗き込む。クラフは後ろの方で泣いている。


「わあ! すごいです! なにか格式を感じますね!」

 全体は木造。板張りの廊下に、あたたかな行灯あんどんの明かりが続くイメージ画像。年季を感じつつも行き届いた手入れ、古いが決してボロ旅館ではない。部屋の和室からは古都を思わせる温泉街を一望でき、さらに雰囲気を良く見せている。


「5区は、全国各地の壊されるはずだった古旅館を移築して建てられた温泉街なんだ。観光業界志望の生徒が運営してて、外部のお客さんも来る根っからの温泉街なんだよ!」


「はい! 質問でありますが、混浴でつか!」

「当たった宿泊プランはいつのものなのですか?」

「それが今週末なんだよ…皆予定はどうだい?」

「はい! 質問でありますが、混浴でつか!」

「ずいぶん急かもね…でもライブは今ならキャンセルできるかもね」

「中間テストの時期でお客も見込めませんし、お休みしてもいいと思います。姫子さんどうですか?」

「はい! 質問でありますが、混浴でつか!」

「姫子さんもいいって言ってますし、行きましょうか!」

「よし、じゃあ決まりだね!! 出発は土曜の朝。さっそく支度しなくちゃ!」


「全ボツでゲスウウウウウウ!」「混浴でつか!! 混浴でつか!!」


・・・・・・


 土曜当日。21区()()()前。午前9時50分。

 デイバッグを背負った4人が集まっていた。今日は珍しく皆私服であるから、ちょっと見慣れない互いを眺めては雑談をする時間が流れてゆく。

「あのブタ!! 何やってるでゲス!!」

「まあまあ。待ち合わせまでまだありますから。楽しい朝にしましょうよ」

「かっちゃん、まだ寝てるのかなー」

「置いていこう、かもね」

「ぐぬぬ、ピ・ポ・パッでゲス」


 トゥルルルルルルルル…… 

 トゥルルルルルルルル……


『あ、もしもし。すみませんでした』

「開口一番に謝るということは寝坊の罪を認めるでゲスな」

『いえ。起きておりました。持っていく水琴氏のだきまくら、どれにしようかな問題でですね』


ピッ


「話にならないでゲス」

「ひ、姫子さんらしいですね…!」

「本来の待ち合わせまであと10分あるから、大目に見てやるか」


・・・・・・


「はーい10時1分でゲスー。失格ー」

「ふえええ!! 間に合った系でござろう!! 許してクレメンス~~!!」

「かっちゃん、息整えてる場合じゃないよ~。10時7分の特急に乗るんだからね!」

「バイバイかもね」

「待ってお~~~!!!」


 カタンカタン…カタンカタン……

「こんな眺め、久しぶりでゲスね~」

 本物の青空の下、山肌を螺旋に登っていく列車。

「外線に乗ったの初めてだお!」

「大抵は自分の区で済む用事が多いし、ライブで別区に行くにしても内線だよね」

「特急があるのはこの外線の特徴でゲス!」

「紅葉は終わってますが、山々がキレイですね~~」

「外の空気もおいしいかもね」

「あむ。 あむ。 うまいかお? ゲプ」

「風上でゲップするなでゲス!!」

「山の空気のゲップであるから安心でゴザル」

「降りろ! 今ここでゲス!!」

 あははははは!!!


 一行は百徒神学園の山肌を通るトロッコ鉄道、通称:外線がいせんに乗って山頂付近の5区にある温泉街を目指していた。

 冬の空気と枯れた山肌だが、青空の下で澄み切った景色が広がる。久しぶりの外の景色に、会話は少なくとも皆が同じものを共有した。


「きれいです、学園の山肌には畑もあるんですね」

「農業系の学科が使うプラントかもね。学園の食料自給率の40%は山肌で生産してるかもね」

「所々に建物があるお!」

「保養所か……部室棟かな。金持ちの部活や山岳サークルなんかは自前で山肌に建物を持ってるのさ」

「詳しいお、フミフミ」

「バックヤード探索のときに山岳部の友達からヘルメットを借りたからね」

「ああ、そうだったお!」

 山頂に近づくにつれ、建物群が見えてきた。コンクリートの建物も頭を出しているが、多くは木造の建物のようだ。

「あ、見えてきたでゲス!」

『学園5区中央、学園5区中央に到着です。お降りの方は~』


・・・・・・


「ついたおー! ついたおー!」 

 パシャ!

 両手を広げて伸びをする画咲を、文人が写真におさめる。

「おおう! 写真は事務所を通してほしいなり!」

「記念かもね」


 駅舎を出ると、通りが真っ直ぐに山肌を登り、時にうねって山頂の方へと続いている。その両脇には、古き良き時代にタイムスリップしたかのような木造の温泉街が広がっていた。

 移動に使うバスの停留所。その柱にはサビが覆う看板、日焼けがひどく読むのがやっとの時刻表。土産物屋から漂うのか、おまんじゅうを蒸していると思しき香り。

 中間テストの時期だが、一行のようにテストを諦めているか、はたまたテスト対策に余裕がある生徒なのか、いいや一般の観光客か。土日ということもあり駅前はそこそこに賑わっているようだ。


「すごいでゲスー! 学園内にこんなところがあるなんて!」

「知らないだけでいっぱいあるんでしょうね、いろんな夢を追う人がこうして学園を作っているなんて」

「ここは特に学園の肝いりの区画さ。外からの観光客も来るし、カルデラ杯では観客にも、アイドルにも、宿場町になるから」


 山肌に立ち並ぶ温泉宿は、まるでコンビニの雑誌のひな壇陳列のよう。旅館の頭の後ろから旅館が顔を出し、そのまた後ろから旅館が顔を出すといった具合に、一望すると迫力がある。

「5区ってこれだけデカイなりねぇ。圧巻だお」

「このままでも十分貫禄があるけど、シェルター内部にも温泉街が伸びてるらしい。そこは(たたず)まいに依存しないホテル区画とか、娯楽やリラクゼーションの施設が整ってるみたいだね」

 文絵が広げていた観光マップをパタパタと閉じると、いいタイミングであった。


「バスが来たかもね」

 5区の中を周遊するタレットバスに乗る。10人収容のバスだが、このときの乗客は一行だけ。モモバンで200APを払い、全員が席につくとバスが走り出した。


「この町並み、すごいです! 昔にタイムスリップしたみたいですね」

「なにか空気に混ざって木の香りもするでゲス!」

「ああ!! ゲームセンターがあるお!」

「かっちゃん、ここまで来てゲームセンターかい?」

「こういうところのゲームセンターは、掘り出し物のゲームがいっぱいあるんだお!」

「射的や卓球なんか、温泉ぽくっていいでゲスね!」

「後で散歩してみたいですね!」


 揺られること20分。温泉街を抜けてゆき、そのなかでも山頂に近い木造3階建ての旅館、山麓庵さんろくあんについた。

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