表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/38

まるで別人だお!俺誰だお!

 22区公園エリア。

 百徒神学園には、基本的に山の外を覗ける窓がない。それは山全体が元核シェルターである当然の名残で、頂上付近の農業エリア・観光のエリアを除いては、普段の生活で外界を眺めることは出来ない。これはシェルター時代からの大きな課題であった。閉鎖的な空間は、人にストレスを与える。日光や広い空間を体感できないと、人は滅入ってしまうからだ。

 年頃で血気盛んな生徒なら尚の事である。そこで、学校区、商業区、公園区では建物数階ほどの高さまでドーム型にくり抜いた空間が用意され、擬似的に外を思わせる広さと、日差しや星空の投影によって、ストレスを軽減できる工夫がされていた。


「だからって夜中の公園で練習するのかおー!!」

「仕方ありません。スタジオは借りると高いですし。部室エリアでは迷惑です。姫子さんが7000APを稼ぐチャンスは、明日の夜、バックヤードでの新人ライブにしか無いんです」

「どう考えたって、一晩じゃ無理だおー!!」

「大丈夫です。明日の夜のライブまでにカタチにできます。ほら、足上げて! 流れで動かさない! 動作はその都度止めてください! 」


「厳しそーでゲスねー」

「自分もアイドルを目指すリアムだからこそ、かもね」

「……まあ。かっちゃんも板につかなきゃいいけど…」

「なんでかもね?」

「いや、なんとなく…かな…」

「…………」


「バランスは取れています。交通局の重労働で基礎ができたんですよ。ほら足を上げて」

「うぃたたたたたたいいい!!」


「夜の原っぱって、いいかもね」

「同感でゲス」

「なんか、外って感じが久しぶりだね」

「ここは直接外気を引いてきて風を再現しているそうでゲスよ」

「どおりで空気の“外感”があるね」


「明日筋肉痛になって、動けなかったらどうするんだおー!」

「これは明日筋肉痛にならないための“ほぐし”なんです。はい、それじゃあ音楽に合わせて。右、左右、右、左左!」 

「ぎゃあああああああああ」

「あなたの脳は、太っていた時代の体の動かし方しか覚えていないんです。嗚呼、体がここまで動くんだって、脳に確認させてください。体力以上のことをしなければ筋肉痛になることはありません!」

「うぎゃああああああ!!」


・・・・・・


「あ~~~つかれたおー」

「まだまだ、きっちりタイムスケジュール通りにいきます」

「うわあああん。助けておーークラフゥゥウ」

「ガンバールデゲスヨー」


 土曜の夕方から行った『現状確認のミーティング』は、19時過ぎに判明した残高不足の悲劇で幕を閉じた。しかし実は女装アイドル“緑の人”だったリアムから、新人デビューライブへの再挑戦でAPを稼ぐ提案される。

 自分なら “女装アイドル” から “女性アイドル” に一晩で仕上げることができると、皆を説得したのだ。

 みな、正直なところは懐疑的だったが、女性にしか見えない変装が可能なリアムを前に、熟考の時間も、選択の余地もなかった。

 

 学園で日雇い・日払いの7000APが稼げる仕事、それを今すぐ探すという話は確かに難しい。クラフ、文絵、文人は、この賭けに賛同せざるをえなかった。

 この短期決戦プログラムは4段階。身体の稼働基礎、女性の声の出し方、化粧、パフォーマンスとなっていた。


「次に女性の声の出し方です。初ライブでの姫子さんの声は、女性=高音を出すという発想でした。気持ちは分かりますがそれは間違った認識です」


 見学者の三人も次第に耳を傾けるようになっていった。

「さすが、女性にしか見えないだけのことはあるね」

「説得力がすごいでゲス」


「男女には性別として喉笛、つまり声帯に違いがありますが、実はその差は簡単に越えられます」

「えええ? 無理だおそんなの…」

「私の音に合わせてみてください」

「あああああああ」

「あーーーーー?」

「下げますよ。あああああああ」

「あーーーーーー」

「伸ばさないで。『あ』を連続して言っているように。ああああああああああ」

「ああーああああー」

「もう一回。声を作らないで。喉を潰す原因です。自分の声で」

「ああああああああ」

「ああああああああ」

「今度は上げていきましょう」


・・・・・・


「ああああああああ」

「その音です!! もう一回」

「ああああああああ?」

「姫子さん。その『あ』は、自分の生活の中で、どんなときに言う『あ』ですか?」

「ああああ、ああ? あああ↓お。ああおああ」

「お! ~~だおっていうときの! 『DAO』の『A』の部分!」

「その喉のカタチを覚えて。……そして『あいうえお』って言ってみてください」


「あいうえお」

「「「 ……!!!! 」」」


「その声で、しゃべることはできますか?」

「あ、あ、あ。えええ!? 自分の声じゃないみたいだお!」

「いいえ、姫子さんの声ですよ。喉が無理をしてる感じはありますか?」

「ない…お。あはは、おもしろいお!」


「人は誰しも、男性ならどこかで女性の音域を、女性もどこかで男性の音域を出しているんです。そこを捕まえて、増幅してやればいいんです。きれいな女性の声なんて目指さないでいい。あなたの中にいる、もうひとりの女性を呼び出せばいいだけです」

「もうひとりの…かお」


「すごい……すごいコーチングでゲス」

「これはたまげたよ」

「そういう女の人の声に聞こえるかもね」


「声が女性で振り付けが踊れれば、音痴でもなんでもいいんです、デビュー戦なんですから。さあ、お化粧と衣装に移りましょう」




 部室。

「ゲスゲスゲスゲス、ぶははははは! ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「くくくかもね、くくくくくかもね」

「あは! あははははははは!」

「笑ってる分だけホッピーターン奢らせる。笑ってる分だけホッピーターン奢らせる。笑ってる分だけホッピーターン」


 画咲の、男である容姿に、段々と化粧が施されていくのが、なにか滑稽で三人は笑っているのであった。

「みなさん安心してください。スグに笑っていられなくなるのでホッピーターンのおごりは最低限で済みますよ」


 1分後


「「「………」」」

「みなさん笑わないんですかー?」

「「「すみませんでした」」」


 画咲が痩せたことが、こうも作用するとは誰が想像しただろう。

 ショートヘアーのウィッグを被って、優しい目をしていて、唇もぷるんとしていて、肌もモチっとした、画咲がいた。


「これが画咲なんて、信じられないでゲス…」

「世の中にいるブサイクって、本当にブサイクなんですよ」

「え、いきなりすごいこと言うでゲスね…」

「事実です。生まれながらに顔が醜い者は居ます。でも決して多くはありません」

「ブサイクや、容姿が良くないと言われる人の殆どは、自分を伸ばしていないだけなんです。姫子さんは実際に太っていたことがキャラクターでした。現にブタと評価していたでしょう? クラフさん」

「う。」


「太っていることは本来の顔を隠します。痩せたことで仮面ブサイクが取れて、本来のブサイクではない姫子さんが表面に出てきた。それをまた化粧するというのですから、可愛くなるのは当然なんですよ」

「もう、ぐうの音もでないでゲス……」

「文絵さんは、いかがですか?」

「ぼ、ぼく!?…は、その…いいかもと、思わなくも…」

「ハッキリいいましょう?」


「文絵くんは、私のこと……どう思ってるのかな…」

「かっちゃん、その声やめて……」

「ぶはは! 貢物でホッピーターンをカートンで持ってこいお!」

「それで、文絵さんは、どうなんでしょうか」

「悪くないかと…」

「ストレートに。男らしく」

「か、かわいい……かもしれない」

「まあ。及第点は差し上げましょう」


「次に。クラフさ「good.」

「じゃあ、文人さ「好き」

「正直で良いと思います。今日はこんなところでしょうか」


「リアム、明日のプランは、どうするつもりだい?」

「そうですね。思ったより身体の基礎は出来ていたので、明日は朝9時に集合して、姫子さんは公園で振り付けの練習をしてください。発声練習もですよ」

「ひぇえ! 日曜日に9時起きですと!」

「9時集合なのに9時に起きてどうするんだい……」


「私はその間に、飛び入り参加の予約とか、姫子さんの衣装に、胸の素材とか。諸々の用事でバックヤードに行ってきます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ