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状況を一度整理するお!

いつもの部室。


「なんかもう、バックヤードに関わりたくないでゲスー」

「ごめんかもね…今回の提案は僕…」

「賛同は僕らだよ。全員そろって気にすることはないさ」

「それにしてもとっくに集合時間でゲス! ブタのやろう何してるでゲス。ピ・ポ・パッ」


『んーーむにゃむにゃ……あ、はい、あ! 今向かってますお。スグつくと思うますです、はい』

「ブタ、お前今起きたでゲスな」

『いや、え。い、今ちゃんとそっち向かってるおー↑↑』

 電話の奥から同居人の声がする。

『かっくんおはよー』

『和幸、しー!』

「おいブタ」

『はい。今向かいます……』

「お前の最速を塗り替えて支度しろクズ」ピッ


「うふふ、なんか皆さんって、おもしろいですね」

「傍目で見る分にはね。慣れたときが怖いよ。慣れたときが」


 5人がバックヤード探索から戻ったのは土曜の朝6時。

 クタクタになって頭も働かず『今日はとりあえず寝よう』で全会一致した。

 しかし記憶の新しいうちに状況を整理したほうがいい。一度寮に帰って寝た後、同じ日の夕方に部室へ再集合と相成ったわけである。


・・・・・・


「おいそこじゃないだろ。お前は床に座るでゲス」

「はい。すみませんお」

「正座だブタ」

「ワン」

「ブタつってんでゲス。ワンじゃねぇんだよ」

「クラフ、それくらいにしてあげなよ」

「チッ」


「じゃあ、皆集合したことだし、状況整理……始めようか」

「途方ないでゲスー」

 一同からため息が漏れる。


「お疲れ様会をかねて、お菓子やジュースも買ってきたかもね」

 テーブルの上には、ボトルのジュースやお菓子がこんもりと置かれていた。

「パーティって考えれば、いいかもね」

「わーいデゲスー!」

「ホッピーターンとアウェイパイ。やるなセカンドフミフミ氏!」

「お前は食うなデゲス」

「しゅん…」

「まあまあ。えっと、じゃあまずは冒険先で出会ったリアムさんから、自己紹介を」

「は、はい!」


 椅子に背筋を伸ばしてまっすぐと座り、落ち着いて、でも緊張した面持ちの彼が話し始める。

「あの…改めまして佐東理編さとう りあむといいます。10月転入の1年生です。宜しくおねがいします!」

「よろしくおねがいします」

「よろしくデゲス~!」

「よろしくだっちゃ!」

「よろしくかもねー!」

 高校生なので見まねの文化だが、なんとなくジュースで乾杯といった運びになった。

「「「「「おつかれさま~」」」」」


「それにしても同じサトウさんでゲスかー、ここにいるのも皆サトウなんデゲスよ~」

「えええ? そうなんですか?」

佐藤画咲さとうかくさくだお。イラストレーターとしてこの世を支配する予定」

佐藤文絵さとうふみえ。マンガ家……とか目指したりしたいかな」

佐藤文人さとうふみとかもね。小説が好き。自分でも書くかもね」

佐藤蔵夫さとうくらふ。デゲスキャラでゲス。グラフィッカーのタマゴでゲス」


「同じサトウさん……でも私は東と書く佐東なんですけどね」

「ぶははは! 偽モンだおー!」

「失礼だよ、かっちゃん」

「お前は痩せても心はブタのままでゲスね」

「うふふ、いいんです。私はどこに出向いても『サトウです、“トウ”は“東”と書きます』っていう挨拶がテンプレートですから」


「リアム。まず、なんであそこに居たのか、聞いていいかな」

「ええ。まず私がこの学園に転入する決め手になったのが、アイドルが好きなのもありまして…」

「おおお!? アイドル好きなのかお!?」

「もちろんです」

「オイラね! 水琴氏が好きなんだお!」

「私も好きですよ、水琴さん!」

「はい、入会おめでとうだお!」

「早い早いでゲスw」


「ほらほら、話を戻そうよ。それで…あそこに居た理由だけど」

「ええ。自分の夢にために準備金としてAPが欲しかったんです。わた…いえ友達のアイドル活動登録に、APが必要で……」

「友達のアイドルデビューが、自分の夢なんでゲスか?」

「マネージャーさんみたいだお!」

「え、そ、そうなんです……ともかく、私はアイドル支援サークルのアキヤマさんというコーディネーターとライブ会場で知り合って。わた…いいえアイドルを目指している友人の事情を話したら、手っ取り早く稼げる仕事を紹介するよって」


「アイドル登録って10万APかかるでゲスからねぇ」

「え゛、そんなにかかるのかお!」

「アイドル活動認定、通称アイ認の登録料といえば泣く子も黙るでゲス。覚悟の無い者をふるいにかけ、アイドル市場を磐石に整備するためには当然の額でゲスな!」

「その高額な登録料が、結果的にバックヤードでモグリのアイドルを作っているとも言える…かもね」

「うう………」


「ほらほら、脱線脱線。リアム、続けて」

「はい、新しいバックヤードを見つけたから、中に入って状況を見てきてくれる人を募集しているって聞きました。お金もよくてスグに飛びついたんです」

「うーん。ここまで僕たちと同じだね」

「あなた方も、似たような境遇なのですか?」


「このブタが、いきなりアイドルになりt「わあああいだお! ちょ、ちょっと事情でAPが必要だったんだお! そ、それでこのクラフ殿下が、似たような話をどっかのイトウさんからもらってきた、という訳で候!」

「アイドル……やっぱり……あなたが…」

「だお?」

「いいえ、なんでもありません」

「俺はバックヤードの同人誌即売会に行って、イトウに話しかけられて、仲良くなったんでゲス。やけに根掘り葉掘りこちらの活動を聞いてきたんでゲスよ」

「カネに困ってそうなカモを探していたってことか……」


「話の中で何か単価の高いバイトないでゲスかね~? なんて世間話のつもりで言ったら紹介されたんでゲス」

「皆さんがバックヤードの出入り口にした部屋を私は知りませんでした。私が案内されたのは11区の端にあるメンテナンスハッチからでしたので…」


「別口だけど共通している手口。アキヤマとイトウは同一人物ではない、でも目的を持った同じグループの可能性があるね」

「いや待てお。アキヤマとイトウは同一人物じゃないと思うお? でも目的が同じのグループの可能性アリアリ…」

「いやそれ文絵が今言ってたでゲスよね」


「リアム、その後アキヤマって人と、その後、連絡は?」

「それが、皆さんと分かれてから帰り道にもう一度連絡したんですが、何回かけても話し中になってしまって。会うのは決まって駅前でしたから、寮の番号もわからないですし連絡の取りようもなく…」

「そこも同じでゲスね…」

「クラフも、イトウにかけたのかもね?」

「ゲス。寮への帰り道、危険な目に合わされたのがどうしても腹立たしくて、一度かけたんでゲスが、プー・プーのプーで、話し中でゲした」


「いわゆる“話し中”のプーっていう断線音は、着信拒否にも使われるからね、もうコンタクトを取るのは難しいと考えたほうがいいかも」

「なにしろ地図を起こせ、はブラフ(おとり)かもね。目的は内部に人を入れることそのものかもね?」

「リアムは…結局いくら受け取ったの?」

「前金ということで10万APでした。残りは用意できていないから、また戻ったときに渡しますって」

「ここまで同じだと、元締めは一緒でゲスね」

「確定でいいだろうね」

「双方とも夢や入り用を見抜かれて、APに釣られたってこと、かもね」


 手を叩くと文絵が目を見開いた。

「まてよ? AP! そうだよ! モモバンの送金機能って、相手の名前が記録に残るだろ!?」

「ああ! それで相手の生徒のフルーネームがわかるでゲス! モモバン開いて、ピ・ポ・パッでゲス」


 クラフは自分のモモバンを操作する。APのやり取り履歴を参照すると、相手の情報が読み込まれていく。

「イトウのやろう! 残りのAP20万、きっちり払わせてやるでゲス!!」

「私も検索します!」

「あったでゲス! イトウ・カズヤ3年生」

「わ、私もありました! アキヤマ・シュウイチロウ2年生」

「履歴じゃ流石に名前と学年くらいしか見られないか…」

 文人が人差し指をピッと立てる。

「百徒神ネットを使うかもね」

「ネットで出るのかお?」

「ここは自己実現の学園…自分の活動は晒してナンボかもね……」

「誰でも多かれ少なかれ、ネットには引っかかるってわけか」


 文人はPCデスクにつくと、ピアノの連弾かのようにキーボードを叩き始めた。

「やっぱり、すごいタイピングだお! そしてウェブページ閲覧のなんたる速さ!」

「ほ、本当にすごいです…!」

「文人くんはラノベ作家のタマゴにして、僕たちと同じアイドル情報収集オタクだからね…」

「名前に該当する情報211件。そのうち学園で数年内の活動かつマンガ関係とすると……15件、学園内マンガ賞の受賞やサークル活動履歴かもね」

「でかした!」

「でもマンガだからなあ。作品はともかく、ネットに顔を出しているかどうか…」

 パソコン画面に表示されたいくつかの記事の中に、かろうじて本人がサークルで撮られた集合写真を見つけた。

「あった。コイツかもね」

「顔が不鮮明でゲスねぇ。ちょっとPCをバトンタッチしてほしいでゲス」


 クラフは画像加工ソフトを立ち上げると、恐ろしい速さであらゆるウィンドウを操り、写真を鮮明にしていった。

「す、すごい加工テクニックかもね」

「みなさん、本当に色々と一芸をお持ちなんですね…」

「クラフはグラフィッカーのタマゴだ。画像加工の反対に元の画像を鮮明にしたりもできるからね」

「これでどうでゲス!!」

 ぼやけていた顔も、ハッキリ顔が判別できるほどになった。


「「「「顔ちがくね」」」」

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