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うまい話じゃないのかお!

「うわあああ!!」

「誰かもね!!!」


 半身が覗くその相手もまたびっくりして「わああ!!」と叫ぶと後ろに倒れ込んでしまった。

 文人と文絵は奇妙なことを言っていきなり廊下に出ていき、廊下で慌ただしく二人のライトが踊り狂い、文絵の怒号と、三人分の叫び声。すべてが同時多発の出来事でクラフと画咲はパニックになった。

「ろ、廊下で何が起こってるんだぷりいいいい!!」

「死にたくないでげぇええす!!!」

 二人の叫び声を最後に、音はしなくなった。

 廊下で踊っていた光が落ち着き、やがて。


 部屋の中に『3人』が入ってきた。

 文絵、文人、それに見たことのない、痩せ型で短髪の男子生徒であった。

「ぎゃあああああ! 志村アアア!!!!」

「後ろでげえええええええすぅうう!!!」

「しっ! しーー!! かっちゃん、クラフ、静かに!」

「大丈夫。連れてきたのはニンゲンかもね」

「こんなときに “かもね” はないでゲスぅ~!!」



「お、驚かせてごめんなさい…」

 全員で円陣を組んで立ち、その真中にストーカーを座らせた。

 改めて見た彼は、長身で短髪、大それたことはしないような優しい雰囲気がある。

「わ、悪気はなかったんです! あなた方がどんな人たちなのか確かめたくて…」

「おうおう、オイラ達の秘密を知ったからには、生きて返すわけにはいかねーのだぜ!」

「なにをいきなり強気になってるでゲスか…」

「さっきまで自分が生きて帰れない顔してたのに」

「それにしてもあなたは何者なんでゲス?」

「わ、私は…その…」

「なんだあ? 吐いちまって楽になりなぁ!」

「目的は、“僕たちの調査” で、合ってるかもね?」

「ちがいます! “目的はあなた達と同じ調査” なんです」

「ふぁ?」

「私も…ここの調査を請け負ったんです……私だけだと思っていたら誰かがいる気配がして、怖くなって、最寄りの出口を探してたんです……そしたらあなた達のライトが見えて…それで」

「ほう……。邪魔者のオイラたちを脅かして帰そうと大きな音を鳴らしたり、大きなおならをしたり、犯行に及んだ…ということなりか」

「おならは画咲でゲスよね」


「ち、違います!! 暗闇から大きな音がしたときは、あなたがたに声をかけようとしていたまさにその時だったんです。でも…やっぱりどういう人達か分からなかったから声がかけにくくて…音も怖かったですし……とりあえずついていこうと……」

「で、犯行に及んだということかお」

「だからなんの犯行でゲスか」

「あなたのクライアントは…誰かもね」

「それが、オモテでアイドル活動を支援しているサークルのアキヤマさんという方で…あ、言ってよかったのかなこれ…」

「僕たちのクライアントはイトウさんでゲス」

「複数人が同時にこのバックヤードを発見していた、ということか?」

「電話でこまめに状況を知らせるように言われて…アレと遭遇した話をして、もう嫌です、帰りますって宣言して、出口を探して……」


「アレ…とは、なにかもね」

「あの、もしかして………あなた方は、まだアレに遭遇してないんですか?」

「はい来ましたお! まだ別の敵がいるのを匂わせるパターン!」

「教えて下さい! あなたたちは、アレの仲間ではないんですyよね?!」

「ほ、ほかにまだ、この空間に誰かいるんでゲスか?」

「たぶん、偶然遭遇していないだけだと思います…私は何度かやり過ごしました…」

「僕たちのほかに、あなたのような調査を請け負った人がいれば、まだ誰か居ても当然だろうけど…」

「でも、アレというのは何か特別な言い回しに聞こえる、かもね」

「どういう風体なんでゲス?」


「それが……。全身が黒の服装で、グループで行動していました。なにか体がゴテゴテしたシルエットで……両肩に赤い、マークのようなものが?…」

「特殊部隊ゴリラ?」

「またゴリラでゲスか……」

「あなた方の仲間でないなら! このあたりも危ないと思います!! 脱出しましょう!」


「!!…………みんな。静かにかもね」


 その時、またも廊下の奥から。

 "音を立てないように動く"音。


「(……ライトだ、皆、ライトを消すんだ!)」

「(な、なんでゲス?)」

「(気配がする。音をたててはダメかもね)」

「(またでゲスかあ!)」


 じゃじゃりじゃ、じり……じゃりじゃじゃ…じゃじゃじゃ…


 耳をすませ、衣服の擦れる音にも慎重に、そして暗さに目がなれてくると、意外に周囲が見えてきた。


「(音が多い。複数人かもね)」

「(やり過ごせるかな…?)」

「(おいヒョロヒョロ! お前、出口は知らないのかお!)」

「(さっき私が身を隠していた通路なら……)」

「(そこにも敵が居ないと、言い切れるでゲスか!)」

「(大丈夫です。あの通路は行き止まりなんです)」

「「「「(だめじゃん)」」」」


「(いいえ、一見すると行き止まりなんです。分かりにくいのですが奥が曲がり角になっていて、まだ先に進めるようでした)」

「(行き止まり風の通路なんて、相手が騙されてくれる保証ナイでゲス!)」

「(不確定要素が多いが、それに賭けるか……先導してくれ。あなた名前は)」

「(サトウです)」

「「「「(まじでか)」」」」


「(し、下の名前を教えるでゲス!)」

「(理編りあむです)」

「(先導を頼むよリアム、皆も。合図で行くよ)」

 部屋の入口に向かって文絵とリアムが、そろり、そろりと歩いていく。

 廊下の奥からは、相変わらず何か、複数人がうごめく気配。

 先程よりも、少し音は大きくなっている。

 廊下を覗いていた文絵が全員に合図した。

「(いくぞ!!)」


 文人が、静かに動く人間の音を察知したように、こちらが同じことをすれば、当然、相手にも察知される。

 全員が誰からともなく前にいる人間の肩に手をかけ、暗闇でも一列に歩けるようにしながら、足早に部屋を出た。


「(すすめ! すすめすすめ!!)」

 リアムの先導、文絵の誘導、そして皆がそれに続くが…。

 廊下の先の、アレとやらに、どうやら見つかったようだった。


「いたぞ。前方推定20m!」

 その刹那。


 パパパパパパッ! パパパパパパッ! 


「(な、なんでゲスぅう!!)」

 アレとやらがいるであろう廊下の奥から、独特の破裂音。そして姿勢を低くした全員の後ろで、何かが弾けるような音。


コンコカンッキカン! カン! コキカカンキコン!


「(さっきの音だお……!)」

「(うしろにもナニか居るんでゲスか!)」

「(違う…これは飛び道具だ!)」

「(みんな通路へ! ここは食い止める!)」


 バスン! バスバス!!


「(フミフミ、今なにか撃った? 撃ったでゲスかぁ!?)」

『ヒットーー!』

「(……!?)」

「(みなさん、通路の奥を! 恐れず左に曲がって!)」

 なだれ込むように通路に入ると、行き止まりを左に曲がる、リアムの言ったとおり、見えにくいが左に通路が折れていた。


 しかし、その先もまた、ほどなく行き止まりだった。


「(わああ! もう、ダメでゲス行き止まりでゲス!)」

 肩を寄せ合い、屈んで震える一行。1テンポ遅れて文絵も入ってきた。

「(声…音…立てないで…)」


 状況を整理する。未発見とされるバックヤードにある兵舎。長い廊下に個室が連続しているエリアのひとつで休んでいた一行は、廊下の奥から迫りくるアレとの遭遇を恐れ、最寄りの、とある通路に逃げ込んだ。

 リアムが言うように、この通路は廊下から明かりを照らすと程なく行き止まりになっている “ように見える” 。

 実際はまだ通路が左に折れており、その通路も5メートルで行き止まりになっているのだが、一行はその突き当りでうずくまっている、というわけであった。

 この無意味に見える通路の行き止まりには、配電盤のようなものが壁に設置されている。理由はわからないが、なにか業務的に必要なスペースなのだろう。


 じゃ、じゃじゃじゃじゃやじゃ……

 アレの足音は耳を澄ませる必要がない距離にまで近づいてきた。

 それらはもう、すぐそこ。この通路と廊下の合流点にいるようだった。

「ライトをつけろ、サーチするぞ。このあたりだ」

「くそー。タケウチやられたよー」

「このあたりにB隊? いくらなんでも速くないか?」

「あちらさんは迂回したつもり、コッチも迂回したつもり、それでバッタリ遭遇したって訳だろ」


 どうやら複数人である“アレ”のうち、一人がこの通路に気づいた。

「なあ、こっち。通路か? これ……」

「「「「「(………!!!!)」」」」」

「(こっちに来るでゲス!)」


 じゃり……じゃりじゃり…じゃりじゃりじゃりじゃりじゃり!!

「(おしまいデゲスゥゥ!!)」


「おいイシダー。そっち行き止まりじゃねーかー?」

「イシダさん、解放作戦じゃ、一人行動は厳禁っすからね」

 近づいてきたのが、どうやらイシダという人間らしい。声は、一行の本当にスグ目の前で発せられている。


「ほんとだー。行き止まりだー」

 どうやらイシダという人物は、この通路を行き止まりとしてうまく勘違いしてくれたようだった。

「なあ、撃ち返してきたのって一人だったよな?」

「ああ、でも何人かで移動してたのは間違いない」

「たしかにその気配でしたね」

「退避行動しつつ一人がシンガリで撃ったって顛末だろう。本番に近い想定だ。急襲されれば誰でも奥に逃げる」

「追うか」

「おっけ。みんな行くぞー」


 足音が遠ざかってゆく。

 いまだ、いまだ遠ざかってゆく。

 さらに、さらに遠ざかって、聞こえなくなった。


 ぶぅッ!


「ごめんお」

「お前ホントこんなときによくオナラ出るでゲスね!」

「こういうときだからだお! 極限の緊張から生命活動が再開された証拠だお!」

「誰も証拠の提出なんて求めてないでゲス!」

「みんなここで待ってて、僕は廊下の様子を見てくるから、その間に」

「イトウに連絡して、状況を知らせたほうが、いや追求したほうがいいかもね」

「わ、分かったでゲス!」


『はい~イトウです~!』

「イトウ先輩! 助けてほしいでゲス! 暗闇からパス・パス・パス! の キン・コン・カンなんでゲス!」

『ええ? なんです~それ~』

「とぼけないでほしいかもね。なにか知っているかもね」

『ど、どの佐藤さん、だか、分かりませんが、私は中のこと何も知らないです~!』

「話にならないかもね」


『クラフさん~、中 に ど ん な 連 中 が い た ん で す か ~ ?』


「あ、あれは私が見たのと同じの…、黒い服装でゴテゴテの、赤いマークが肩についた……」

 リアムも心細さが我慢しきれずに会話に割って入る。

『これまた~どの佐藤さんか知りませんが、なるほど、黒の服装でゴテゴテ。赤いマークが肩に~? なるほどー』

「…イトウ先輩」

『色んな人が喋りますね~、今のはクラフさん?』


「僕は、一言も、“連中” なんて言ってないでゲス」


『………』


「イトウ先輩。なんとか言ってくださいでゲス! 誰かが中にいること! 知ってたんじゃないでゲスか!?」

『とりあえず、気をつけて~帰ってきてくださいね~』プツ。プープープー……

「いっぱい食わされたのは、間違いなさそうかもね…」

「いったい、ナニがどうなってるんでゲスー!」

「みんな、アレは本当に近くに居ないみたいだ。帰り道は分かりきってるし。もう帰ろう」



 勝手知ったるとまではいかないが、一行は帰り道を間違えることなく、慎重に、イトウの待つ部屋の扉の前へと帰ってきた。

「ここまでくれば、もう安心かもね」

「イトウの野郎…ギッタギタに問い詰めてやるでゲス!」

 バックヤードへ続く廊下とイトウの部室を隔てたドアに手をかけ、ハンドルを回す。


 ゴゴゴ、ギギギギィイ


「おら、イトウ! 出てくるお! たっぷり聞きたいことがあるぞなもし!」

「な、なんでゲス、これ…」

「まあ、想像はついていたかもね」

「これは徹底してるな」

「ここ、なんの部屋なんですか?」


 一行が戻ってきたイトウの部室はもぬけの殻だった。

 原稿用紙の棚も、椅子もテーブルも、ポットも。全てなくなっている。

 あたかも最初から、ここが使われていない部屋かのように……。


 ぶぅッ!

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