不幸を取り除こうと思います。
レベルが4になったことでスキルポイントも増え、俺は新たにブリザードとボルトを取得した。まあ、使う気はないんだけどね?だって、火による火傷は治せそうだけど、凍りついたり、感電したりは流石に怖いじゃん?
そして、そこから俺とコーギーの魔法の練習が始まった。
まず初めに教わったのが魔力操作だ。これが本当に難しい。生徒の突拍子もない質問くらい難しいよ。
コーギーはすごく丁寧に教えてくれる。慎重に慎重に少しずつ魔力を出すのは針の糸を通すようなものだった。
本来はレベルとともに魔力が上がるため、ズボンに足を通すくらい簡単なものらしいが、俺の魔力は大きすぎるため、今現在の状況に至っている。
くそっ、こんなところで莫大な魔力が仇になるなんて…。
それからしばらくして、ある程度魔力操作ができるようになり、次はいよいよ魔法の練習なった。
正直、もう辞めたい。失敗すればあの痛みにまた襲われると思うと気乗りしなかった。そりゃ誰だって我が身が可愛いから、これに関しては仕方ないよね?ね?
コーギーの教えの元、俺は改めて魔法を放ってみた。
「そうそう、慎重に力を抜いて必要最低限の魔力だけを使ってね!」
横で常にその場にあった指導をしてくれるコーギー。本当にすごいや。
そして俺は初めて正規の形で初期魔法、フレイムを発動させた。
「やったー!できた!!!」
次の瞬間、魔力が暴発した。
「痛っだい!!!あづいあづい!ぎゃぁぁあああ!!!」
初めて初期魔法を発動させた瞬間、俺は気を弛めてしまい、またあの痛みを味わうことになった。あーー。本当に辛い。
俺はコーギーにヒールをかけてもらった。
異世界に来てから、失敗している方が多いな。…だがしかーし、コツは掴んだ。うん、人間為せば成るものだ、人間は失敗を経験に変え、それを力として成功させるもの。だから、俺も頑張ろと思う…。痛いのは嫌だけど、失敗しなきゃ大丈夫だよね…。
そこから数時間、俺はやっとの思いで初期魔法フレイムを使いこなせるようになった。
使用魔力はほぼゼロ。莫大な魔力は本当に役に立たないな…。
魔法の練習を終えた俺たちは街に戻ってきていた。
道中コーギーが躓いたり、水たまりにはまったり、挙句の果てには転がったりと色々なことが起こった。うん、これは絶対に何かある。明らかに何かの力によってそうさせられているように思えた。
でもなー、全然原因もわかんないからなー。
街に戻った俺たちは冒険者ギルドに来ていた。何でも倒した魔物の体の一部を渡すとクエストを受けていなくてもお金に換金してくれるそうだ。あー、だから後から来た2匹を俺が焼き払っちゃった時コーギーは悲しそうな顔をしていたのか。納得。
冒険者ギルドに来た俺たちは受付の前に居た。
「これ、チョートッキューの尻尾なんですが、換金できますか?」
「はい、大丈夫ですよ!1匹なので30ワンダですね。少々お待ちください。」
コーギーがチョートッキューの換金を終え、お金を受け取ったあと、俺はあることを尋ねてみた。
「すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど。魔物の中には人を不幸にさせることができるやつなんてのもいるんですかね?」
俺の質問にタイルは少し考え込み、近くにあった資料をめくり始めた。
そして、
「あっ!ありました!人を不幸にする悪魔。何でも取り憑いた人をありとあらゆる不幸に陥れるそうです。例えば、何もない所で躓いたり、大切なものを壊されたり、貧乏になったりと色々なことを巻き起こしているみたいです!」
はい、来ましたー。人を不幸にする悪魔かー。なんて迷惑極まりないやつだよ、そいつ。仕方ない。
「それって、どうやれば取り憑いた人から剥がせますか?」
「そうですね…。魔道具屋さんに行けばそういったものもあるかもしれません。」
俺はタイルに礼を言って、魔道具屋を探した。
タイルに道を聞いておいたおかげで大して迷うことも探すこともせずに見つけることができた。魔道具屋の看板には「ポカリ」と書かれていた。
ふむ。風邪のときはポカリ飲んで寝れば治るとまで言われていたドリンク。ポーションなんかを売っている魔道具屋にピッタリな名前だ…。って、んなわけあるかい!
俺たちは魔道具屋の中に入った。
「いらっしゃい!どういったご要件で?」
中には中年のおじさんがいた。おじさんは小太りで背もそんなに高くはない。服は綺麗なものを着ており、この店がそれなりに繁盛しているところだというのがわかった。
「人から悪魔を剥がすことができる道具を探しているんですけど、ありますか?」
そう言うと店主は少し難しそうな顔をして、
「あるにはあるんですがこれが中々高くてね?10エメマンになります。果たしてお客さんに払え」
「はい。10エメマンです。早く持ってきてください。」
俺は店主が言い終える前にお金を出した。異世界に来てまで嫌味を言われるのは正直、鬱陶しい。それに俺はこの店主とは多分合わない。それなら長話はいらない。早く要件を済ませて、とっととコーギーに着いていそうな悪魔を追い払いたい。
少し横に目をやるとコーギーは口をパクパクさせていた。エサに群がる鯉みたいだ、おもしろい。
少しして店主がようやく出てきた。そして俺にあるポーションを渡してくれた。
「常人には効果はありませんが、魔物に取り憑かれた人が飲むと取り憑いた魔物が嫌がって外に出てきます。後はなんとか討伐すれば二度とその取り憑かれた人に悪魔は取り憑かなくなります。」
その説明を受けたあと、俺は店主に感謝を告げ、再び街の外に出た。
街の外に出て俺が準備を始めるとコーギーがこんなことを言ってきた。
「どうして、そこまでしてくれるの?まだ会ったばかりなのに…。」
確かにその通りだ。柔軟な対応が苦手で、上から目線が玉に瑕。魔法を教えてもらっているとは言え、そこまでする義理はない。
けど、俺はこれでも元教師だ。自分の力でできそうな範囲のことならしてあげたいと思うのは、なんていうか性みたいなものだ。それに…。
「君は人が困っていたら助けるかい?それがもし赤の他人だとしたら?」
「助けを求められれば、できることはしようと思うけど…。」
ほら、やっぱりね。コーギーは教師だった俺と似ている。元騎士団の長だからではない。この子だから長になれたんだ。
「同じだよ、俺も。もし目の前に困っている人が居て、自分にできることがあればそれを全力でする。そこに理由なんてないよ。」
俺の言葉にコーギーは少し涙ぐむ。
しかし、この俺ができることは皆さんもご想像の通りだ。お金はあるから準備はしてやれる。だが、俺の力ではきっと悪魔は倒せない。だから、悪魔を出したあとはコーギーに自分で倒してもらう予定だ。
無責任だって?言ったでしょ?自分に“できること”を全力でするだけだって。俺に悪魔の退治なんて絶対無理だもん。
あとはなるようになーれ。
「コーギー、これを飲め。武器は持っておけよ?やはり俺とコーギーじゃ、コーギーの方が強いし、どの程度の相手かわからない以上無理をさせるかもしれない。」
「大丈夫、コーヘイは私が守るから。」
そんな心強い言葉を聞き、俺も戦闘態勢に入った。といっても初期魔法しか使えないから気を逸らす程度だろうけどね?
コーギーの言葉に俺は安心した。同時にコーギーも安心した様子であった。
コーギーがポーションを飲むと、全身が禍々しい魔力に包まれた。
「ウワァァアアアアッッッ!!!!!」
コーギーが叫び声をあげる。
しばらくして、魔力が収まったあと、コーギーの上空に漆黒の体に赤い目を持ち、羽を生やした悪魔がいた。
うわー、怖すぎない、こいつ。そこらへんの不良なんてこんなのみたらチビっちゃうよ?
そうだ、コーギーは?あいつなら倒せるだろ!
そう思い、コーギーに目をやるとぐったりと倒れていた。
コーギー?おい、コーギー!!コーギーさーん!?ちょっと待って、やばいって!ほんとにやばいから!こんなの相手にできないって!!!
俺が色々なことを考えていると悪魔は容赦なく攻撃を仕掛けようとしている。
「おい、俺はそんなに強くないぞ?それでもやるか!?」
俺の声に悪魔が答える。
「我を邪魔するものに容赦はしない。この娘は我が力を発揮するのにちょうど良い。我を宿したものは皆、すぐに壊れてしまうのだがな。」
「それで?目的はなんだよ?世界でも征服するのか?」
「フハハハハハ!!!世界征服?そんなものに興味はない。ただの暇つぶしだ。」
悪魔がそう答えた瞬間、俺の何かがきれた。
俺は魔力全開でスキルを放った。
「フレイム!!!」
「初期魔法とは、笑え…ないんだけど、これ!!!ぐぁぁああああ!!!!」
悪魔が初期魔法と侮り正面から受けた攻撃は俺の莫大な魔力を上乗せしたものであった。
痛っでぇぇええ!!!!!ちくしょう、手が…手がぁぁあああ…。なーんて、やってる場合じゃないけど、本当に痛い。
ものすっごい痛みに襲われたが、俺は何故か諦められなかった。
多分、この悪魔がコーギーに取り憑いた理由を聞いて腹が立ったんだろう。
もう、許さん。
それでは今からコーギーに憑いた不幸を取り除こうと思います。