俺に魔法は扱えないと思います。
俺は意気込んで水晶に手を翳した。
すると水晶はとんでもない光を発した。
その光景を見ていた者、全てが俺の魔力に息を呑んだ。
ところどころから
「すげぇ…。」
「なんて魔力量だ。」
なんて声が聞こえてきた。うむ、悪くない。てか、むしろニヤけるのを我慢するのが大変だ。
光を発した水晶からその下に受付のタイルさんが置いた冒険者カードに魔力が流れ込み、そこから俺の情報が浮き出る。
そしてその後、冒険者カードに浮かび上がった職業で好きなものを選択し、職に就くというシステムらしい。
さあ、これだけの魔力なんだ、なんだってなれるんじゃないか?ぐへへ、楽しみだなー。
俺はそう思いながら冒険者カードを手に取り、職業欄を見た。
ん?んーーー??俺は目を擦る。あっれれー?おかしいぞー?
そう、可笑しいのである。俺の冒険者カードに記された職業はなんと…4つだけであった。
1、冒険者
2、商人
3、農民
4、魔法使い見習い
嘘でしょ?あんだけ魔力すごいみたいな雰囲気だったのに辛うじてある魔法系統の職業が魔法使い見習いて。
またかよー、こんなんばっかじゃねぇかよぉー。
俺は納得がいかなかったため、受付のタイルに質問した。
「どうしてみんながザワつくほどの魔力があるのに、職業がこれだけなんですか?」
するとタイルは冒険者カードを見ながら申し訳なさそうに答えた。
「コーヘイさんは確かに魔力はとんでもない量を有しています。が、そのぉ…。」
おっと?これはきっと来るな。
答えづらそうにしていたタイルは意を決して伝えてくれた。
「コーヘイさんは、魔力以外がとても低いです。筋力、瞬発力、耐性などがその…最低レベルです。そして、スキルポイント入手料も他の方の半分以下でして…。」
はい、きたーーーーーー。あ、目薬をさしたわけじゃないよ?そんなことだろうと思ったってことだからね。
やっぱりね、もう予想通りすぎて何にも思わないわ。
選択肢は4つか。
まず商売をする必要がない俺だ、商人はないな。
次に農民、これもない。わざわざ自給自足しなくても、食べたいものは買えばいい。何せ俺には金がある。金にものを言わせて国を支配なんて貴族がやりそうなことに興味もないし、お金を持っていない人を蔑んだり、逆に情けをかけたりもする気はない。ん?コーギーは?だって?これはほら、あれじゃん?成り行きだよ、決して可愛いからとかじゃないからな!
残るは冒険者と魔法使い見習い…。この2つの選択肢で魔法が使いたい俺には冒険者は無しだな。
てことで、俺は仕方なく、魔法が使いたいという一心で職業を魔法使い見習いにした。
なんかタイルが嫌なことを説明していたが、まあ、気にしないことにしよう。
俺が職業を選択したことを横で見ていたコーギーは早速レベル上げをしようと提案してくれた。流石は元騎士団長、面倒見はそれなりに良い。
魔法を覚えるために、俺たちはレベルを上げるため、街の外まで行くことにした。
よくよく考えれば街の外には魔物がいる。
よくもまあ、あれだけ街を探すために歩き回った俺が魔物に出会わなかったものだ。ひょっとしたら神様が転送先を間違えたから、加護をくれたのか?いやいや、まさかねー?
俺は神様の声が聞こえるはずもないのだが、何故か狼狽えながら否定しているような声が聞こえた気がした。いや、まさかね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コーギーに連れられ、俺は街の外に来た。
ここからどうするのかわからないため、コーギーに聞いておこうと思う。
「あの、コーギーさん。これから何をすれば良いのですか?」
俺の問いかけにコーギーは
「今から魔物を見つけ、それを私が瀕死にする。その後コーヘイがトドメをさしレベルを上げるのだ。」
と答えてくれた。やけにフランクな話し方になっていたが気にしない。よし、そうと決まれば早速、そう思い行動しようとした俺の方をコーギーは何か言いたげに見てきた。なんだよ、何が言いたいんだよ…。
俺の視線に気づいたのか、コーギーは恥ずかしそうに切り出す。
「あの、コーヘイ。私たちはこれから共にレベル上げをするんだよな?だから、その…。私のことは呼び捨てでいいし、敬語も外してほしい…。」
恥ずかしそうに全てを言い終えたコーギー。
なんじゃこりゃぁぁあああ!!!!!可愛いすぎる。え?これ俺惚れちゃうよ?めっちゃ可愛いじゃん。なんだよなんだよ、性格悪いなんて言ったの誰だよ。こんな素敵な子によー。まあ、俺なんですがね?
俺は心の中で散々叫びまくり、平静を装いながら、
「それもそうだな。じゃあ、コーギー!改めてよろしくな!」
俺の言葉にコーギーはとても嬉しそうにしていた。やっぱりこの子可愛いわーー。
話を終えた俺たちはレベル上げを開始した。さあ、おいでなすった、俺の就職祝いの敵、なんとそれは…。
いやいやいやいや、これは無理でしょ。俺の目の前にはそれはもうたいそう大きな猪のような魔物がおったそうな。
「なあ、コーギー?これって俺倒せないよな?逃げるか?」
俺は一刻も早くその場を去りたい一心であった。
だって、怖いじゃん?目の前に俺の体より大きい猪が居るんだよ?無理無理、勝てない勝てない。
そんな俺を他所に、コーギーはボロボロの布切れ1枚のときから大切に携えていた剣を抜き、戦闘態勢に入る。
コーギー?コーギーさーん?これ、無理だってばー。
「心配するな、コーヘイ。あれは一撃は重いが真っ直ぐにしか進めないチョートッキューだ。私が瀕死にさせるから、待っていろ。」
そう言うとコーギーはスキルを発動させた。
チョートッキューはお構い無しに突撃してくる。
ブフォァァァアアアア!!!!
「行くぞ、我が一撃を受けてみよ。エクスカリバー!!!!!」
コーギーが発動したスキル。それは剣に光を収集し、解き放つものであった。
すごいかっこいい。俺も早く魔法が使いたい。そう思わせるほどであった。
コーギーのスキルは突撃してくるチョートッキューの頭からお尻までを貫いた。
コーギーの一撃を受けたチョートッキューは辛うじて生きていた。が、俺が恐る恐る拳で殴るとチョートッキューは息を引き取った。南無三。
チョートッキューを倒した直後、俺の体は光に包まれた。なにこれ、怖い。
数秒もすると光は俺の中に取り込まれていった。
光が収まったあと、コーギーに促され俺は冒険者カードを見た。するとレベルが2に上がっていた。これは嬉しい。でも、完全に寄生していただけだ。スキルポイントも手に入れた。1ポイントだけだけど。
それと同時に思ったことがある。コーギーは無茶苦茶強い。それはもう圧倒的に。今見せた力も俺のために魔物を瀕死にしようとしたため、力を抜いていたのだ。本気でやれば今くらいの魔物は跡形も残らないのであろう。
これは心強い。いや、強すぎる。
こいつ、本当に何でもできるのな。ありがたやありがたや。
俺はコーギーに感謝し、スキルポイントを使ってスキルを入手しようとした。
入手可能なスキルは
1、フレイム
2、アクオス
3、ウィンド
4、アース
5、ブリザード
6、ボルト
7、ミラー
この7種類だ。うーん…悩むな。とてつもなく悩む。だって、どれも使ってみたいもの。火も水も風も土も、氷や雷だって。あ、ミラーはちょっといいかな。うん、いいかなって。
うーん…ここはやっぱり火かな〜。
水にしろ風にしろ所詮は初期魔法。それならばやはり最初は使い勝手の良い火の魔法だろう。
と、いうわけで俺はスキルポイントを使ってフレイムを取得した。
魔法取得。うん、これはすごく嬉しい。
さて、早速魔法の練習を…。
しようと思ったらこれですわ。
大きな轟音と共にチョートッキューが2匹現れた。先ほど仲間をコーギーにやられた仕返しだろうか、鼻息を荒くしながら突撃してきた。
ああ、これはダメだな。さっきは1匹でコーギーがなんとかしてくれたけど、2匹だもんなー。俺がそんなことを考えているとコーギーが既に攻撃の準備をしていた。そして次の瞬間、スキルを放つ。
「インフェルノーーーーー!!!!!」
コーギーの剣に今度は青い炎が纏わり、前方に振ると共に炎が斬撃のように飛び出した。
炎の斬撃はチョートッキュー2匹を焼き尽くす。そしてコーギーの
「今だ!スキルを!」
の掛け声で俺は練習もしていないスキルを発動させた。
何をどうやればいいんだよ!誰か教えてくれ!ええい、そんなこと考えてる暇はない。行くぜ?俺、やっちゃうぜ?喰らいやがれ!俺の初期魔法ぅぅうう!!!
「フレイム!!!」
俺は手を前に出し、取得したばかりの初期魔法を放った。
え?これ、初期魔法?コーギーが手を抜いて放ったインフェルノと同じくらいの威力なんですけど?え?え?これはもしや、莫大な魔力のおかげか?
俺が放った初期魔法フレイムはコーギーのスキルに上乗せするかのように赤い炎を放ち、チョートッキューを跡形もなく焼き尽くした。
「痛っだい!!!何この痛み。やばい、腕がもげる。」
「どうしたの、コーヘイ!?」
光に包まれながら倒れた俺は腕を抑えていた。腕を抑えたまま倒れ、のたうちまわっている俺にコーギーが駆け寄ってくれた。
「なんでこんなに火傷しているの?待ってね、今回復魔法をかけるから!ヒール!」
コーギーにヒールをかけてもらったことで俺は痛みから解放された。それと同時に火傷というフレーズが引っかかった。
あー、これはあれだね。魔力が凄いぶん、威力は初期魔法なのにかなりあるけど、制御できない分自分にもかなりダメージがあるって言うやつだね。諸刃の剣、言葉はかっこいいけど使えないってことだしなー。
本当にもう、何なんだよ。
はあ。この痛みが伴うなら、もう俺に魔法は扱えないと思います。