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運命的な出会いはないと思います。

宿屋に入ると、そこには大柄な男が受付をしていた。

「おう、あんちゃん。宿泊かい?うちは他より結構値が張るぜ?」

大柄の男はそんなことを言ってきた。が、俺には関係ないね。たとえ1泊1垓エメマンするとしても俺は100泊できるのだ。さあ、いくらだよ?言ってみろよ?お?お?

とそんなことを心の中で言っていると大柄の男は値段を伝えてきた。

「うちは1泊1エメマンだ!それで食事付き、風呂ありだ。どうだい?やめとくかい?」

大柄の男は自信満々に言ってきた。そう言われると少し対抗したくなる。それが人間の性だ。うん、仕方ない。

俺は受付のテーブルに7エメマンを置いた。

「これで1週間頼む。」

そう言うと大柄の男はさっきまでの態度とは一変し、すごくへいこらしてきた。呼び方もあんちゃんからお客様に変わっていた。いや、普通に呼べよ。元はと言えば俺が対抗したくてなったんだけどね?それでも見た目とは全然違うその様子に少しだけガッカリした。

なんか、異世界って言っても地球と変わらないんだな。そう思うほかなかった。


宿泊すると決まってから、俺は大柄の男に名前を聞いておいた。名前はデスクと言うらしい。

…机だよな、これは。もう驚きませんとも。

デスクに2階に案内され、俺は宿屋の1番良い部屋でくつろいでいた。

ふかふかのベッドにゴロンと寝転がると目を閉じれば眠りに落ちそうであった。

気づけば朝だった。はい、無事に寝てしまいましたっと。

清々しい朝だな。疲れもなくなり、気分よく起き上がった俺は…とりあえず風呂に入ろうと下に降りた。


1階でデスクに風呂の場所を聞こうとしたのだが、やけに騒がしかった。なんだ?

「お願いします。なんでもしますから、1泊だけ泊めてください!」

そこには困り果てるデスクと頭を下げている1人の女性がいた。女性は薄紫色の綺麗な肩くらいの髪で、身長はだいたい160cmくらいだろう。すらっと伸びた手足におそらく引き締まっているであろう体。服装は布切れと言っても過言ではないほどボロボロのものを着用していた。そして、左目が髪の毛に覆われている。うん、ここからじゃ顔が見えん。



んー。俺は少し考える。今ここであの人を助けるか、それともこのまま見なかったことにするか。

答えはもちろん後者だ。俺は日本に居るとき無難な人生を送るため、こういった面倒ごとは極力避けてきた。もちろん、助けたい気持ちはあるよ?そりゃね?でも、これで助けて変なことに巻き込まれるくらいなら極力避ける方がいい。もちろん、日本で教員をしていたときはいじめ問題やモンスターペアレントなんていう面倒ごとが多々あり、流石にそれを避けるわけにもいかないため、そこはしっかりと対応してきた。が、金を持っているとわかると明らかに態度が急変するデスクと見知らぬ女性が押し問答しているこの状況において、果たして助ける義理があるのだろうか?

否!これはないな。うん、ないない。さて、変なことになる前に俺は部屋に戻ってベッドに寝転がろう。また寝ちゃうかもな。


なんて考えていたその時だった。

「お客様、おはようございやす。昨日はしっかり寝れましたかい?」

デスクが俺に話しかけてきた。

あの野郎、中々に強かじゃねぇか。また俺から毟る気か?金には困っていないが、やはりこの男は腹が立つ。

「おはようございます。お陰様で。でも、他のお客様の対応中ですよね?私のことはいいのでその人の相手をしてあげてください。」


俺はどうにかその場をやり過ごそうとする。

まあ、無理な話だったんだけどね?もう、目の前まで目をキラキラさせた女性が迫ってきていますもの。

「あの、お願いです。床でも何でも良いので私も一緒に泊めてください。」

女性はそう言うと頭を下げたままだった。

…はぁ。

俺は思わずため息をはく。

いやね?これがもし、俺が自力で稼いだお金であったならばですよ?そりゃ断ってましたとも。

でも、これは神様から与えられた祝福でしかも引くほどのお金がある。そして目の前には美少女…断る理由?あるわけないよねーー。


というわけで、俺はニヤニヤとこちらを見てくるデスクに俺と1週間分の代金として、7エメマンを支払った。


女性は俺に頭を下げたまま

「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」

そう繰り返すばかりだったため、頭を上げてもらい、お礼として名前を聞いた。

「お礼はいいですよ。あ、でもこれも何かの縁なのでせっかくでしたら名前を教えていただけませんか?」

「名前ですか?でも、名前を名乗るならまず自分からですよね?」


おっと予想外。この女性もといこの女、いや、確かにそうなんだよ?礼儀としてはそうかもしれないんだけどさ?

言うなれば俺は恩人なわけでありまして?そこは素直にスっと名前くらい言えよ。

まあこんなことで怒っても仕方ない。俺は少し息を吐き、笑顔で名前を名乗った。


「これは失礼しました。俺…私の名前は児島公平と申します。以後、よろしくお願いしますね。」


俺がそう名乗ると女性は

「変な名前なのですね?」

とまたしてもとんでもないことを言ってきた。うん、これはあれだ。デスクにお金は渡したが俺が2部屋使ってしまっても良いかもしれない。

どうせ、この女性もこれまでの傾向からしてそういうパターンの名前なんだろ?ほら、名乗れよ!自分の名前に自信があるなら名乗ってみろよこんちくしょう!


俺の心の声は当然届いているはずもなかった。まあ、当たり前か。

そんな俺の心の中とは裏腹に女性は堂々と名前や名乗った。

「私の名前はコーギー。この街の元騎士団団長だ!」


おお、異世界っぽい名前だ!

異世界っぽい……ん?コーギー?いや、犬じゃねぇか!!!

あー、ダメだ。やっぱりそう来たか。少しでも異世界っぽい名前だと思ってしまった自分が情けない。


どうせこの世界はこの先もこんなのばかりだろう。


そしてもう1つ引っかかる。元騎士団長なのになぜこんな布切れ1枚なのだろう。

いや、質問すれば絶対に上から目線で答えられる。そして不快な思いをしてしまうのならあえて聞かないでおこう。

だってね?誰だって嫌でしょ?上から目線であれこれ言われちゃうのは。俺もその一般の人達と同じだよ?だから聞かない。


俺は女性もといコーギーの名前を聞いて、そうですか。と当たり障りのない答えを返すだけにした。


するとコーギーはそれはもうものすごく聞いてほしそうにこちらを見てきた。

あれだな、この人はコミュニケーション能力が少し乏しい人だな。

まあ、でも正直に言おう。顔はめっちゃ可愛いんだよなーー。

俺は仕方なく、どうして今の状態になってしまったのかを聞くことにした。


俺の異世界生活には運命的な出会いはないのだとそのとき思った。


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