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ゆっくりするのは良いことだと思います。


うん、なんて言うか不安だ。

え?何が不安かって?そりゃ、マルファスが最後に言った言葉だよ。余生を楽しめとか、怖すぎだろ。あー、考えたくもない。

まあ、でも、倒しちゃったものは仕方ない。それよりも今は騎士団の人達や国王様を回復させなければやばそうだ。


「トキ、回復魔法を俺に撃ってくれ!ミラーで騎士団は何とかするよ!だから、お前は国王を何とかしてくれ!」

「わかりました!ちょっと強めの回復魔法にしますね!リバーブ!」


俺はトキのリバーブをミラーで反射させ、特大の回復魔法を保持したまま、騎士団の傷を負っていない連中に呼びかけた。

「今から全員回復させるから、元気なやつは傷ついたやつを1箇所に集めてくれ!」


俺の指示に従い、騎士団は傷ついた仲間を1箇所に集めていく。

1箇所に集まった騎士団に俺はミラーで反射させたトキの回復魔法を撃ってやる。


しばらくすると、騎士団は次々に癒え、俺に礼を言ってくるのだが、トキのおかげだと話しておいた。


当のトキもペプシを無事回復させたみたいだ。よかった。


ペプシが無事回復したことで、騎士団達も最初の形態に戻った。


「改めて、礼を言う。まさか魔王軍幹部が入り込んでいようとは。」


「いえいえ、別にそれは構いません。たまたま居合わせただけですし。それより国王様、何かトキに言うことはありませんか?」


「その少女がどうしたのだ?」


「この子は、キャルピスの三鳥教教会に住んでいた子です。それを貴方は取り憑かれていたとは言え、破壊した。そのことについて、謝るのが当然じゃないんでしょうか?」


俺はこれだけは言っておきたかった。たとえ、これで魔王軍幹部を倒したことが無かったことになったとしても、ここだけは譲れなかった。


だけど、そうそう上手く纏まるはずもなく。


「ふむ。たが、たかが平民一人の命程度、無くなろうとも知ったことではない。もし、下敷きになっていたとしてもだ。」


ペプシの言葉を聞いた俺はもうどう表現すればいいのかわからない感情になった。


「たかが平民の命って言ったか?今。」


俺は徐ろにペプシの方へと歩を進める。もう国王とかそんなのどうでもいい。ただ、怒りだけが込み上げてきた。

俺が立ち上がり、ペプシの方へと歩き出してもなお、気にもせずペプシは言葉を続ける。


「我の命とその少女の命では価値が違うからな。」


その言葉を聞いた俺はペプシに向かって全速力で走り、殴り飛ばした。

俺に殴られたペプシは激昴した。そして俺を睨みながらメッツに命令を下す。

「貴様、我に向かって何をする。魔王軍幹部を倒したからといって調子に乗りおって。メッツ!今すぐこの者の首を切り落とせ!」


「できません。」

俺やトキ、それにペプシはメッツの言葉に驚いた。

「今、なんと申した!?」

「私には…私たち騎士にはこの者を処刑することはできません!」

「何故だ!?」

「我々の命も、国王様、貴方の命も、救ったのはこの者たちです。恩こそあれど、その者を処することなど、私たちにはできかねます。」

メッツは歯を食いしばり、自らの命が危険に晒されていることも理解したうえで、俺たちを庇ってくれたのだ。

やっぱりかっこいいな、この人。もうこの人が国王でいいじゃん、絶対。


あと、こいつだ。本当に絵に書いたような野郎だな。漫画か何かかよ。ったく。


「おい、ペプシ。お前の命を救ったのは誰だ?お前が平民と呼んだ、お前が住む場所を破壊したトキだ。」


「王の命を救うのは当たり前のことだ。それは名誉とも言える。貴様らの命は我のためにあり、その命は我のおかげであるのだ!」

「ふざけるな!!!お前の命も、お前を守るために戦った騎士の命も、俺たちの命も、今日年老いて亡くなった命も、産声をあげて生まれた赤ん坊の命も、みんな等しく尊ぶべき命なんだよ!お前のためにある命なんてのはな、お前自身の命以外1つもないんだよ!」


俺の言葉に国王は明らかに怒りを滲ませながら、騎士団の1人から剣を奪い取った。そしてその剣先を俺に向けてくる。


お?やんのか?既に魔王軍幹部を2人も葬ってる俺に剣だけで立ち向かうつもりか?


だが、俺は人を殺したりはしない。夢に出てきそうだし、そもそもそんなことできるほどの覚悟もない。

けど、こいつだけはちょっと懲らしめてやらないといけない。

俺は右の拳を握りしめ、思いっきり振りかぶる。


はい、皆さんもうお気づきですよね?俺がこの動作をしたらアレしかないよね?


ペプシは俺の動作など気にもせず斬り掛かる。が、その剣をメッツが受け止めてくれた。

メッツさん、本当に感謝しますわ。

それでは、皆さんのご期待に応えて…。


「メッツさん、目後ろ向いててくださいねー?フラッシュ!!!」


俺は目の前が真っ白になった。


あ、瀕死したりはしてないからね?大丈夫だよ?





あの後、俺の渾身の目潰しを喰らった国王ペプシはメッツや騎士団により投獄されてしまった。

庶民がどうなろうと知ったことじゃないというペプシの考えは騎士団や良識のある貴族の中では疎まれていたのだ。



~翌日~


帰りの馬車の中、俺はトキに問いかけた。


「でも、あの申し出を断ってよかったのか?」

「はい!」


俺たちがコーランを出る直前、メッツがトキに感謝と謝罪の意を込めて、教会を建て直したいと申し出てくれた。

しかし、トキはその申し出を断ったのだ。

なんでかはわからないんだけどね?建ててもらえばいいのに。


「確かに、教会がまた建つのは嬉しいことですが、信仰は個人個人の気持ち次第です。それに、今の(わたくし)には帰りたいと思える場所もありますから。」


俺はトキの裏表のない言葉を聞き、嬉しさが込み上げてきた。



なんというか、この可愛らしい顔でこんなこと言うのは反則だろ。


コーギーにしろ、ミケにしろ、本当になんなんだ?俺が良識無かったらところ構わずアタックするところだぞ。

まあ、そんなことをしてこの居心地の良い家庭を崩すわけにはいかないから、しないんだけどね?

しないよ?するわけないじゃん。



トキは少し照れくさそうにしながら俺の方をチラッと見ては目を逸らしていた。


…可愛い。


俺たちはその後ほとんど話すことなくキャルピスへと帰った。




「ただいまー!」

「ただいま帰りました!」


俺たちが玄関の戸を開けてただいまと言うと、ドタバタと家の中からコーギーとミケが走ってきた。


「おかえりなさいっス!」

「おかえり!」


俺たちは無事に家に帰ってきた。

いやー、今回の旅は疲れたな。

とりあえず、お風呂に入りたい。


「お風呂って沸いてる?俺もうくたくただから入って寝たいんだけど。」

「ああ、沸いているぞ!」

コーギーは流石と言わんばかりに、その辺を用意してくれており、俺はお礼を言って風呂に向かおうとしたら…


「コーヘイ!よかったら、私が背中を流してあげましょうか?」


トキがとんでもないことを申し出てきた。

え?いいの?お願いしちゃうよ?


「トキ!貴様、まさかそういう関係になったのか!?」

「ぬ、ぬ、ぬ、抜け駆けは許さないっスよ!?」


え?待って?コイツら、俺は鈍感じゃないぞ?そんなこと言われたら意識しちゃうよ?


あと、何か俺が学生の頃に流行ったツイッターで芸能人が結婚したときの女子のコメントみたいになってしまった。

何を待てと言うのか全然わからないけど、咄嗟に出るもんなんだな。


とりあえず、コーギー、ミケ、トキの誰が俺の背中を流してくれるんだ?

誰でも大歓迎だぞ?


そのまま、コーギー、ミケ、トキはワーワーギャーギャーやっていたので、30分くらい待ってから諦めて1人で入ることにした。


30分はまってんじゃねぇか!だって?そりゃ待つでしょ。その結果、今は1人で入ろうとしてるんだから、許せよ。


まあ、でもあれだ。やっぱりゆっくりするのは良いことだと思います。

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