大事になったと思います。
王都までは馬車が出ており、4日ほどかけて移動する。俺は森林を歩きはしたが、こうやって景色を眺めるのが初めてだったため、ずっと窓の外を眺めていた。
トキは俺が楽しんでいるのを邪魔しないよう、特に話しかけるでもなく、時折解説なんかをしてくれていた。
「あの大きな岩があるところ、あそこがレベル上げに最適な洞窟です。最下層の方まで行けば強い敵もたくさん居るので、たまに王都の方からも冒険者の方が来ますよ。」
「へぇー。俺はあんまりレベル上げとかしないけど、やっぱり救済措置的なものもあるんだな。」
「はい。他にも色々とこの辺にはありますよ!あれがーー。」
知らないことを知るということは案外楽しい。それにトキの説明は丁寧でわかりやすい。必要以上のことを話さないからかな?
とにかく、トキと一緒に来たのは正解だったかもしれない。
そんなこんなで王都までは何の支障もなく、スムーズに向かえた。
旅にトラブルは付き物だが、ないならないに越したことはない。
…「ない」が多くなってしまった。え?知るかよ、だって?俺も知らないよ。
ー4日後ー
「これは…すごいな。正直、思っていたより全然すごい。」
「当然です。ここは王都なんですから。キャルピスと比べると比較になりませんよ。」
コーラン王国、うん、まあ、あの有名な飲み物ですわ。ちょっと捻っているところがなんか、うん。
街並みは基本的に建物だらけで、中心に城があり、そこから東西南北にわかれている。
東区、商業に力を入れている区画。
西区、産業区画。
北区、食品生産区画。
南区、王都の入口があり、観光名所の区画。
各区画がキャルピス並に大きく、キャルピスよりも繁栄している。
めちゃくちゃ観光したいところではあるが、ここに来たのは国王様とやらに賞与してもらうためだ。
先に国王のところへ行って、帰り際に皆にお土産でも買って帰るとしよう。
そして、俺たちは城を目指した。途中買い食いしたのは言うまでもない。
だって、美味しそうなものが並んでるんだし?俺、お金あるし?そりゃ買うよね。
ー王城にてー
でかいな、この城。
コーランの城は予想よりも遥かに大きかった。
城の前でそんなことを思っていると門番の騎士から声をかけられた。
「こんなところで何をしている?部外者が勝手に来ていい場所ではないぞ?」
「あ、俺…コホン。私は国王様より通達を頂き、ここに参上した次第であります。」
俺は咄嗟に敬語を使い、騎士に事情を説明した。
うん、我ながら咄嗟にしてはしっかりとした言葉を使えたかもしれない。良かった。
俺の言葉を聞いた騎士は確認のため、資料を手にしながら名前を尋ねてきた。
「すまないが、名を教えてもらえるか?」
「コーヘイと言います。」
「うむ。確認が取れた。今、案内の者を寄越す。しばらく待っていてくれ。」
以外とスムーズに確認もでき、俺はホッと一安心した。
隣でトキが俺を見て口を鯉のようにパクパクさせているのが面白かった。なんでだ?俺があまりにも普段と違って敬語をきちんと使ったからか?そうだとすれば後でデコピンでもしてやろう。
しばらくして、案内役の騎士が来てくれて、俺たちを招き入れてくれた。
城内を歩いているとトキが俺にひそひそと話しかけてくる。
「いいですか、コーヘイ。さっきはきちんとしていたみたいですが言葉遣いには注意してくださいね。それと、コーギーの言ったことをちゃんと守ってくださいね?」
トキに念押しされつつ、俺たちは国王騎士団に連れられ、王の間へと進んでいた。
街を出る前、留守番を任せたコーギーが俺とトキに王の前での立ち居振る舞いを力説してくれた。
「いいか、コーヘイ、トキ。王の前では王が許すまで左膝をつき、右膝の上に右手を乗せ、左手は後ろに回して頭を垂れることを忘れるな。王の許しがあっても、頭をあげる以外はそのままの体勢でいるんだぞ。」
「へいへい、わかりましたー。」
「コーヘイ、本当にわかってるっスか?」
「なんだかものすごく心配です。」
「コーヘイのことだ。なんとかなるだろう。…多分。」
あ、こいつら完全に信用してないな。初対面の時の俺の反応を忘れたのか。
とまあ、コーギーにしっかりと教えてもらったので、特段気にもしていなかった。トキの一言を聞くまでは…。
「なんでも、王の前で無礼を働いたとして賞与が与えられるはずだった人が斬り捨てられたこともあるようですし、油断はしないでくださいね!」
おやおや、これは雲行きが怪しくなってきましたね。なんかあるとは思ったけど、そんなこともするんだな。この世界には法律がないのか?
あ、ひょっとしてあれか?俺が法律だ!的なやつか?あー、やだやだ。
俺はそんなことを考えながら王の間へと入室した。
両脇にかなりの数の騎士たちが並び、レッドカーペットの奥の玉座に王が座っていた。
「よくぞ参った。我が名はコーラン王国国王ペプシである。此度の働き、感謝する。」
「ありがとうございます、国王様。」
俺はしっかりとコーギーの言いつけを守り、きちんとした態度で答えた。
でもね?内心吹き出しそうだったよ。だって、ペプシって。コーラの王様がペプシって、捻りが無さすぎて。いやー、危なかったわー。これまでに色んな名前を聞いて来たことが功を奏したな。
「其方らには賞与せねばならんな。何が欲しい?富か?名声か?さあ、何なりと申してみよ。」
んー、正直に言う。何にもいらない。だって、俺の方が絶対金持ちだし?
それに俺はのんびりと暮らしたいだけなのに名声って。お門違いもいいところですわ。
かといって、必要ないので早く帰らせてください。なーんて言っちゃえばその時点で首を跳ね飛ばされそうだし。悩むなー。正直、この世界に来て1番悩む質問をされているかもしれない。
…質問か。何なりと申せってことは、質問でもいいってことだよね?
「では、失礼ながら国王様、私の質問に答えていただきとうございます。」
「王への質問だと!?無礼な!」
ペプシの横に居たいかにも騎士団トップであろう男が俺に向けて言葉を吐き捨てる。
「よさぬか、メッツよ。我が何なりと申してみよと言ったのだ。」
そう国王が指示してくれたおかげで俺の首が飛ぶことはなかった。
王様への質問って、無礼な行為なんだな、やっぱり。
てか、それよりも、だ。メッツて。
ペプシコーラの横にメッツコーラって。狙いすぎだろ、これは。
俺は自分の背中を抓り、なんとか吹き出さずに済ませた。
そして、ペプシの許しがあったので、質問してみた。
「では、失礼ながら国王、貴方はどうしてこれまで尊んできた三鳥教の教会を破壊しているのですか?そもそも、なぜ光矢教に信仰を変更されたのですか?」
「ちょ、ちょっとコーヘイ。そんなことを聞いてどうするんでーー。」
「なぜ、貴様がそれを気にするのだ?」
確かにそうだ。正直、俺には関係ない話ではある。かといってやっぱり一緒に暮らしているトキのあの悲しそうな笑顔は忘れられない。なら、直接聞けるときに聞いておこう。それくらいの感じだったのだが…めっちゃ怒ってるね、これ。
よし、ここはアレしかない。
「はい。先日、街を歩いていた際、たまたま派手に破壊された教会を見かけました。それで、疑問を抱いたのです。」
そう、これはアレだ。いや、自分は全然興味なかったんだけど、たまたま見かけたからつい聞いてしまったんですよー。という、自分は興味ない作戦である。
誰しも1度は使ったことあるでしょ?
あるよね?
「よかろう。答えてやる。」
国王様の口調が変わってるけど、まあ、大丈夫だよね。答えてくれるって言ってるし。
「ありがとうございます。」
「我は元来、癒しの女神を信仰しておった。しかし、ある時分、この国がその癒しの女神を信仰している者に襲撃されてしまったのだ。それからだ、我の中に怒りと憎しみが生まれ、癒すだけでは国を守れないと判断したのだ。そして、我が国を襲撃した忌々しい三鳥教を破壊しようと考えたのだ。」
癒しの女神を信仰している三鳥教が襲撃?これは絶対におかしい。
「あの時の三鳥教の信者共は何かに取り憑かれたような狂気じみた感じではあったが、その者共の襲撃から国を守った際、我にも幾分かの天啓が聞こえた。三鳥教を潰せ、とな。」
何かに取り憑かれたような…。ん?これどっかで聞いたことがあるような…。
俺はそう考えながら、立ち上がりあるものを取り出した。
「なるほど。そういう事だったのですね。」
「ちょっと、コーヘイ。国王の前で頭をあげるどころか、立ち上がるなんて無礼ですよ!」
俺はトキの静止も聞かず、取り出した瓶の蓋を開け、そして…。
「ぬわぁあ!!!ぺっ、ぺっ。貴様、何をする!!!」
「何をやっているんですか、コーヘイ!!!」
そう、俺は瓶の中身をペプシにぶっかけたのだ。
騎士団は俺の行動に呆気を取られていたが、すぐに正気に戻り、俺を捕らえた。
「貴様!王への暴行だぞ。この場で打ち首にしてくれ…。」
ペプシの側近であるメッツが全てを言い終える前に、異変は起こった。
たまたま瓶の中身が口に入り、唾液と混じったことで体内に入ってくれたのだろう。
ペプシは叫び声を上げており、邪悪な魔力を出してもがき苦しんでいた。
「なんという、邪悪な魔力だ。」
俺に激昴していたメッツも、俺を捕らえていた騎士団も、俺とともに捕らえられていたトキも、その邪悪な魔力に息を飲んだ。
「貴様がこの俺にダメージを与えた愚か者か。俺を誰だと思っていやがる。」
邪悪なオーラと共にそれはもうたいへん大きな悪魔さんが出てきたそうな…。
あれー?ちょっと待ってー?いや、何となく予感がしてコーギーを助けたときにポカリで買った予備のポーションを飲ませたんだけどさ、こんなのが出てくるなんて聞いてないんですけど。
これはこれは、かなりの大事になったと思います。