何も無ければ良いと思います。
それにしても、守護の女神を信仰しているのなら、なぜトキが信仰する三鳥教の教会が潰れたのか少し疑問に思う。
「なあ、この国は守護の女神を信仰するんだろ?だったら、別に三鳥教の教会が潰したりする必要はないんじゃないか?」
「それなんですが、最近少し怪しい雰囲気になりつつありまして。国王が新たに光矢教を信仰しだしたという噂がありまして。」
おっと、俺はまたとんでもない地雷を踏んでしまったかもしれない。いや、待て。まだ焦る時間じゃない。
「宗派が変わったら何かまずいのか?」
「宗派が変わることじたいに問題はない。だが、変わったのが光矢教だからちょっと問題なのだ。」
コーギーの言葉に付け足すようにトキが詳しく説明してくれる。
「はい。光矢教は他の宗派を嫌っており、弾圧し征服しようとします。全員が全員というわけではないのですが、一部の熱狂的信者はそれを信じ、他宗教の者を弾圧するのです。」
おいおい、物騒すぎやしないか?サイダーは甘くてシュワシュワと炭酸がよく効いている美味しい飲み物だそ?
それがこの世界の人間ときたら、崇めたうえにそんな勝手な信仰しやがって。
バランスを取るのはどの世界も等しく難しいもんなんだな。
…ん?国王が信仰してトキの住む場所を壊したんだよな。これ、絶対トキを連れて行けないじゃん。
正直、元騎士団のコーギーや、奴隷一族なんて呼ばれていたミケを連れて行くのはあまり気が進まない。となれば、トキと2人で、と思っていたが、俺1人で行くしかないのか。
王都までは結構な道のり、1人で行くのは中々辛い。
道中暇だし、着いてからも言葉遣いとかわからないし。めんどくせぇー!!!
あー、もう行かなくてもいいかな。うん、いいよね。
「おい、コーヘイ。お前今、国王のところに行かないことを決めなかったか?」
「…え、えーっと、なんのことでございましょうか?」
「なんとなくだが、今そんな気がした。」
「偶然っスね!私もそんな気がしたっス!」
お前らはエスパーか!
まあ、案内が届くまでもうしばらくあるだろうし、その時考えればいいや。
こうして、俺たち4人の生活がはじまった。
ちなみに、一人増えたから当番も変わった。
買い出し当番はこんな感じだ。
1、コーヘイ、コーギー
2、ミケ、トキ
3、コーヘイ、ミケ
4、コーギー、トキ
5、コーギー、ミケ
6、コーヘイ、トキ
洗濯、掃除当番は
1、コーヘイ
2、コーギー
3、ミケ
4、コーヘイ
5、トキ
6、ミケ
と、料理をしてくれる2人より俺とミケがやる回数を増やした。
ー1ヶ月後ー
結局、国王からの通達が来ないまま、俺たちはのんびりと暮らしていた。ある程度魔法の練習もしたため、少しくらいなら多めに魔力を注いでも痛みを感じないようにはなっていた。練習ってすごいな。
一通り、毎日の日課を終わらせた俺は家の中に入り、居間で寛いでいたのだが、あることを思い出した。
そう言えば、俺、魔王軍幹部を倒したときレベル上がったのかな?
あのときはマタタビに対する怒りが酷かったから、気にもしていなかったけど、流石に上がってるよな?
ひょっとしたら5くらい一気に上がってるかも。
俺は期待を込めて、冒険者カードを確認した。
んーと…。これは俺の目がおかしいのかな?
いや、上がってるには上がってるんだよ?でも、あれだけ死にかけて1レベルしか上がってないのはどうなの?確かに、コーギーやミケの方が頑張ってはいたよ?そこは認めよう。
けど、これはあんまりだ。
スキルポイントも貯金が3しかない。
とことん俺に厳しい世界だな、ここは。
ひょっとしてあれか?この世界の色んなことにツッコミまくっているせいか?
だとしたら、俺よりこの世界の方が悪くね?
しかも新しく開放されたスキルもなんか、うん。微妙だ。
フレイムボール、アイスボール、サンダーボール。ここまではわかる。俺が取得した炎、氷、雷の中級魔法だろう。いや、そうであってほしい。切実に。
でも、これはなんだ?
カーテンて。ミラーはすごいって言われてたけど、これは流石にないよね。え、ないよね?まさか、これも使えるスキルだったりする感じか?
「なあ、みんなカーテンてスキルは使えるのか?」
お茶を持ってきてくれていたコーギーがそう答える。
「カーテン?そんなスキルは聞いたことがないな。」
コーギーに続き、座っていたミケとトキも答えてくれた。
「私も聞いたことがないっスね。」
「そんなスキルがあるのですか?」
おいおい、誰も聞いたことがないスキルってなんだ?ミケも聞いたことがないとか、これは絶対に怪しい。俺にだけしか使えない最強スキル!なんてことはこれまでからしてきっとない。と、なればだ。今度こそは取得しないでおこう。うん、絶対に。
俺はそう決意し、中級魔法であろう、フレイムボールを取得しようとした。
「ヘクチッ!」
ミケがくしゃみをした。そして、近くにいたコーギーにあたり、コーギーはよろけて俺にぶつかった。
ぶつかった衝撃でお茶は零れてしまった。
「すまん、コーヘイ。大丈夫か?」
「問題ないよ。それより、コーギーこそ大丈夫か?火傷とかしてないか?」
「問題ない。」
「ごめんなさいっス。」
ミケが落ち込みながら、俺たちに謝罪をしてくるが、生理現象なので仕方ない。
「ミケも気にしなくていいよ。」
俺はミケを宥めてやる。
その間にトキがせっせと濡れた机などを拭いてくれていた。この子、できるなー。
俺はトキに関心しつつも、感謝し、もう一度冒険者カードを見た。
はい、皆さんの予想通りですわ。
えーっと、これはどういうことなんだろうか。
俺は理解するのに数秒かかってしまっていた。
そしてもう一度目を擦り、冒険者カードを見る。
はい、やっぱりありましたねー。
俺の冒険者カードのスキル欄に、しっかりとカーテンという文字が浮かび上がっている。
コントか!まさかそんなベタな展開あっていいのか!
もうやだよ、本当についてない。
でも、こればかりは誰かを責めたりできない。
俺は諦めて、スキルを使用しないことを決心した。
あ、1回くらいは試し打ちはするよ?ちょっと気になるし。
ーそれから1週間後ー
ついに来てしまった。国王からの通達。正直全く気乗りしない。王都までは時間がかかるし、1人で行くのは嫌だし。どうしたものか。
俺が悩んでいると、トキが切り出した。
「私も一緒に行きましょうか?」
「いやー、でもお前がいた教会を壊したんだぞ?俺なら怒りが勝っちゃうけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ!最初こそそうでしたけど、今はこうして皆さんと楽しく暮らしていますし、怒りなんて忘れちゃいました!」
トキの屈託のない笑顔に渋々了承した俺は2人で王都に向かうことにした。
コーギーとミケにはきちんと理由を説明し、留守番を任せた。
はぁ。何も無ければ良いと思います。