笑顔は美しいものだと思います。
「おい、ミノタウロス!さっきはよくもきついの喰らわせてくれたな!今度はこっちから行くぜー!」
ミノタウロスを挑発しつつ、俺はスキルを放ちながら突っ込んで行く。
「おら!これでも喰らっとけ!フレイム!ブリザード!ボルトー!!!」
あー、やっぱりめっちゃ痛い。火傷、凍傷、感電が一気にくるんだ、そりゃ痛いよ。
俺が苦痛を伴いながら放ったスキルをミノタウロスは油断なく捌いていく。
やっぱりこいつ強いんだなー。流石は魔王軍幹部ってところだな。
おっと、感心している場合じゃない。俺のとっておきを喰らわせるために今頑張ってるんだから。
「先程も思ったが、貴様のスキルは全然効かないな。面白くもない。」
おっと、ミノタウロスさん、あなたはドMだったんですかい?確かに、俺のスキルは弱いだろうけど、まさかこんなこと言うなんて、怖いわー。
俺はそう思いながらも、突撃をやめず、ミノタウロスの前に飛び込み、右手を振りかぶった。
そういや、さっきは全力でしなかったけど、これ全力でやったらどうなるんだろ?ま、いっか。その時考えれば。
俺は躊躇うことも無く、思いっきりスキルを放った。
「フラッシュ!!!」
「ぐわぁぁああ!!!おのれ、俺の目を…」
「ぎゃああああ!!!何これ、目が痛すぎるんだけど!!!」
全力で放ったフラッシュは余りにも眩い光を放ち、直接受けたミノタウロスはもちろん、目を覆った俺にまで被害をもたらした。
少しすれば、俺の視界は元に戻ったが、ミノタウロスはまだ目を覆っていた。
よし、これならいける。誤算はあったけど、大丈夫だ。
「よぉ?随分苦しそうだな。」
「なんだ、右から左、左から右に移動しながら話しているのか!?小癪な!」
「知ってるか?点Pは動くんだぜ?だからみんな数学の点Pが嫌いなんだ。」
「何の話だ!ちっ、ようやく視界が戻ってきた。どこだ!?」
「さぁ、どこだろうな?」
「くそ!また右から左に行ったり来たりしやがって!小賢しい。」
はい、ミノタウロスさんその解答は不正解ですわ。なんせ、俺ミノタウロスさんにしがみついて左右の耳の近くで話しているだけですから、残念!
ミノタウロスは辺りを見渡した後、背中の違和感に気づいた。
「そこか!」
俺が背中にしがみついていることに気づいたミノタウロスは激しく体を揺らし、俺を振り払った。
俺はミノタウロスに振り払われ、地面に倒れたがすぐに起き上がった。うん、我ながら痛いのに頑張った。
「俺の目をつぶしたところまでは褒めてやる。弱者のくせによくやったとな!しかし、その間に俺にダメージを与えなかったのはいただけんな。もう貴様のスキルの威力は知っている。好機を逃したな。」
そう高らかに宣言するミノタウロスに俺はちょいちょいと指で背後を指して教えてあげる。我ながら親切だな、俺は。と思いながら。
俺の指さす方向をみたミノタウロスはぎょっとする。
「おーい?2人ともー?準備はいいかー?」
「ああ、いつでもいけるぞ!コーヘイ!」
「最大級のものをお見舞してやるっス!」
そう、俺は確実にミノタウロスを倒せるように時間を稼いでいたのだ。
「くそが!だが、背後にいるのが貴様なのだ、前方に注意すれば良いだけのこと。」
うん、やっぱりこいつアホだわ。俺が何の策もなく、わざわざ対応できるように教えると思うか、普通?
「コーヘイ、お前も準備はいいか?」
「おう、いつでもこいだ!」
「それじゃあ、やるっスか!」
「そうだな。エクスカリバー!!!」
「グングニル!!!」
ミケが発動させたスキル、グングニルは巨大な水の槍を生成し、それを放つというものだった。
そして、コーギーのエクスカリバー。
これはこれは強力なスキルが2つ。俺が敵ならすぐさま逃げるわ。
「確かに、強力そうなスキルだが、薙ぎ払ってやる!」
「ミラー!!!」
背後の俺を全く気にしていなかったミノタウロスは俺がスキルを発動させた声に反応し、少しだけ視線をこちらに向けた。そして、またぎょっとした。
そう、俺がコーギーとミケ、2人のスキルを発動させているからだ。上手くいくか不安だったけど、神の祝福、莫大な魔力のおかげで何とかなってよかった。
背後にはありったけの魔力を込め、ミラーによって作り出されたエクスカリバーとグングニル。
前方にはコーギーとミケがそれぞれ全力でスキルを発動させている。
「ちょ、それは反則だろ!おかしいだろ、何で下等な貴様がそんなものを扱えるんだ!」
ミノタウロスは慌てふためき、口調も変化していたが、そんなの関係ない。
「ミノタウロス、お前の敗因は俺を弱者だの下等だのと見下し、相手にしなかったことだ!」
俺はそう言うとコーギー、ミケと同じタイミングでミノタウロスにスキルを叩き込んだ。
「くそが!くそがぁぁあああ!!!!!」
ミノタウロスはスキルを喰らい、跡形もなく消えた。
一時はどうなることかと思ったが、何とかなってよかったよ。さてと、後はあいつだな。俺はくるりと後ろを向き、マタタビ3世の方へと歩を進めた。
「ひぃぃ。き、貴様らに金をやろう。いくらだ?100エメマンか?200エメマンか?」
「残念だったな。俺たちにお金は必要ない。だから…。」
俺は思いっきりマタタビ3世の顔を殴った。
「これは、ミケを鎖につないでいた分。」
更に俺はマタタビ3世を殴った。
「これはミケたちネッコーカ一族を今まで奴隷にしてきた分。これはミケの生きる意味を勝手に決めた分。そんでもってこれは…俺たち家族を侮辱した分だ。」
最後の最後に俺は力を振り絞って1番強烈なのをぶち込んだ。
ふぅ。
「こんなもんじゃ怒りはおさまらないだろうけど、あんまりやり過ぎるといけないし、これくらいでいいか?」
「もちろんっス!スッキリしたっスよ!」
ミケはようやく笑顔を取り戻してくれた。
「そっか、それはよかった…」
マタタビ3世を殴り終えた俺は立ち上がった瞬間、ふらっと倒れてしまった。
「コーヘイ、大丈夫か!?」
「コーヘイ、しっかりするっス!」
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~2日後~
んー。よく寝たなー。おっと、久しぶりにやってしまった。麦わら帽子を被った主人公が初登場するシーンを真似てしまった。反省。
俺はよく知る天井を見て、安心した。
我が家に帰ってきたんだと。いやー、色々あったなー。あのあとどうなったんだろ?
こうして自分の邸で寝ているところを見ると、お咎めなしだったのかな?
まあ、後であいつらに聞いてみるか。
…ちゃんとあいつら居るよな?
「あー、疲れたっス。」
「お疲れ様。中々の量だったな。」
よかった、ちゃんと2人とも居るみたいだ。
よし…2度寝しよ。
え?起きて顔を見せに行けだって?嫌だよ、疲れたし。
あー、でも腹は減ったな。んー…。よし、ご飯を食べに行くか。
そう、これは別にコーギーとミケの顔が見たいから行くわけではない。お腹が減ったから行くだけである。誰がなんと言おうとそうである!
居間に行くとコーギーとミケがご飯の支度を整えていた。
「ようやく起きたな、コーヘイ。2日も寝ていたから不安だったぞ!」
「無事に起き上がってくれてよかったっス!それと…助けてくれてありがとうっス!」
コーギーとミケ、2人の美人の美しい顔に出迎えられた俺は少し照れくさくなった。
しかし、それを悟られないよう、素っ気なく
「うん、まあ。」
と答えるのが精一杯だった。
うん、やっぱり笑顔は美しいものだと思います。