悪いやつじゃないと思います。
俺とコーギーは早速中に入るため、門を開けた。すると門から玄関までは丸い平らな石が並べられており、横を見ると右には橋の架かった池があり、左には枯山水がある。
そして、それらを眺めるために作られた縁側も見え、一目で大豪邸とわかるくらいであった。
「すごいな、これは。ひょっとして俺、かなりの大豪邸を破格の値段で手に入れちゃったのか?」
「ああ、これは凄すぎるぞ。あの貴族の家より素晴らしいものだ。」
コーギーも興奮気味に俺に言ってきたので間違いないだろう。
そして俺たちは玄関を開け、中に入り、部屋を見て回っていた。部屋は襖で仕切られており、匠ならではのこだわりが垣間見えた。
そして襖を開けて部屋に入ると畳があった。…やばい、ニヤける。畳があるかな?と淡い期待は抱いていたけど、実際あると、なんか、こう、うん。めちゃくちゃ嬉しい。
そして次の部屋を開けた。すぐ閉めた。女の子が寝ていたのだ。
え?なんで?ここって、俺が買った家だよね?え?理解できないんですけどーー。
俺は意を決してもう一度襖を開けた。うん、やっぱり女の子が寝ている。
茶髪のショートヘアの女の子、見た目からして16、7かな?そんな子が人目を憚ることなく、大の字になって寝ている。
俺は恐る恐るその子を揺すって起こすことにした。いざとなればコーギーが居るんだ、大丈夫だろう。多分…。
「んー?誰っスか?」
少女は右手で目を擦りながら起き上がる。そしてようやく目を開けてこちらを確認した瞬間ー。
「何者っスか!?私の最高位魔法で消し炭にしてやるっス!」
といいながら魔法を放つ準備をしている。
「ちょ、待てって!」
俺が焦りながら抑止しようとすると隣からコーギーが俺にコソコソと話しかけてきた。
「おい、コーヘイ。家を買ったときにチョコから渡された契約書があるだろう?アレを見せてやれ。」
コーギーの言葉にハッとした俺は冷静に契約書を取り出すと、少女に突き出した。
一瞬変な空気が流れたので俺が一言添えた。
「ここ、今日から俺ん家なんだけど、不法侵入で警察呼ぼうか?」
少しの沈黙の後、少女は土下座した。それはもう見事な形であった。
俺がもういいから顔を上げてくれと言ってようやく土下座をやめた。
「んで、名前は?」
おっと、ここでは人に名乗る前に自分から名乗らなきゃいけないんだっけ?また同じミスをしてしまった。
「私の名前はミケっス!職業は魔法使いをしているっスよ!初級から最高位までお手の物っス!」
俺の考えすぎであった。少女…いや、ミケは自分の名前はおろか職業まで教えてくれた。魔法使い…。べ、別に羨ましくなんかないし?俺の方が金も魔力もあるし?断じて気にしていない。…気にしていない!!!
「俺の名前はコーヘイ。こっちの女性はコーギーだ。よろしくな!」
俺とミケは握手を交わした。
「で、だ。何でここにいんの?」
俺の質問にミケは慌てて答えてくれた。
なんでも住む場所なかったときに丘の上で魔法の練習をしようと来てみたらちょうど良い場所に家があって、誰も居なかったから居座っていたそうだ。幸い、貯えが少しあったため、たまに買い出しに行けば問題なく過ごせたようであった。
魔法…。コーギーは確かに初期魔法を教えてくれたし、色々強力なものは見てきた。が、俺としてはもう少し戦闘向きではない生活向きの魔法が知りたい。うーん…。
「ミケは色々な魔法が使えるのか?例えば、生活向きの魔法とか?」
「もちろんっスよ!私にかかればどんな魔法もちょちょいのちょいっス!」
よし。決めた。我ながら即決だけど、もう決めた。
「ミケ、良かったら俺たちと暮らさないか?それで、俺に魔法を教えてほしい!魔力の制御方法はコーギーに聞くとしても、生活向きの魔法がどれかわからない。だから、教えてほしい。」
俺の思わぬ言葉にミケは驚いていたが、快く了承してくれた。
「これからよろしくな、ミケ!」
「よろしく頼む。」
「はい!よろしくっス!コーヘイさん、コーギーさん!」
こうして家を手に入れてすぐ、俺たちは3人で暮らすことになった。
まあ、多分、悪いやつじゃないと思います。