第33話 ようやく気づいた自分の気持ち
「ジェイ!!」
窓から差し込む夕陽を浴びて、きらきらと黒目が輝いている。
それを見て、ようやく彼が本当に目を開けたことを確信した。
「廊下でぶつかってしまった時に約束しただろう? いつかしっかりお詫びをすると。それを果たすまでは死ねない」
「……覚えてくれていたの……?」
「正確にはついさっき思い出したんだ」
「ばか……。思い出すのが遅いんだから……」
「ごめんよ」
半身を起こしたジェイの胸の中に飛び込む。
彼の胸から伝わるほのかな温もりが、私の頬を優しく包んだ。
自然と口をついて出てきたのは感謝の言葉だった。
「ありがとう」
「何がだい?」
「町を守ってくれて」
「それが俺の役目さ。礼にはおよばんよ」
「ヘンリーを助けてくれて」
「それも約束を守っただけさ」
私は顔を上げた。
ジェイと目が合う。
見つめ合ったまま、今度は彼が口を開いた。
「そばにいてくれて、ありがとう」
私だけに向けられるはにかんだ笑み。
つんと鼻の奥に痛みが走る。
油断すれば涙があふれてしまいそうだ。
でもぐっとこらえ、声の調子を落として言った。
「約束して」
「何をだい?」
「もう無茶はしないって」
「……それはどうかな」
「ダメ。お願い」
ジェイは小さなため息をついて、苦笑いを浮かべた。
「リアーヌにはかなわないって、いい加減気づくべきだったな」
彼は微笑みながら軽くうなずいた。
それを合図に私はもう一度だけ彼の胸に顔をうずめる。
(もう離さない。離したくない)
その思いとともに、私は自分の気持ちに気づいたのだ。
私がジェイに抱いている気持ちは『憧れ』なんかじゃない。
『恋』だ――。
「大好き」
「えっ?」
ジェイの驚いた声が聞こえたところで、私は彼から離れて、くるりと背を向けた。
「イ、イザベットさんを呼んできます! ベッドを貸してくれただけじゃなく、ずっと看病してくださったんですから。ちゃんとお礼を言ってくださいね!」
「あ、ああ」
ジェイの視線が背中に刺さっているのを感じながら、私は恥ずかしさを隠すように部屋を後にしたのだった。




